次に、相手が「他者中心」で 生きる理由を理解する

石原加受子『「とにかく優位に立ちたい人」を軽くかわすコツ』セレクション

更新日 2020.07.17
公開日 2017.10.05
  • Facebook
  • LINE
  • Pinterest

◆「他者中心」の人が、何かと争いがちな本当の理由
 この「他者中心」の意識と「自分中心」の意識は、自分の土台ともいうべき初期設定が正反対なので、そこから生じる言動も、正反対となるでしょう。
「自分中心」の人は、「我慢するから、争いになる」のだと知っています。これは、我慢すると自分の感情が抑え込まれてしまい、それがいつか爆発して争いになるという考え方です。
 一方、「他者中心」の人は、「我慢しないと、争いになる」と思い込んでいます。
 これは、そもそも人と人の間には利害関係があり、それが我慢することで対立せずに済んでいるという考え方です。
 そのため、他者中心の人にとって、「争わない」というのは「我慢する」ということと同じです。他者中心の人にとって、「争わない」ことと「我慢しない」ことが矛盾しないで存在する世界があるというのは、とうてい信じ難いことなのです。
 だから、自分が我慢できなくなったときは、争うときです。
 自分を守るために、相手と争ってでも優位に立とうと必死になるのは、他者中心の人たちにとって当たり前のことなのです。
 もちろん、そんな相手に対し、こちらも負けずに「優位に立とう」とするならば泥仕合です。お互いに争い、傷つけ合うことになるでしょう。
 では、そんな好戦的な相手に対して、自分中心で「我慢しない」かつ「争いにもならない」方法などはあるのでしょうか?

◆「優位に立ちたい人」は、なぜ「他者中心」の人生を生きるのか
 他者中心の意識を、自分の人生の初期設定に据えた人は、絶えず他者と自分を比較して、優劣や強弱を競い合いながら生きることになります。
 多くの人たちが、こんな他者中心の生き方を目指すのは、初期設定がすでに他者中心になっているからという理由だけではありません。
「優位に立てば、自分の人生が有利に展開する、自分の望むことを達成できる、成功できる、幸せさえも手に入る」と、思い込んでいるからでしょう。
 確かに、「優位に立っている」と見える人たちを他者中心的な価値観で見れば、自分と比較して、優れているように映るかもしれません。
 実際に、「優位に立ちたい人」は、職場でも目立ちます。我が物顔でその場を仕切っていても、騒動を起こしたくない人は黙認するでしょう。
 傲慢な態度で恫喝されれば、恐怖心から黙って従うしかありません。もちろん内心では、あの高慢な鼻をへし折ってやりたい、一泡吹かせてやりたいと思ったり、激しい憎悪をたぎらせていることもあるでしょう。
 その半面、自分もあんな立場に立てれば気分がいいだろうなあと、優位に立ちたい人を羨む気持ちも内在しているかもしれません。

◆親から見下された経験が、現在の言動に影響している
 けれども彼らは、本当に、そうした“強い人たち”なのでしょうか。
 他人の心の内とは、自分がその立場になってみなければ、案外、わからないものです。
 たとえばあなたは、優位に立っている人たちの、あるいは「自分が優位に立っている」と思い込んでいる人たちの、相手を見下したような視線や態度に接して、自分の自尊心を打ち砕かれたり、惨めな思いを味わわされたことがあるかもしれません。
 では、あなたが今ここで、
「『優位に立ちたい人』はほぼ例外なく、子供のころに、自分の親や家庭の誰かに見下されたり、自尊心を打ち砕かれた経験がある人たちである」
 という真実を知ったとしたら、どうでしょうか。
 もともと、優位に立ちたい人の心の中は、決して私たちが思っているほどに平和でも、快適でもありません。
 相手を見下したり、馬鹿にするような態度を取る人は、幼少期に家庭で同様の高圧的な対応を取られていたことが多いのです。
 もしも、自分を見下してくる彼らにも、傷ついた過去があるのだと知ったら、あなたはどんな気持ちになるでしょうか。少し、彼らへの見方が変わってくるかもしれません。
 あなたが今、その人によって傷ついているとしたら、その相手もまた、過去に誰かによって同じように傷ついてきた、あるいは今も傷ついているということなのです。
 
 けれども、優位に立ちたい人が、過去に自分がされたのと同じ対応を、今、身近にいる人間にしたからといって、一瞬、復讐を果たしたような満足感が満たされることはあっても、それで自分の過去が癒やされるわけではありません。
 そんな根深い癒やされない過去を抱えている相手に対して、「人を見下さないように」と説教したとしても、
「はい、わかりました」
 と、簡単にやめられるものではないこともおわかりだと思います。
“何が何でも、とにかく”優位に立ちたい人ほど、自分の根っこにそんな重い経験が深く刻まれているのです。
 そんな相手だと承知していれば、あなたが同じ土俵で勢力争いをしてみても、結局は傷つくばかりだと知れるでしょう。

(※この連載は、毎週木曜日・全8回掲載予定です。次回は、10月12日掲載予定です。)

 

石原 加受子 (いしはら かずこ)

心理カウンセラー。
「自分中心心理学」を提唱する心理相談研究所オールイズワン代表。日本カウンセリング学会会員、日本学校メンタルヘルス学会会員、日本ヒーリングリラクセーション協会元理事、厚生労働省認定「健康・生きがいづくり」アドバイザー。 思考・感情・五感・イメージ・呼吸・声などをトータルにとらえた独自の心理学をもとに、性格改善、親子関係、対人関係、健康に関するセミナー、グループ・ワーク、カウンセリング、 講演等を行い、心が楽になる方法、自分の才能を活かす生き方を提案している。
『母と娘の「しんどい関係」を見直す本』(学研プラス)、『仕事・人間関係「もう限界!」と思ったとき読む本』(KADOKAWA)、『わずらわしい人間関係に悩むあなたが「もう、やめていい」32のこと』( 日本文芸社)、『金持ち体質と貧乏体質』(KKベストセラーズ)など著書多数。

 

作品紹介

  • Facebook
  • LINE
  • Pinterest

あわせて読みたい