vol.5 最初のインタビュー。
『浅田真央 さらなる高みへ』メイキング・ブログ
某ホテル。窓の遠景に、建設途中のスカイツリーが見えた。取材場所は、ホテルの一室。緊張加減にあいさつをすませ、菓子折りを渡す。
「わぁ、ありがとうございます! いま、食べましょ、食べましょ!」
そのひと言で、一気に空気がなごんだ。こちらが緊張加減だったのを
気づいてか気づかないでか、包み込むような、穏やかな雰囲気でわたしたちを迎えてくれた。
インタビューは、バンクーバー後のオフの話から入った。17年ぶりに家族と行ったハワイ。ウミガメと泳いだ沖縄の海。映画や本にもっと触れて感性を磨いたいと思っていること。
その日のインタビューの中心テーマである、バンクーバーでのことに話題が移った。吉田さんは立ち上がる。身振り手振りで真央さんの演技を再現しながら、場面場面の心情を聞いていく。狙いは、演技中のリアルな描写のためである。演技をどう描くのかが今回の本の重要なポイントの一つであった。
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浅田 「こうやって(位置に)立つんですよ。この時は普通だったんですけど、こっちに立ったとたんに、心臓が」
吉田 「鳴ってた!」
浅田 「ドクン、ドクン、としてて、『うわあ、自分、やばい』って思って。正直、最初出遅れたんですよ、いつもより」
吉田 「え!?」
浅田 「(曲を歌って)ダーン、いつもはこうなんですけど(「ダ」でのけぞり)、ダアーン(「ア」でのけぞり)になっちゃって。こうやって、ドクン、ドクンってしてたんで、ああどうしようやばい、あ、鳴った、出なきゃって。で、出たんですけど、そこで、『あ、よかったここで失敗しといたから』って思えたんですよ」
吉田 「なるほど、言われてみればそんな気もしないでもなかったです」
浅田 「だからちょっと、ひやっとしました。心臓が痛かったんですよ、あの時」
吉田 「痛かった……痛いくらいドクドクなってた……」
浅田 「あれでちょっとびっくりしました」
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2時間ほどで、最初のインタビューは終わり、その後、吉田さんと喫茶店で話をした。
「吉田さん、いいインタビューになりましたね。そもそもその空気をつくってくれたのは、真央さんの持つ、人を安心させるような雰囲気でしたけどね」
「そうですね。そして、確かに、『マッチョで猛々しい雰囲気』とは程遠い」
「自然体。やわらかい。そして、ピュアでまっすぐ。どうしてあんな子が生まれて、そして、今日まで、ああしたままでいられるんでしょう。はじめ、20年を描くのは長すぎるかもしれないとも思ったんです。しかし、これはやはり、『誕生』から描き、そのなぜに向かい合わないと、答えは導き出せないでしょうね」「
やっぱり、『誕生から』ですね」
「そうですね。異論はありません」
◆メイキングのメイキング
このvol.5は非常に緊張しました。そして、時間がかかってしまいました。
vol.1の頃と違い、このメイキングブログを見ていただいている方が、とんでもない数になっていたこともありましたし、なにしろ、ご本人登場の回でもあったからです(Wさん、お忙しいなか、原稿のチェックをありがとうございます)。
このvol.5で伝えたかったのは、真央さんのまっすぐでピュアな姿に触れて、20年間を描くことへの決意を新たにしたことと、演技中の描写を試みたということでした。そして、もうひとつは、インタビューの内容がどう物語に組み込まれたか。そのビフォーアフターを一部だけでもお伝えしたかったというのがあります。