第7回 入江 悠(いりえ・ゆう)

私の1冊 インタビュー 入江 悠

更新日 2020.07.16
公開日 2014.10.14
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何か1つ好きなものがあれば
生きて行けるんだって思った1冊

 「私の1冊」は、水木しげる先生の漫画『猫楠―南方熊楠(みなかたくまぐす)の生涯』です。

猫楠 南方熊楠の生涯
水木 しげる・著
角川文庫ソフィア

 これは南方熊楠(みなかた・くまぐす)さんという、明治時代に活躍した実在の学者のことを描いた伝記漫画です。この人は何をした人かと言うと「菌」の研究ばっかりずーっとやり続けた人なんです。カビとかそういった粘菌類のことをひたすら調べていた。地味ですよね(笑)。でも、当時誰も気にとめなかった「菌」というものになぜか夢中になってしまい、極め尽くした結果、イギリスに渡ってその成果が認められたり、天皇陛下に会うほどの人になったんです。

 すごい人なんですけど、漫画に描かれている人物像を見ていると本当にダメ人間なんです(笑)。彼自身、言動や性格がかなり奇抜だったので、たくさんの伝説が残っています。たとえば、家では1日中全裸で過ごしているし、蟻に刺された陰部が腫れ上がった原因を探るために、もう1度蟻に刺されようと自分の陰部にきな粉や砂糖を塗って庭でずっと横になる実験をしたり……面白いでしょ? やってることはすごい馬鹿らしい(笑)。でも僕は、すごいロックだなと思いました。「こういう生き方っていいな」って、かっこいいと感じた。ダメ人間でも、何か1つでも好きなものがあったら生きていけるんだということをこの漫画から学びましたね。

 熊楠さんと今回の映画『日々ロック』の主人公・日々沼は少し通じるところがあるんです。売れなくてお金もなくてヘタレの日々沼がロックだけをひたすら信じているように、熊楠さんもなぜかカビに興味を持って、周りになんと言われようと追い続けた。水木しげる先生がこの漫画を描いたっていうのが、またいいんですよね。水木先生も“妖怪”というものにどっぷりハマった人物じゃないですか。きっと、熊楠のことが好きになったんでしょうね。この漫画も『日々ロック』も、なんだかわからないけど何かに熱くなってた時代のことを、見る人みんなに思い出させてくれる作品だと思います。

 

入江 悠(いりえ・ゆう)

1979年生まれ。埼玉県出身。日本大学芸術学部映画学科卒業。埼玉でくすぶるヒップホップグループの青春をリアルに描いた『SRサイタマノラッパー』で、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2009オフシアター・コンペティション部門グランプリなど数多くの賞を受賞。2009年、日本映画監督協会新人賞を受賞。テレビドラマやMVなど活躍の場を広げている。音楽映画は今作が5本目。来年は映画『ジョーカーゲーム』が公開予定。

ノライヌフィルム(オフィシャルサイト): http://www.norainu-film.net/

僕らのモテるための映画聖典  http://bmes.blog.fc2.com/

 

 

日々ロック
入江 悠・監督
榎屋 克優・原作

「僕にとって5本目の音楽映画になるのですが、雨を降らしたり火をつけたり嘔吐したり……僕の中の小学生みたいな部分を出し切って馬鹿なことをやり尽くしました。これを超える音楽映画はもう作れないかもしれない(笑)。

売れないヘタレロッカー・日々沼拓郎が音楽の道を突き進むという物語ですが、彼らが目指すのは大きなロックフェスに出ることでも、武道館ライブをすることでもありません。音楽が好きで、どう向き合っていくのかということを純粋に追求しているんです。日々沼を演じるにあたって、主演の野村周平くんはかなり追い込まれたと思います。だけどそれが、演奏は下手なんだけど勢いはあって、見ているうちに不思議と格好よくなっていく、そんな日々沼の姿に繋がったと思います。

若者の話ですが大人にもぜひ見てほしいですね。昔、音楽をやっていたり、爆音で音楽を聴いていた時の、熱い気持ちを思い出してもらえればうれしいです」

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