現代の子どもたちに届ける“リアル科学体験”!『学研の科学』復刊プロジェクトのひみつ(後編)

『学研の科学』復刊! 編集部メンバーインタビュー

公開日 2022.07.22
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『学研の科学』編集部 休刊から12年の時を経て、いよいよ2022年7月に復刊した『学研の科学』。「水素エネルギーロケット」という魅力的な実験キットにとどまらない、本誌の魅力と復刊に至るまでのインサイド・ストーリーをお届けする。

前編はこちらから

 後編では復刊チームが新たに提供するオンラインコミュニティの全貌など、『学研の科学』がもつ新たな展開とその”ひみつ”を紹介していく。

 招集された7名のうち、旧「科学」編集部を経験しているのは、編集長の吉野を含め3名のみ。そのほか4名は、社内の別部署から招集された個性豊かな面々だ。

子どもたちが実験結果をシェア!? “新たな科学メディア”を展開する役目

あそぶんだ研究所(コミュニティサイト)担当 田中大介

▲あそぶんだ研究所(コミュニティサイト)担当 田中大介

 水素エネルギーロケットには、科学の不思議が詰まっている。

 読者となる子どもたちに、実験キットを通じて、さまざまな不思議を発見してもらい、「なぜ?」をたくさん見つけてもらうことを狙いとしている。

 だが、そうした「なぜ?」は、一方通行のコミュニケーションとなる本誌だけでは解決しないこともある。

 そこで、子どもたちの疑問の受け皿として、オンラインコミュニティ「あそぶんだ研究所」を、『学研の科学』の発売と同時にオープンした。

「あそぶんだ研究所」

「あそぶんだ研究所」スマホ画面

「あそぶんだ研究所」

 この「あそぶんだ研究所」のコンテンツ制作の中心にいるのが田中大介だ。元水族館のイルカトレーナーであり、板橋区の環境学習施設「エコポリスセンター」の副館長で環境学習指導員だったこともある異色の経歴を持つ。

「『あそぶんだ研究所』では、科学って楽しいんだ! と思ってもらえるようなコンテンツを増やしていきたいと思っています。コンテンツを楽しんでもらいながら、より好奇心を膨らませるきっかけの場、満たせる場になることを目指しています。

 さらに、キットを使った実験結果を、子どもたち自身がオンラインでシェアできるような場にもなる予定です。

 これまで、読者である子どもたちと編集部とのつながりは、本を購入してもらった時点で終わっていました。でも、子どもたちが発見したり感じたりした不思議や疑問は、購入し体験してからが本番で、さらに広がっていき、増えていくはずです。そうした子どもたちの不思議や疑問に、寄り添っていくような場所にしたいと考えています」(田中)

「目指すのは子どもたちの好奇心に伴走する、視覚でもわかりやすいコンテンツ」

あそぶんだ研究所(コミュニティサイト)担当 栗山佳恵

▲あそぶんだ研究所(コミュニティサイト)担当 栗山佳恵

 田中とともに、「あそぶんだ研究所」の運用を担当するのが、栗山佳恵と平谷だ。栗山は田中同様、前職では、エコポリスセンターの環境学習指導員を務めていた。

「『あそぶんだ研究所』では、『やってみ実験室』というコーナーを用意しています。ここでは、おもに動画コンテンツを中心に配信します。

 田中、平谷、わたしの3人が中心となって企画を考え、撮影だけでなく出演や編集も行います。例えば、水族館や科学館の裏側を探検しに行ったり、『科学』の昔の実験キットを使ったり、今後出てくる実験キットの遊び方の提案や、ライブ配信によるワークショップなども予定しています。

『学研の科学』に連動させたコンテンツはもちろんですが、それに限らず、より科学に興味を抱いてもらえるような、多様なコンテンツを提案していきたいと思っています」(栗山)

 栗山は指導員の頃も、子ども向けのワークショップを行っていた。そこでは、子どもたちのリアルな表情を見ながら説明していたという。そうした表情を見ているなかで、「今の説明だと分からなそうだな」と感じれば、即座に「じゃあ、もっと詳しく見せるね」といった展開が可能だったと話す。

 今回の動画コンテンツの作成にあたっては、そうした経験を活かして、視覚でも分かりやすい説明を心がけているという。

 これから始まる「あそぶんだ研究所」は、子どもたちの反応を見ながら、内容も動画での説明もバージョンアップされ、変わっていく。読者である子どもたちとの接点を増やしていき、それが本誌の制作にも活かされていく。

 最終的には、「あそぶんだ研究所」も『学研の科学』も、科学が好きな子どもと大人が一緒になって、作り上げていく新たな場となるのだ。

見えない壁に「子どもたちを取り残さない」という“GKスピリット”

“生え抜きの科学っ子” 西脇秀樹

▲“生え抜きの科学っ子” 西脇秀樹

 前述したように、「学研の科学」編集部7名のうち4名は、社内の別部署から集まった。例えば副編集長・柿島は、エンタメ誌や女子中学生向けの雑誌、幼年誌など、さまざまな部署で経験を積んできた。

「いろんな編集部で常に感じてきたのが、“GKスピリット”です。今回、『学研の科学』を作ることになり、ついにその“源流に来たんだな”という想いがあります」(柿島)

 GKとは「(学研の)学習と科学」を指す社内用語。柿島によれば、学研社内のどの部署へ行っても、かつて「学習と科学」編集部にいた先輩や上長がいるのだという。その「学習と科学」から受け継がれてきた、本を作る上での掟のようなものが「GKスピリット」だ。

 具体的にどんなことなのだろうか?

「どの部署でも感じてきたのは、“読者である子どもたちに優しい”ということ。子どもの目線とか、子どもの理解度などを、置いてけぼりにしないという意識が、すごく強いんです。それが誌面の見せ方や、何かを説明する際の道筋の作り方などに現れます。編集部の会議で、科学編集部に長くいる編集長の吉野や、西脇などに、ページ制作に関して相談すると強く感じますね」(柿島)

 そんな柿島に対して、科学編集部に長く在籍し、部内では兄貴的な存在だという西脇は、GKスピリットについて、どう感じているのか?

「私はずっと科学編集部にいるからか、GKスピリットの考え方が無意識下に刷り込まれているのかもしれません。この創刊号も、手に取った子どもたちに水素エネルギーロケットの実験キットを存分に遊んでもらうためには、どんなことに注意を払うべきかを、さまざまな角度から考えました。

 実験キットは子ども自身が組み立てるようにしたいですよね。けれど、スムーズに作れる子どもがいる一方で、組み立てられない子どもがいたら、やはりかわいそうだなと。購入していただいた全員に作ってもらって、ちゃんと遊んでもらいたいですね。実験キットの組立説明書の説明方法が、だんだんと細かくなっているというのも、そうした想いが形になっている部分かもしれません」(西脇)

 組立説明書については、編集部員全員が実験キットを組み立てながら、ゲラの内容をチェックしていくという。分かりづらいところはないか? もっと分かりやすい表現は? これで、だれか取り残されるようなことは起きないか? などと、編集部総掛かりで取り組むのだ。

「基本はイラストを追っていくだけで組み立てられるようにしています。そのうえで、文字を読むとさらに作りやすい、という構成です」(西脇)

 もちろん、すべての漢字にはルビが振ってあり、小学校の低学年でも読んでいける。組立説明書を見るだけで、幾重にもセーフティーネットが張られているのが分かり、“子どもを取り残さない”という編集部の強い意思を感じる。こうした想いは、誌面全体に及んでいるのだ。

「『学研の科学』の原動力は、“子どもたちが喜ぶ顔を見たい”という信念」

編集長 吉野敏弘

▲編集長 吉野敏弘

 新たに復刊される『学研の科学』は、これまでの学研が培ってきた知見に、これからの学研ともいえる、新たに加わったメンバーのアイデアが盛り込まれている。

 そして、これまでの「科学」のアイコンともいえる存在が、元「科学」編集長の湯本博文氏だと、現編集長の吉野敏弘は言う。

「湯本さんは、社内で“学研のエジソン”と呼ばれていて、長く『科学』の編集長を務められ、その後も『大人の科学』や『科学のタマゴ』などの科学キットの制作でも、中心にいた方です。復刊するにあたっては、まっさきに湯本さんへ相談しにいきました」(吉野)

 湯本氏と『学研の科学』復刊にふさわしい実験キットは何かを話しあっているときに出てきたアイデアが、水素ロケットだったという。

「水素ロケットといっても、今回の実験キットとはだいぶ違うものでした。製品化しようとしたら価格が何万円にもなるだろうといった、湯本さんが数年前から温めてきた、ぶっとんだ構想だったんです(笑)」(吉野)

「こちら『学研の科学』、笑顔の子どもたち応答せよ」“学研のエジソン”の情熱をのせて

「こちらヒューストン、世界最小のロケット基地」企画書

▲「こちらヒューストン、世界最小のロケット基地」企画書

 湯本氏が最初に書いた企画書が残っている。

 企画案のタイトルには、「こちらヒューストン、世界最小のロケット基地」と記されていた。

「この企画の何がぶっ飛んでいたかというと、“物理的なロケット打ち上げをデジタル制御で行う組立キット”という、難易度も販売価格もどちらもすごく高くなるアイデアだったということです。ロケットには複数のセンサーが搭載されていて、発射角度や水素の注入や充填量の計測を、一切機体に触れず行います。普通、ロケットの実験キットと言えば、“君も宇宙飛行士になろう!”といったノリが多いですけど、湯本さんの構想は、宇宙飛行士ではなく、子どもたちに管制官の役割を担わせるというものだったんですね」(吉野)

 これは湯本自身が試作し、既にパソコン用のプログラムも、機能するものとして製作されていたという。

「この試作をもとに、『学研の科学』として子どもたちに届けたいものは何かを話し合いました。センサーは本当に必要か。センサーの代わりに子どもたち自身が目で見て確かめることができればそっちの方がいいのではないか。電気分解は電源を使うことが多いが、それだと実感が少ない。手回し発電機で自ら電気を起こし、水素を発生させた方が体験が強いのではないか。水素を安全に爆発させるのは当然だが、燃焼炎は見せたい。発射管はどの程度のサイズだと適当か。何か月も『学研の科学』用に湯本さんと一緒にテストを重ねて、ついに完成したのが、今回の水素エネルギーロケットなんです。本当に天真爛漫に『子どもたちが喜ぶ顔を見たい』と言い続けている人でした。そのためなら、いくらでもわがままに付き合ってくれたし、もうこれでだいじょうぶといってもしつこく改善案を考えていました。

 だから、水素エネルギーロケットの完成を、一番と言っていいくらいに楽しみにしていたのが、湯本さんなんですよね。だから湯本さんは、仲間と言ってはおこがましいですけど、欠かすことのできない編集部のひとりです」(吉野)

“学研のエジソン”湯本博文氏

▲“学研のエジソン”湯本博文氏

 しかし湯本氏が、新生『学研の科学』と、水素エネルギーロケットの完成を見ることは、叶わなかった。

 量産品の製造の第一歩ともいえる、金型から起こした最初のテストモデルが上がってくる直前に急逝したのだ。

 湯本氏が何年も実現を夢見ていた「こちらヒューストン、世界最小のロケット基地」は「学研の科学 水素エネルギーロケット」となり、子どもたちが組み立て、飛ばし、笑顔になれる実験キットとなった。

 湯本から吉野らに引き継がれ、復刊を遂げた『学研の科学』。

 子どもたちが楽しみながら、知的好奇心を膨らませていく実験キットとコンテンツを、これから数多く生み出していくだろう。

 未来の世界をつくっていく子どもたち。彼らの目をキラキラさせる最初の1ページは、いまはじまったばかりだ。

(取材・文=河原塚 英信 撮影=多田 悟 編集=櫻井奈緒子)

『学研の科学 水素エネルギーロケット』

『学研の科学 水素エネルギーロケット』 水素エネルギーと宇宙。10年後の未来を感じさせてくれる実験ロケット。手回し発電機で水素を発生させ発射。室内で安全に楽しめる。若田光一宇宙飛行士のインタビューや実験アイデアがたっぷりの本誌に加え、大人気のまんがひみつシリーズがまるごと1冊入り。

詳しい記事はこちらから

■書名:『学研の科学 水素エネルギーロケット』
■編:学研プラス
■発行:学研プラス
■発売日:202277
■価格:2,970
円(税込

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クリエーター・プロフィール

『学研の科学』編集部

『学研の科学』編集部

(左から)
<田中大介>あそぶんだ研究所(コミュニティサイト)担当 大阪府出身
<栗山佳恵>あそぶんだ研究所(コミュニティサイト)担当 茨城県出身
<前澤一樹>キット記事の当 愛知県出身
<吉野敏弘>編集長 埼玉県出身
<柿島 霞>副編集長 埼玉県出身
<平谷美咲>まんが記事担当 広島県出身
<西脇秀樹>生え抜きの科学っ子 埼玉県出身

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