「劣等感」こそが成長の原動力

中野 明『超図解 アドラー心理学の「幸せ」が1時間でわかる本』セレクション

更新日 2020.09.18
公開日 2016.07.07
  • Facebook
  • LINE
  • Pinterest

 前回と前々回では、人の行動や精神を理解するには、その人がもつ目的あるいは目標を知らなければならない、という話をしました。
 人がもつ目的には、適切なものもあれば不適切なものもあります。遊ぶ金が欲しいがために他人から盗んだとしたら、これは明らかに「自分勝手=不適切」な目的に基づいた行動です。では、そもそも人はどのようにして、目的や目標をもつようになるのでしょうか。
 この問いに対する有力な回答の一つに、アドラーがことのほか注目した「劣等感」があります。
 私たちの身体的特徴や能力は千差万別です。そのため他人と比較したとき、誰にでも劣っている能力や性質が必ず存在します。これを「劣等性」と呼びます。
 自分のもつ劣等性を意識したとき、人はこれに対して多様な判断を下せるでしょう。このとき、自分がもつ劣等性に負い目や恥を感じると、否定的な感情が生じます。このネガティブ感情が「劣等感」です。
 アドラーが劣等感に注目したのは、劣等感が人間の成長の原動力になるからです。人間を他の動物と比較した場合、身体の大きさや運動能力、牙や爪といった殺傷能力など、人間より優れた能力をもつ動物が多数います。こうして人間は生まれつき他の動物に対して
劣等感を抱くようになります。
 しかしこのままでは生存競争に敗れてしまいます。そこでこの劣等感を克服するために、人間は集団を形成しました。集団でかかれば身体の大きな動物を敵にしても戦えます。また、どう猛な動物から身を守るためにも、1人より集団でいるほうが有利でしょう。
 つまり、私たちが集団を形成するのは、人間が太古の昔からもつ基本的な傾向であり、それは他の動物よりも身体的に劣っているという劣等感の克服から生じたものだと考えられます。この劣等感の克服のことを「補償」と呼びます。

 次回に続きます。

中野 明 (なかの あきら)

ノンフィクション作家。1962年、滋賀県生まれ。立命館大学文学部哲学科卒。同志社大学非常勤講師。「情報通信」「経済経営」「歴史民俗」の3分野をテーマに執筆活動を展開。

著書は『超図解 勇気の心理学 アルフレッド・アドラーが1時間でわかる本』『超図解 7つの習慣 基本と活用法が1時間でわかる本』『一番やさしい ピケティ「超」入門』『超図解「デザイン思考」でゼロから1をつくり出す』『超図解 アドラー心理学の「幸せ」が1時間でわかる本』(学研プラス)ほか多数。

 

作品紹介

超図解「21世紀の哲学」がわかる本

フロイト、ユングと並ぶ心理学の巨人、アルフレッド・アドラーが説く「幸せ」の要点を、短時間で一気に理解できる超図解本。
定価:本体1,200円+税/学研プラス

バックナンバー

関連コンテンツ

  • Facebook
  • LINE
  • Pinterest

あわせて読みたい