諦めて、減らさない。

中谷彰宏『なぜ あの人は2時間早く帰れるのか』セレクション

更新日 2020.07.20
公開日 2017.02.07
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 仕事が増えてくると、どうしても、どれかを断念して仕事を減らそうと考え始めます。
 これをすると、すべてのことができなくなります。
 10ある仕事を、8割に減らします。
 生産性は、仕事に合わせて決まります。
 そうすると、その人は、また8割の生産性に下がります。
 64%の生産性になって、また16%積み残しが生まれます。
 6割にしたら、またさらに積み残しが生まれます。
 その結果、終わらないのです。
 仕事が増えてきても、諦めて、仕事を減らさないことです。
 諦める前に、「待てよ」と考えます。

 僕は、大阪に出張に行く前にスポーツマッサージの予約を入れます。
 ある時、スポーツマッサージ店の前でタクシーをおりた瞬間、カバンの持ち手がとれてしまいました。
 大きいカバンです。
 これから新幹線に乗って、2泊3日の出張に行くのです。
 ここで、どうするかです。
 たいていの人は、スポーツマッサージをキャンセルして、いったん家に戻って、カバンを交換して出かけます。
 これが、「仕事を減らす」ということです。
 僕は、ここでも1つ1つやっていきます。
 まず、その辺にネジが落ちていないか探しました。
 持ち手の2つのネジのうち、1つだけ見つかりました。
 それを、ポケットに入れました。
 スポーツマッサージは、キャンセルしません。
 スポーツマッサージ店でドライバーを借りて、とりあえず、1つとめました。
 マッサージしてもらっている1時間で、作戦を考えます。
 修理に出すと、1カ月返ってきません。
 その場での修理は、ムリです。
 東急ハンズに行く時間もありません。
 これと同じネジが東急ハンズにあるのは、わかっています。
 前に同じカバンのバックルがはずれた時に、そこでネジを買ったからです。
 ひょっとしたら、その時に、スペアのネジを小袋に入れてペンケースの中に入れた可能性があります。
 マッサージの前にペンケースは確認してみましたが、入っていませんでした。
 マッサージをしてもらいながら、「ペンケースはあちこち移動するから、今度からスペアのネジはカバンの一番小さいポケットに入れておこう」と思いました。
 ここで、僕の頭の中で「待てよ」というワードが出てきます。
「待てよ。今そう考えているということは、前回、東急ハンズで買ってきたネジをカバンの小さいポケットに入れているのではないか」と考えました。
 マッサージが終わってから、そこに指を入れると、小袋がありました。
「ビンゴ」と思って出したら、ネジの形状が違います。
 バックルのネジは、ナットがついているタイプです。
 持ち手のネジは、ボルトだけのタイプです。
「違ったか」と思って、とりあえず、新幹線に乗ることにしました。
 新幹線の中で、「待てよ。僕が製作者なら、そんなにいろんなネジを使い分けるだろうか。ナットがあってもボルトの太さは同じじゃないか」と考えました。
 そこで、ナットを取って、ボルトだけ入れてみたのです。
 ドライバーは、前に東急ハンズで買ったものがペンケースに入っていました。
 ボルトを入れたら、思いのほかスルッと入りました。
 または、落ちたのです。
 ネジが入るところは、肉眼では見えない位置です。
 鏡がないので、ちゃんと入っているか、確認のしようがありません。
 ここで僕は、「待てよ。鏡のかわりになるものは何かないだろうか」と考えて、ケータイの自撮りを思いつきました。
 自撮りモードで写したら、ネジはちゃんと入っていたのです。
 僕は、常に「待てよ」と考えます。
「もうダメだ」と、断念しません。
 ここから、工夫が始まります。
 工夫の始まりは、「待てよ」なのです。

(※この連載は、毎週木曜日・全8回掲載予定です。3回目の次回は、2月23日掲載予定です。)

 

中谷 彰宏 (なかたに あきひろ)

1959年、大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部演劇科卒業。84年、博報堂に入社。CMプランナーとして、テレビ、ラジオCMの企画、演出をする。91年、独立し、株式会社中谷彰宏事務所を設立。ビジネス書から恋愛エッセイ、小説まで、多岐にわたるジャンルで、数多くのロングセラー、ベストセラーを送り出す。「中谷塾」を主宰し、全国で講演・ワークショップ活動を行っている。

■中谷彰宏公式ホームページ
http://an-web.com/

作品紹介

なぜ あの人は2時間早く帰れるのか

向上心のある大人の女性に向けて、年齢を重ねても魅力的の「美人力」を提案。人気の書籍をハンディ版として新装発売。
定価:本体1300円+税/学研プラス

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