私たちはなぜ、 すぐ行動できないのか?

茂木健一郎『結果を出せる人になる!「すぐやる脳」のつくり方』セレクション

UPDATE 2020.07.29
公開日 2015.05.06

 世の中には、二通りの人間がいます。

 何に対しても素早く決断して行動できる「すぐやる」人間、そしてもう一方が、なかなか物事を決められず、考えすぎて動けない「すぐやれない」人間です。
 ビジネスの世界において、つねに結果を出し続けている人が前者であるということは言うまでもありません。
 では、「すぐやる」「すぐやれない」という差はどこから生まれてくるのでしょうか。
 実はそこには、脳の働きが大きく関係しています。
 すぐに動けない人の原因を、脳科学的にご説明しましょう。
 それは意外なことに、脳が正しく働いているためなのです。
 すぐに動けない人とは、脳の前頭葉が指示通りに機能して、抑制が利いてしまっている人のことです。
 たとえば、小さな子どもの目の前にお菓子を置いたとします。当然ですが、子どもはお菓子を食べたくてうずうずします。ここでお母さんが「このお菓子は三時になるまで食べちゃだめよ」と言って聞かせたとします。
 すると子どもの脳に「三時までお菓子を食べてはいけないんだ」という脳の抑制が起こり、実際に「お菓子を食べない」という行動を取るというわけです。これはすべて、脳がしっかりと働いている証拠です。
 実はこの現象は、大人の脳でもまったく同じなのです。
「なぜ、日本人はすぐに決断し、行動に移せないのか」

 以前から繰り返し議論されている問題です。この理由もまた、真面目な日本人が、きっちりと集団の決まりを守るところからきているのです。

「実行に移す前に、まずは慎重に検討しなければならない」

「これが重要なことは理解できるが、常識で考えた場合……」
 あなたの周囲で、こんな言葉が交わされてはいないでしょうか? こうした集団の“決まり”が脳の「抑制」となり、私たちの行動にブレーキをかけてしまうのです。
 私たち真面目な日本人の脳が有効に働いているからこそ、すぐやれない「ぐずぐず脳」になってしまう。まったく皮肉な結果です。

 けれどもこれからのグローバル社会において、私たちは大胆に決断し、仕事の処理速度を高め、結果を出していかなければなりません。大胆な決断力と実行力は、いったいどうすれば手に入るのでしょうか。

真面目に生きるほど、行動力が失われる時代

 人間の脳には「すぐやる脳」と「ぐずぐず脳」がしっかりと共存していて、「すぐやる脳」の活性化は、脳の抑制を外せるかどうかにかかっています。

 これを「脳の脱抑制」と言います。
「やろうと思っている、けれどもなかなか行動に移せない……」と悩んでいる人は、決して「すぐやる」ことが苦手なわけではなく「脳の抑制の外し方」を知らないだけなのです。

 それはある意味当然のことです。なぜなら、脳の抑制の外し方を、日本人は学校や会社で学んだり、実践していないからです。

 そもそも学校ではペーパーテストで決められた答えを出すことにより、いい点数を稼ぐことが最優先されてきました。先ほどの子どもとお菓子の例のように、「こうして回答しなさい」「こんな答え方では点はあげられません」と言い聞かされ、それを忠実に守ってきたのです。

 そして会社に入れば、厳格化していくビジネスルールやコンプライアンスが脳の抑制となってしまうわけです。
「部署間での連携をとった上で実行しなさい」
「リスク対策をしっかり取って、OKなら実行しなさい」
 こんなふうに、行動が大幅に制限されるようになってしまいました。
 もちろんそれは決して悪いことばかりではないのですが、結果として、誰かの指示を待つことで自分の決断や行動にストップをかける癖がついてしまっています。
 つまり現代のビジネスパーソンは、前頭葉をちゃんと働かせて「お菓子は時間が来るまで食べちゃダメ」という指示を守ることはできるのですが、そうして“真面目”に脳を働かせた分だけ、素早い決断や行動ができなくなっているのです。
 これは非常に困った事態です。ルールに忠実に、堅実な仕事をしている人ほど、今の社会では行動力が減退していくばかりなのでしょうか……。
 けれどもこうした現代のビジネスシーンでも、大きな成果を出して成功しているトップランナーたちがいます。
 自らの経験・知見を集約して素早く決断し、プレッシャーをものともせずに素早く行動し、前人未到のイノベーションを実現しています。
 私はこれを、彼らが脳の抑制を外すことに成功した成果だと考えます。
 あなたの工夫次第で、脳の抑制は外すことができるのです。

 

茂木健一郎 (もぎ けんいちろう)

1962年東京生まれ。 東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。 理学博士。脳科学者。
理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職はソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。 専門は脳科学、認知科学であり、「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに、文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。
2005年、『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞を受賞。 2009年、『今、ここからすべての場所へ』(筑摩書房)で第12回桑原武夫学芸賞を受賞。
主な著書として、『結果を出せる人になる!「 すぐやる脳」のつくり方』『もっと結果を出せる人になる! 「ポジティブ脳」のつかい方』(ともに学研プラス)、『人工知能に負けない脳』(日本実業出版社)、『金持ち脳と貧乏脳』(総合法令出版)などがある。

 

作品紹介

結果を出せる人になる!「すぐやる脳」のつくり方

過重なストレスと処理すべきタスクに溢れた現代を生き抜くには「すぐやる脳」が必要だ!脳科学者・茂木健一郎流・行動力強化術。
定価:本体1,300円+税/学研プラス

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