健康を意識してウォーキングを積極的に日常生活に取り入れる人たちはかなり増えました。しかし車社会の影響からか、日常で歩く機会が少ない人たちが多いのも事実です。
そもそも歩くという行為は、人間にとってどんな意味や価値があるのでしょうか。
自転車や自動車、電車など、便利な移動手段ができるまで、人間がどこかに移動するには、馬や駕籠などに乗る以外は自分の足で歩くという方法しかありませんでした。
今から160年ほど前、坂本龍馬は土佐から江戸まで、瀬戸内海を船で渡る以外の道はすべて徒歩で旅をしました。今なら飛行機で1時間20分の行程を、徒歩でおよそ1ヶ月かかって移動したのです。
昔は、歩くことができなければ食べるものを手に入れることも、仕事をすることも、誰かに会うことも、非常に困難だったのです。
人類の進化をさかのぼれば、私たちの祖先が二足歩行を始めたのが700万年以上前。ご先祖様たちは生きるためにずーっと歩き続けてきました。
そんな途方もない年月から比較すると、自転車や自動車が発明されたのはわずか200年ほど前。歩くことは、私たちの体内に宿っている遺伝子レベルでも大切な本能として存在し続けているはずです。
今現在の社会生活で、歩けなくなること=生きていけないことには、もちろんなりません。たとえ足が不自由になっても、車椅子や杖があります。また、社会全体にバリアフリーが広まりつつあるので、車椅子でも電車に乗れ、旅行にも行けるようになってきています。
しかし、自分の足で移動することならではの恩恵があります。それは、行きたいとき、行きたい場所に行ける、時間と空間の「自由」です。
「歩ける」という一見当たり前のような「自由」は、たとえば、病気やケガで失ったとき、初めてわかる有り難さなのかもしれません。
健康分野でもウォーキングの必要性は、あらゆる角度から説明されています.。
健康を維持するうえでも、健康寿命を伸ばすためにも、歩くことは人間にとっての大切な基本運動なのです。
では、歩き方にも、その効果を高めるためのコツがあるのをご存じでしょうか?
キーワードは、本書のタイトルにもなっている「体幹」です。
体幹という言葉は、スポーツ選手のトレーニング方法やパフォーマンスの重要なポイントになっていますが、実はスポーツをやらない一般の人にとっても歩き方の大切なポイントになるのです。
まずは下の表で、あなたが「体幹」を使えているかどうかチェックしてみましょう。
□ 鏡で自分の姿を見たとき猫背になっている
□ 肘を回したとき肩甲骨がうまく動かせない
□ 両方の肩甲骨にしっかり指が入らない
□ 立ち姿勢を横から見たとき、骨盤が後傾している
□ 壁に手をついて体を斜めにしたとき、体をまっすぐにできない
□ まっすぐに立って横から押されるとふらつく
□ 椅子から立ったり座ったりするとき、膝や椅子の肘掛けに手をついている
□ パソコン作業をするとき、背もたれを使ってだらしなく座ることが多い
□ 電車に乗っているとき、つり革をつかまないと立っていられない
□ 首や肩がいつも凝っている
体幹チェック、いかがでしたか?
これらのチェックで8つ以上の項目に当てはまる人はほとんど体幹が使えていません。5~6個くらいの人は要注意。もっと体幹が使えるとメリットを享受できます。
2つ以下の人は普段から体幹を使った生活をしていると思われます。
次回から、「体幹」を使った正しいウォーキングの方法を、詳しくお伝えしていきます。
(※この連載は、毎週月曜日・全8回掲載です。次回は10月16日掲載予定です。)
金 哲彦 (きん てつひこ)
NPO法人ニッポンランナーズ理事長。
1964年、福岡県北九州市に生まれる。早稲田大学時代は、名将・中村清監督の下、箱根駅伝で4年連続山登り5区を担当。区間賞を2度獲得するなど、早稲田の2連覇に貢献する。
1986年、リクルートに入社し、ランニングクラブを創設。87年大分毎日マラソンで3位、89年東京国際マラソン3位など選手として活躍。
1992年、同クラブのコーチとなり、小出義雄監督とともに有森裕子、高橋尚子などトップアスリートの強化に励む。1995年、監督に就任。
2002年、NPO法人ニッポンランナーズを創設。オリンピック選手から市民ランナーまで、幅広い層から支持を集めるプロ・ランニングコーチとして活躍するとともに、テレビやラジオのマラソン・駅伝・陸上競技中継の解説者としてもおなじみ。
ランニングやウォーキングを通した健康維持に関する講演も多数行う。
■NPO法人ニッポンランナーズ
http://www.nipponrunners.or.jp/
作品紹介
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