ぼくの父は、お茶目で照れ屋ですが、いったん役者のスイッチが入ると、本当にすごい。
役だけでなく私生活の人間関係から舞台の掃除の仕方まで、お客さんに喜んでもらうための努力を惜しまない人です。厳しさの中にもすごい優しさを持っていて、かなわないと知りつつも、ぼくは本気でこの父を超えたくて勝負したいと思うときがあります。
大衆演劇ではおなじみの演目、「瞼(まぶた)の母」という有名なお芝居があります。母親と生き別れになった30歳の忠太郎(ちゅうたろう)とが、母恋しさに旅をつづける話です。
途中、忠太郎と同じ年ごろの息子を亡くした娼婦を助け、「お墓参りのお線香と花を、これで遠慮なく買ってくれ」とお金を握らせ、肩をポンと叩くシーンがあります。
年老いた娼婦役は女形の父、そして若者役はぼくです。
肩をポンと叩かれると娼婦は肩を震るわせて泣くのですが、娼婦役の父の涙は当然、演技としての涙です。
「ぼくは、本気で父を泣かせるくらいのお芝居がしたい」
そこである日、父とお酒を飲んでいたとき、どうやったらあのシーンがうまくできるか聞いてみました。
もちろん父は昔からやっているお芝居だし、この若者役もやったことがある。
真剣に聞くぼくに、父は何も言わずにぼくの肩をポンと叩いたのです。
その瞬間、ぼくの目から涙が溢れ、とまらなくなりました。
ぼくはいまだにこの「父のポン」を超えられない……。
でもいつか、このポンができるくらいお芝居がうまくなりたいと願っています。
進む先には光しかない
ほかにも父にはかなわないお芝居が数多くあります。
しかし超えたいと思う半面、この人を父に決めて生まれてきたぼくはすごいのだとも思います。超えるのではなく、違う部分で勝負して、父みたいな役者になりたいと思うようになりました。
一人さんがこんなことをぼくに教えてくれたことがあります。
「父親ってね、子どもが成長できるちょうどいい距離にいてくれるんだよ。
離れている人は、なぜか離れることが子どもの成長にいいの。
近くにいる人は、なぜか近くにいることが子どもの成長にはいいんだよ。
純さんは今まで両親と一緒にいるだろう?
それは純さんの魂が学ぶのにちょうどいい距離になっているの。
人それぞれ違うけれど、お空の上で自分が幸せになるために決めてきた、いちばんいい方法なの。
だからその運命を受け入れると、必ず先が見えるようになるよ」
2011年の2月に、兄が「桐龍座恋川劇団」を辞めて出て行ってなかったらと考えるときもたくさんありましたが、この言葉を聞いてぼくは、自分が決めてきた運命を少し受け入れることができました。
そんなぼくに一人さんは言いました。
「一寸先は闇って言うだろう? あれは違うよ」
「どう違うのですか?」
「私たちは神様の愛に守られて、この世に生まれてきている。わかるかい?」
「はい、よくわかります」
「だから私たちの進む道は、一寸先は光なの。そう思ってこれから自分の人生を歩んでごらん。いいことが山ほど来るから」
「一寸先は光だと思うと、進むのが楽しくなりますね」
ぼくはこの日から、この言葉が大好きになりました。
(※この連載は、【水・金】更新、全7回配信予定です。次回は7月27日10:00頃配信予定です。)
二代目 恋川 純 (にだいめ こいかわ じゅん)
物心がついたときから舞台に立ち、9歳で副座長となる。2007年に二代目として「恋川純」を襲名し、2014年に座長に就任。芝居では二枚目から三枚目、舞踊では古典からコンテンポラリーまで幅広いレパートリーを持つオールマイティな役者。
■公式ホームページ
http://koikawagekidan.com
斎藤 一人 (さいとう ひとり)
実業家。「銀座まるかん」(日本漢方研究所)創業者。1993年以来、12年連続で全国高額納税者番付(総合)10位以内にただ1人ランクインし、2003年には、累計納税額で日本一になり注目される。著書多数。『神様に喜ばれる人とお金のレッスン』(高津りえ共著)、『斎藤一人 大開運 人生を楽しむ仕組み』(千葉純一共著)、『斎藤一人 成功の花を咲かせなさい』『斎藤一人 神様にかわいがられる豊かで幸せな生き方』(宇野信行共著/以上学研)などがある。
●さいとうひとり公式ブログ
https://ameblo.jp/saitou-hitori-official/
作品紹介
全国累積納税額日本一の大実業家・斎藤一人直伝「運命の受け入れ方と、魂の育て方」。◆一人さん書き下ろし「運命カード」付き!
定価:本体1,300円+税/学研プラス
バックナンバー
- [二代目 恋川純 ~運命~]⑦見えないパワーに感謝すること
- [二代目 恋川純 ~運命~]⑥兄がこだわるプロ意識
- [二代目 恋川純 ~運命~]⑤神様が教えてくれた自分らしさ
- [二代目 恋川純 ~運命~]③父と母を選んで生まれてきたわけ
- [二代目 恋川純 ~運命~]②舞台で感じた不思議な縁
- [二代目 恋川純 ~運命~]①運命は変えられる