新学習指導要領で示された2020年からの小学校におけるプログラミング教育必修化について、プログラミング教育とはどのようなものか、なぜ必要なのか、海外のプログラミング教育への取り組みなどにも目を向けて考えてみました。
2017年3月に文部科学省から新学習指導要領が公示されました。その中で話題になっているのがプログラミング教育の必修化です。プログラミングってどんな授業だろう、と不安に思っている保護者も多いのではないでしょうか。慌ててプログラミング教室に通わせなければ!とお考えの方もいるかもしれません。ここではこれから始まるプログラミング教育とはどういったものなのか、何をしておけばいいのかを、海外の事例なども交えながらご説明します。
もくじ
焦らなくても大丈夫!小学校で始まる「プログラミング教育」
新学習指導要領で公示されたプログラミング教育。内閣府の発表では2020年度から小学校でプログラミング学習をスタートする、となっています。
この小学校での「プログラミング学習」がさまざまな誤解を生んでしまい、中には、子どものうちからプログラマーになる勉強をするの?と心配している方もいるようです。
文部科学省の発表では、プログラミング教育の目的は、プログラミング言語を用いた記述を学ぶことではない、とされています。実際「プログラミング」という新たな教科が作られるわけではなく、子どもたちはさまざまな授業を通して、プログラミングの基礎にある「どのような動きや仕組みをつなげれば理想の動きを得ることができるかを順序だてて考える力」を深めます。
実際にやる授業ってどんなもの?
プログラマーを育てる教育じゃないとわかったところで「実際の授業はどんなもの?」という疑問はなくなりませんよね。残念ながら、これはまだ完全に決まってはおらず、各教育現場で検討中の課題です。一律に日本中すべての学校が同じようにプログラミングを学ぶのではありません。
例えば、算数の図形の授業で、パソコンやタブレットのデバイスなどを使い、さまざまな図形を書くプログラムを動かしてみたり、理科の授業で電気製品に使われているプログラムとその動作の仕方を学んだり、といった授業が考えられます。
国語の授業で、説明文がどのように順を追って人の疑問を解決していくか、といったフローチャート(手順や手続きの流れなどを視覚的に分かりやすく伝えるための図)を作ることも、論理的思考を学ぶプログラミング学習の一つとして考えられるのです。
実際に生活科の授業でiPadを使い、自分が書いた絵を動かしながら生徒同士がコミュニケーションをとったり、工作の時間にノートパソコンと教育版レゴを使ってレゴを指示通りに動かしながら、災害救助ロボなどの仕組みを理解するといった授業が試験的に行われています。どれも、通常の授業と、どういった指示や操作を組み合わせれば自分が思うような動きが再現できるか、というプログラミングの要素を合わせて学ぶ内容になっています。
もちろん高校などでは、今後プログラマーが使うようなプログラミング言語を学ぶことも想定されていますが、小学生に関しては「楽しくてわくわくする」といった子どもが積極的になれる授業方法に重点が置かれています。
なぜ今プログラミング教育なの?
いずれ人工知能の台頭で多くの仕事が人々の手から奪われるともいわれています。人工知能の進化や、インターネットの効果的な活用による情報化の進展はこれからますます加速していきます。子どもたちが将来どんな仕事に就くときでも必要になるのが以下のような力です。
・どのような動きや働きの要素を組み合わせれば、自分が考える理想の状態を得られるのかを論理的に考えられる力
・たくさんの情報の中から必要な情報を見出し、情報を読み解く力
・パソコンやスマートフォン、タブレットなどの情報機器を適切に活用し、解決すべき課題や解決の方向性を論理的、創造的に見出す力
・学んだことを活かそうとする感性
これらの力は、プログラミング教育を通して育むことができます。プログラミング教育は子どもたちの今後のためにも、なくてはならないものなのです。
海外のプログラミング教育の状況は?
あまり日本人になじみのないプログラミング教育。小学生にはちょっと早すぎるのではないか、と思っている方もいるかもしれません。しかし、海外ではもっと早くからプログラミング教育推進の動きが進んでいます。
例えば、ケンブリッジ大学やオックスフォード大学といった歴史ある大学を多数抱えるイギリスでは、1995年からコンピューター操作を教える「IT」という教科があり、それが刷新される形で2014年からプログラミング教育が必修化されています。初等教育の段階から、仕組みの理解、プログラムの作成とエラーの修正、情報技術の安全な利用法、コンピュータネットワークの理解などを学び、中等教育ではプログラミング言語などを学びます。
IT先進国が多いとされる北欧ですが、フィンランドではなんと1980年代から、学校や企業、政府、非営利団体が、プログラミングやソフトウェア開発スキルを習得する多様な場を市民に提供してきました。
多くの国がすでにプログラミング教育をスタートさせています。そこで重視されているのは情報化社会において正しい知識と、それを使いこなす力を育む、という点です。初等教育では複雑なことではなく、子どもが取り組みやすい簡単な情報機器の操作や仕組みの理解を中心に授業が行われています。
2012年に「プログラミング教育推進プログラム」がスタートし、子どもたちが初等教育からIT関連の知識・スキルを習得していくエストニアでは、国を挙げてIT化が推進されています。議会選挙をはじめ、税金の申請、病院の予約や住民登録まですべて自分のIDとインターネットでできる国です。やがて日本もそうなったとき、その仕組みを理解し、使いこなす力が必要となります。
子どものうちからプログラミング教育を受けることは決して珍しいことではなく、すでに海外では当たり前のことになっているのです。
家庭でできるプログラミング教育への準備ってなに?
プログラミング教育が必要とされている理由や、小学生で学ぶべきことが難しいことばかりではないということがお分かりいただけたでしょうか。
家庭でできるプログラミング教育への準備もあまり難しく考える必要はありません。まずは子どもの興味関心に合わせながら、ご家庭でスマートフォンや、パソコンを子どもと一緒に使ってみる、ということも学校での学習に備えた準備となります。焦って難解なプログラミングを教えるのではなく、まずは子どもと一緒に「使って楽しい」、「できてうれしい」、といった情報機器をつかう喜びを味わってみてはいかがでしょうか。
子どもの興味関心に合わせて、少しずつ内容を高度なものにシフトさせていくことが飽きずにプログラミング教育を続けていけるポイントになるはずです。自宅でプログラミング学習をして、実際に論理的思考に関して学んでみたいという方はぜひ利用してみてください。
<ご参考>
●参考:無料でプログラミングを学べるオンラインサイト
プログラミン (http://www.mext.go.jp/programin/)
文部科学省が提供している子ども向けのプログラミング学習サイト。ビジュアルプログラミング言語のScratchに似ており、命令をブロックのように積み上げて直感的に操作します。
ライター 岸本 由紀
中学校の国語教師を務めた後、子育てに専念。 幼少のころから、二人の息子のスイミングやエレクトーン、部活動などを積極的にサポート。子どもたちは生き生きと学生生活を送り、勉強だけではなくバスケットの県大会や野球の甲子園に出場するなど、しっかりとした成績を残した。子育てが落ち着いた今も、教育関連に高い関心をもつママライター。
関連コラム
・子どもを有害サイトから守る、保護者によるフィルタリングって、どうやってやるの?
※このコラムは、「ガッケン!ハッケン!学研ゼミ 保護者のよみもの ハッケン!みっけ!」に掲載されていたものです。
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