550編を超える応募作品の中から、古都こいとさん(東京都)の「如月さんちの今日のツボ」(長編作品)が大賞を、やす ふみえさん(千葉県)の「まよいねこトラと五万五十五歩」(短編作品)が優秀賞を受賞
小川未明文学賞は、上越市出身の児童文学作家、小川未明の文学精神を継承し、新しい時代にふさわしい創作児童文学作品を輩出する目的で、平成3年に創設されました。
新潟県上越市と小川未明文学賞委員会が主催し、株式会社Gakkenが協賛しています。
今回は全553編(短編作品309編、長編作品244編)が集まり、その中から、古都こいとさん(東京都)の「如月さんちの今日のツボ」(長編作品)が大賞を、やす ふみえさん(千葉県)の「まよいねこトラと五万五十五歩」(短編作品)が優秀賞を受賞。大賞受賞者には、賞金100万円と記念品の『定本小川未明童話全集』(大空社)が、優秀賞受賞者には賞金20万円がそれぞれ贈られました。さらに、両受賞者に記念品『限定本 眠い町』(DVD付、架空社)が贈られました。
第32回となる今回の贈呈式は、コロナ禍での限定的な開催を経て、およそ6年ぶりとなる2024年3月27日に学研本社ビルの会場に受賞者や出席者らが集い、開催されました。式は、小川未明文学賞委員会の菊永副会長のあいさつに始まり、上越市の中川市長と小川未明文学賞委員会の宮川会長、株式会社Gakkenの五郎丸社長からの祝辞、そして最終選考委員の講評を経て、受賞者お二人への賞状・記念品の贈呈が行われました。
大賞に選ばれた「如月さんちの今日のツボ」は中学2年生の男の子・如月青葉(きさらぎあおば)が主人公の物語。5年前に交通事故で母親を亡くし、鍼灸師の父親と弟二人と共に暮らしている青葉は、実は自分だけが父親と血のつながりがないことを、ぼんやりと認識しています。そんな青葉の視点から、弟たちとの関わりの中で、少しずつ家族のつながりに思い至る様子があたたかく描かれた作品です。
最終選考委員を務める小川未明文学賞委員会の宮川会長は、大賞作品について「明るく軽快で、楽しい物語。登場人物の心がツボの名前を通して、身体のこととして語られている点が作品に深みを与えていた」と評しました。
同じく最終選考委員の作家・中島京子氏は「登場人物の家族それぞれにスポットライトが当たるように描かれており、構成がとてもしっかりしていた。主人公のティーンエイジャーらしい、屈折とまっすぐさを持つキャラクター描写も本作の魅力」と評しました。
大賞受賞者の古都さんは、「受賞の知らせを受けた場所は、勤務先の鍼灸院だった。主人公と同世代の、10代の患者さんや、そのご家族と向き合う中で生まれたのが今回の作品。いただいた賞を励みに、今後も創作活動を続けていきたい」と、作品が生まれたきっかけや今後の抱負を語りました。
また、優秀賞に選ばれた「まよいねこトラと五万五十五歩」はトラねこの「トラ」と「尺取虫」が織りなす、生き物の不思議をテーマにしたユニークな物語。
最終選考委員を務める小川未明文学賞委員会の宮川会長は、優秀作品について「前年以上に短編候補作品に力作が多かったが、意外なキャラクターの組み合わせと緻密な構成、そして鮮やかな結末に魅了された」と作品を評しました。
同じく最終選考委員の作家・中島京子氏は「一見、主人公になりにくい存在と思われる尺取虫が、見事に読み手の心をとらえていた。大賞作・優秀作ともに明るく、励まされるような作品。また受賞者お二人とも、自身のキャリアや専門領域を作品の題材にしていることが選考後に分かり、とても面白いと感じた。子ども達は、物語の中に描かれる、真実味や本質を感じさせる部分にも魅力を感じるのではないか」と評しました。
優秀賞受賞者の、やすさんは大学で生物学・生命科学を教えている自身の仕事を踏まえ「私ならではの強みを活かした物語をこれからも作っていきたい」と、受賞の喜びや今後の抱負を語りました。
受賞者挨拶の後にはアトラクションとして、最終選考委員を務める上越教育大学教授・小埜裕二氏による「小川未明と宮沢賢治、二人の童話作品における接点と転機」をテーマとした講演が行われました。次に、小川未明の作品『月とあざらし』をもとにした創作フラメンコが、ARTE Y SOLERA 鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコ舞踊団により披露されました。劇中では最終選考委員も務める詩人・小川英晴氏による詩の朗読もあり、美しくも哀しい『月とあざらし』の世界観に会場が包みこまれました。
大賞作品は今年11月ごろ、Gakkenより書籍として刊行される予定です。
小川未明文学賞の募集開始や過去の受賞作に関する情報は、下記ホームページよりご覧ください。
■上越市ホームページ(小川未明文学館)
■小川未明文学賞ホームページ(Gakken)
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