~ねんねの時間が幸せでありますように~ 絵本作家・植垣歩子さんインタビュー『おふとんさんがまってるよ』
『おふとんさんがまってるよ』
おふとんさんの温もりに包まれる、おやすみ絵本『おふとんさんがまってるよ』が9月28日に発売になりました。絵本作家・植垣歩子さんに、この絵本にこめた思いなどを伺いました。
内容紹介
夜になりました。そろそろねんねの時間です。ぬいぐるみのうさこちゃんやまくらさんが、ゆうちゃんを呼びにきました。でもゆうちゃんは、やーだ、まだ眠くないもん。とうとう、おふとんさんが呼んで…。おふとんさんの温もりに包まれるおやすみの絵本です。
絵本『おふとんさんがまってるよ』の作者・植垣歩子さんのメッセージ
―お子さんをどうやって寝かしつけようか、悩んでいた日々から生まれた『おふとんさんがまってるよ』
わたしにも幼児と小学生の息子がふたりいて、息子たちがほんとうに小さい頃、夫と育児日記みたいなものを書いたりしていました。簡単なメモみたいなものですけど、気付いたこととか、おもしろかったこととか、いつか絵本にしたいなあって。そんなとき担当編集のNさんが、赤ちゃん絵本を作りませんかって声をかけてくださって。下の子がまだ小さくて、育児に苦労していた時期ですね。子どもたちが寝る前におふとんの上で運動会とかして、ぜんぜん寝る気配がなくて……。もう、どうやって寝かしつけようかって、毎日悩んでましたね。「おふとんさんがまってるよ、ほら、もう寝ようよ」って話しかけることもあって。そうしたら、まくらさんも呼びにくるかしら、そうだ、大好きなぬいぐるみも呼びにきてくれるんじゃないかしら、と考えていくうちに、この絵本が生まれました。
―子育てが忙しかった時期、数年かけてお話を形にしていきました
お話の案ができたのはちょうど子育てが忙しかった頃で、しかもコロナ禍が始まって、園や学校がお休みになったりして、なかなか仕事に時間をさけない時期が続きました。自宅の引越も重なったんですね。そういうなかで、担当編集のNさんとラフのやり取りを重ね、ゆっくりとお話を形にしていきました。
―とても愛らしくリアルな植垣さんの描く子どもたち。読者からも「うちの子も、こんなふうに、おへそをつんつんするんです」などの声がありました
絵本を描くにあたっては、息子たちの写真を見返したり、お友だちの2歳くらいの子にモデルになってもらったりしました。あとは街を歩きながら、2歳くらいの子を眺めたりして。ほんとうに、子どもってひとり残らず可愛いんですよね。イヤイヤしてる子もいたりするんですけど、そんな子もみんな可愛くて。もちろん親御さんは大変でしょうけれども。そんなふうに、小さい子を実際に見て、体のフォルムを大事にして描きました。
あとは、資料として、2歳児向きのパジャマなんかも買いました。そうしたら、2歳児のパジャマってこんなに小さいんだって驚いたりして。うちの子も着ていたはずなんですけどね。そうそう、お話に出てくるうさぎの人形やまくらも母と作ってみたんですよ。やっぱり実際に、持ったときの感じとか、布の感じとか、質感が、実物を見ないとわからないなあと思って。まくらは、母が2歳児が使う大きさで作ってくれて。こんなふうに実物を見て触ったりして、だんだん、ああ、2歳児のねんねってこんなだったと思い出しました。
―眠りについた子どもを見るのは幸せだし、そういう姿を描くのはほんとうに幸せなことでした
「あかりをけしますよ、ぱっちん」って、でんきさんが明かりを消して、ゆうちゃんが寝たところが、描いていていちばん楽しいページでした。ゆうちゃんがうさこちゃんをだっこして、無の感じで、くたっと寝ているところ。子どもの寝姿って、無なんだけれど、一生懸命寝ている感じがするんですよね。そういう懸命な姿が好きで。
わたし、よく、子どもが「一生懸命寝てる」っていう言葉を使うんですけれど、子どもって、ただ寝てるだけなのに、なぜか全力で寝ている感じがするんです。まあ、寝るだけじゃなくて、子どもは何にでも一生懸命なんですけれど。この絵本でも、おふとんさんも全力でおいでよって呼んでますよね。だから、ゆうちゃんも、おふとんに行こうっていう気になるんじゃないかしら。
子どもって、エネルギーの塊だから、親も疲れちゃいますよね。寝る寸前まで全力ですし。夕方になると、親は、これから夕飯食べて、お風呂に入れて、おふとんで寝かしつけるっていう大仕事が待ってて、もう毎日、どうやって寝かしつけようかなって考えてると思うんです。それで子どもが寝たら、「やっと寝たなー」と、わたしも何か成し遂げたような気持ちになります。ほっとしながら、眠りについた子どもを見るのは幸せだし、そういう姿を描くのはほんとうに幸せなことでした。
―原画は、ものがたりの流れに身をゆだねて、1枚ずつ前のページから描いていく
わたしは1枚ずつ、前のページから描いていきます。ストーリーのあるものですし、今回の絵本は特に、画面がシンプルなので、1面1面たどるように描いていきました。ゆうちゃん、なかなか寝ないなあって思いながら描いて、ついにおふとんさん出てきたなあ、ああ、やっとあくびしたなあ、あともうひと押しだって思って。ゆうちゃんを寝かしつけるぞって。『おふとんさんがまってるよ』の表紙は最後に描きました。お話の最後に、ゆうちゃんがみんなと仲よくなったので、それで、よーし、表紙だって。
―原画を描き始めるときの準備は、これから新しい絵本の世界を作るんだ、という儀式みたいなもの
絵本の原画に入るときは、いったん部屋の掃除をして、まくら作って、人形作って、部屋がだんだんその絵本一色になっていって、ようやく原画に入るという感じなんですよ。だから、わたしが今、何の絵本を描いているか、子どもも分かるみたいですね。パジャマとか人形とかちらばっていますし。家族と食事していても、突然「おふとんさんの鼻は丸いけど、それでいいかなあ」って話しかけたりしちゃうんです。特に答えがほしいわけじゃなくて、ひとり言に近い感じで。原画に入っても、色が決まるまで時間がかかります。何パターンも塗ってみて、この配色はどうかなとか試して。
部屋の掃除をしたり、小物を用意したり、色を考えたり、こういうことが全部、新しい絵本の世界を作るんだ、という儀式みたいなものかもしれないですね。作品を、自分の思い描いたものに近づけていく楽しさがあります。
絵本は、描いていてほんとうに楽しいんです。鼻歌が出てくるくらい。でも、これ以上やると疲れるな、というときは、絵に出るからやめようって思います。そういうときは、お茶を飲んだり、お菓子をつまんだり、気分転換してます。絵を描くって、手先で描いてるんじゃない、気持ちで描いてるんだと思うんですよね。
―子どもと過ごすねんねの時間が、幸せでありますように
小さい子と寝るって、大変だけど、とても贅沢な時間だなあって思うんですね。お父さん、お母さんは忙しいと思うけれど、ねんねの時間を幸せに過ごしてほしいなって。もちろんねんねの時間だけじゃなくて、小さい子と過ごす時間って、ごはんでもお散歩でも、かけがえのない時間ですよね。だからお父さん、お母さん、子どもたちに、幸せなねんねの時間を過ごしてほしいなって思います。この絵本が、そんなひとときに読んでもらえたら、ほんとうにうれしいです。
植垣さん、すてきなお話をありがとうございました!
【植垣歩子さんプロフィール】
1978年神奈川県生まれ。和光大学芸術学科日本画専攻卒業。絵本作家。登場人物や物語の世界をユーモラスに描きつつ、どこかのんびりした画風に定評がある。主な作品に『にんじんだいこんごぼう』(福音館書店)、『すみれおばあちゃんのひみつ』(偕成社)、『アリゲールデパートではたらく』(ブロンズ新社)、「おやさいむら」シリーズ(佼成出版社)、『ようかいおふろ』(ほるぷ出版)、『かめのカメリさんおうちをなおす』(理論社)、絵を担当した作品に『おもちのおふろ』(文・苅田澄子 Gakken)などがある。
書名:『おふとんさんがまってるよ』
価格:本体1,265円(税込)
発売日:2023年9月28日(木)
判型:200×194ミリ
発行:Gakken
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