アドラーが打ち立てた心理学は、一般に「アドラー心理学」、正式には「個人心理学(Individual Psychology)」と呼びます。人の心理的過程は「individual =分解できない」個人から始まるというアドラーの考えからこの名がつきました。ただし「社会心理学」の対義語ではありません。またアドラーは、私たちが個々の人間について知るには、人間が決定と選択の能力をもち、自ら選んだ目的や目標に向かって生きるという点を理解しなければならない、と考えました。
すべての生き物は目標を追求しているのです。特に、人間に関していえば、その人の目標を知らなければ、その人の行為や行動を理解することはできない。
(ルドルフ・ドライカース『アドラー心理学の基礎』からアドラーの言葉)
「人間の活動のすべては、目的や目標を追求している」。これが正しいとすると、人間の活動や精神を理解するには、その人がもつ目的や目標を明らかにする必要がある、とアドラーは考えたわけです。
このように、アドラーが人間をとらえる態度は、きわめて目的論的だと言えます。目的論とは、人間の活動をはじめとしたさまざまな現象を、その目的によって説明する態度を指します。これに対して、何らかの原因を根拠に現在や未来を説明する態度を決定論、あるいは機械論と言います。目的論と決定論の立場は極めて対照的です。
次回、目的論と決定論の違いについてお話しします。
中野 明 (なかの あきら)
ノンフィクション作家。1962年、滋賀県生まれ。立命館大学文学部哲学科卒。同志社大学非常勤講師。「情報通信」「経済経営」「歴史民俗」の3分野をテーマに執筆活動を展開。
著書は『超図解 勇気の心理学 アルフレッド・アドラーが1時間でわかる本』『超図解 7つの習慣 基本と活用法が1時間でわかる本』『一番やさしい ピケティ「超」入門』『超図解「デザイン思考」でゼロから1をつくり出す』『超図解 アドラー心理学の「幸せ」が1時間でわかる本』(学研プラス)ほか多数。
作品紹介
フロイト、ユングと並ぶ心理学の巨人、アルフレッド・アドラーが説く「幸せ」の要点を、短時間で一気に理解できる超図解本。
定価:本体1,200円+税/学研プラス
バックナンバー
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