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ゆっくり心を培っていけば、
人生は小さなきっかけで変わり始めます
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「空が青くて、気持ちがいいなあ」
「今日もお茶がおいしいなあ」
あなたには今、こんなふうにホッとひと息つける時間がありますか?
30代の頃の私は、そんな時間をずっと忘れて過ごしていました。
みずから望んで僧侶になったものの、病気で6年の間に2度の手術を経験し、毎日体調は絶不調。そのうえ、プライベートでも問題を抱え、八方ふさがりの状況にあったのです。
それまでは笑うことが大好きだったのに、何を見ても笑顔になれません。
目の前の人が笑っていても、「この人は本当に心の底から楽しく笑えているのだろうか」と不思議でした。
僧侶としてのあり方を模索していた時期でもあり、「自分は何を間違えたのだろう」と、自問自答する日々でした。
そんなときは、外界から隔てられ、防音装置のついた部屋に入ったように、心が何も感じられないものでした。当時は、晴れ渡った空や星々を見て心の底から美しいと思うことも、何かを食べておいしいと感動することもなく過ごしていた気がします。
始めから重い話になってしまいましたが、苦労話や不幸自慢をしたいわけではありません。
どんなことがあっても、心は意外に丈夫です。
「もうダメかな」と思ったとしても、自分でもびっくりするくらいの力があり、逆境をはね返すしなやかさがあります。まず、このことをお伝えしたいのです。
あなたにも、「この状況は、どうやったら変わるだろう」と、もどかしく思うことがあるかもしれません。また、表向きの人生は順調だけど、「毎日、なんだか満たされないな」と感じているかもしれません。
そういうときは、無理をしなくても大丈夫。深刻になることもありません。
人生は、本当にささいなきっかけで変わります。私の場合も、そうでした。
1度目の手術を受けたものの体調はすぐれず、私生活も平穏といえない日が続いていた頃のこと。ある日、病院からの帰りにタクシーに乗りました。
その日は運悪く、信号は全部赤。もうアパートは目の前という最後の信号にさしかかったときも、信号は黄色でした。でもそのとき、運転手さんはブレーキではなくアクセルをブンと踏んだのです。
後部座席の私は、「え、これってアリなの!?」と驚きました。
もちろん、歩行者がいなかったとはいえ、社会的にはNGです。でもこのとき、心の中で大きなブレイクスルーが起きました。その頃の私は、いつも「こうでなければならない」「こうあるべき」と、自分で自分を規制して生きていました。
しかし当時、その考え方が大きなひずみとなって、自分自身を苦しめていると気づき始めていたのです。私は、こう思いました。
「もう勇気を出して、今まで決めていた枠を外すときかも」
心の変化は、木の芽が徐々に芽吹くように、ゆっくり、でも確実に進みました。
そして、2度目の手術を受けることになったとき、「生き方を変えよう。何が起きても絶対に大丈夫だから」と思えるようになったのです。
そう思えたのは、支えてくれた人たちのおかげです。
また、師や経典から学んだ仏教の智慧のおかげです。
苦しいときは、普段の元気な自分だったら通り過ぎてしまう言葉に癒やされ、励まされます。人のあたたかさや思いやりが胸に響き、普段は気づけないことに気づけます。そして、試行錯誤する中で、大きな学びが得られます。
だから、人生を変える大きなチャンスなのです。
私も、友だちの何気ない一言や仏典の中の一文に、勇気づけられました。
急ぐ必要はありません。心を、ゆっくり育んでゆけばいいのです。
(※この連載は、毎週月曜日・全8回掲載予定です。次回は4月23日掲載予定です。)
緑川 明世 (みどりかわ みょうせい)
作品紹介
苦しみから自由になる「道」がある――。心をゆるめ、心身をすこやかに育む、人生100年時代に役立つ生き方のヒント。
定価:本体1,300円+税/学研プラス
バックナンバー
- 何歳からでも、よい習慣を始められる
- 1分間の瞑想で、心が元気になる
- 最初の一歩を踏み出せるのは、自分だけ
- 人生は、リミットレスで充実させることができる
- 心に、少しずつ「よい種」を植える
- 幸せの種は自分の中にある
- あなたの心には、 決して折れないしなやかさがあります