「いいお金の使い方」を 心がける

井上裕之『たった一度の人生を、自分らしく思い通りに生きる方法』セレクション

更新日 2020.07.17
公開日 2015.02.13
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 お金を手に入れるのは、なまやさしいことではありません。
 先年亡くなった父に心から感謝しているのは、経済的にあまり不自由を感じることなく育ててくれたことだけではありません。お金を手に入れるにはそれだけの苦労をしなければならないと身をもって教えてくれたこと。これに対しても本当にありがたいと思っています。
 会社を経営していた父は朝早くから夜遅くまで駆けまわり、誰に対しても腰が低く、怒りを見せたことがありませんでした。なみたいていの努力ではできることではないでしょう。
 父だけでなく、組織で働いている人も、起業した人も、フリーランスでがんばっている人も、誰でも、「お金を手に入れるのは大変だなあ」と思った経験があるでしょう。
「お金を稼ぐのは大変なこと」と考えれば考えるほど、質素な生活を心がけ、節約しようと思うようになるでしょう。けれども、その結果、生きる意欲まですり減らしてしまうようでは、本末転倒です。
 豊かに稼いで、つつましい暮らしを心がけ、ここぞというときに使う。理想ではありますが、なかなか到達できる境地ではありません。でも、昭和の高度成長期に、そんな人生を送る人がいたことをご存じでしょうか。
 土光敏夫(1896〜1988年)がその人。石川島播磨重工業、東芝が経営危機におちいったとき、どちらもみごとに立て直し、経団連会長となって、第一次石油ショックでぐらついた日本経済の立て直しにも力を発揮しました。
 さらに1980年代になって、コメ・国鉄・健康保険の「3K」赤字の解消に大ナタをふるい、「行革の鬼」と呼ばれるほどの行動力を発揮し、国の財政再建にも大きな功績を残しています。

◎お金を最高に活かす使い方とは

 土光には、もう一つ、有名な呼び名があります。「メザシの土光さん」がそれ。
 財界総理と呼ばれた土光の私生活は、横浜市の郊外にある小さく粗末な家に住み、散髪は息子に頼み、普段着のズボンのベルトは使えなくなったネクタイというもの。
 NHKが土光の特番を撮影したときの夕食はメザシとみそ汁、漬物だけ。そこから「メザシの土光さん」と呼ばれるようになったというわけです。
 この放送を見て賛否両論が巻き起こります。なかでも多かったのは「みなが土光さんみたいにつつましい生活をしたら、日本経済は不況になり、失業者が増えてしまう」というもの。これに対して、土光はこう反論しています。
「ぼくがカネをためて、タンスの引き出しにしまい込んでいるならともかく、ムダなことをしないだけで、使うべきところには使っている」
 土光は大企業のトップにふさわしい給料を得ていましたが、その大半を橘学苑という教育機関の運営に使っていたのです。
 橘学苑は土光の母・登美(とみ)が、太平洋戦争中に、「国を救うには愚に走らせない国民づくりが必要。それには、しっかりした女子を育てなければならない」と設立した学校です。しかし、学校経営は本当に困難な仕事です。土光は「なんとしても母の理想を貫きたい」と、学苑の経営を支えつづけたのです。
「質素に暮す」ことが本意だったわけではなく、お金をムダにすることなく、こうして「いい使い方をする」。
 土光は、それが大切なお金を最高に生かす使い方だと伝えたかったのではないでしょうか。

 暮らしは低く、思いは高く。

ウィリアム・ワーズワース(1770〜1850)詩人

 イギリスの詩人・ワーズワースは、『ロンドン・1802年』という詩のなかで「Plain living and high thinking =暮らしは低く、思いは高く」と高らかにうたっています。
「個人は質素に、社会は豊かに」
 行革の精神を問われたときに答えた土光のこの言葉は、ワーズワースの詩を彷彿とさせます。これも、母の教えだったそうです。

井上 裕之 (いのうえ ひろゆき)

歯学博士、経営学博士、コーチ、セラピスト、経営コンサルタント、医療法人社団いのうえ歯科医院 理事長。
島根大学医学部 臨床教授、東京歯科大学 非常勤講師、北海道医療大学 非常勤講師、ブカレスト大学医学部 客員講師、インディアナ大学歯学部 客員講師、ニューヨーク大学歯学部 インプラントプログラムリーダー、ICOI国際インプラント学会指導医、日本コンサルタント協会 認定パートナーコンサルタント。世界初のジョセフ・マーフィートラスト公認グランドマスター。
1963年、北海道生まれ、東京歯科大学大学院修了。歯科医師として世界レベルの治療を提供するために、ニューヨーク大学をはじめ、ハーバード大学、ペンシルバニア大学、イエテボリ大学など海外で世界レベルの技術を取得。 6万人以上のカウンセリング経験を生かした、患者との細やかな対話を重視する治療方針も国内外で広く支持されている。
また、医療に関することだけでなく、世界中のさまざまな自己啓発、経営プログラム、能力開発などを学びつづける。成功法則の権威ジョセフ・マーフィー博士による「潜在意識」と経営学の権威ピーター・ドラッカー博士による「ミッション」を総合させた「ライフコンパス」を提唱。
現在はセミナー講師としても全国を飛び回り、会場は常に満員。2012年8月に東京・日本青年館で1,000名の講演を実現し、2014年には日比谷公会堂で1,200名を超える伝説のセミナーを成功させている。

 

作品紹介

たった一度の人生を、自分らしく思い通りに生きる方法

何のために働くのか。目標に向かい生きる充実した日々は、どうすれば手に入るのか――。人生の答えを求めて毎日を真剣に生きる人々に向け、歯科医師でありセラピストである著者・井上裕之が贈る渾身のメッセージ、そして「自分の価値観」を磨くためのヒント。

定価:1,300円+税/学研プラス

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