本屋さんのココ【第3回】「本屋さんとイベント」本屋B&B

UPDATE 2020.07.20
公開日 2014.11.15

 

今回のテーマは「本屋さんとイベント」。下北沢にある本屋B&B(以下、B&B)のオーナーである内沼晋太郎さんにお話を伺いました。B&Bは2012年7月のオープン以来、毎日かかさずイベントや講座を開催しています。またイベント以外にも、「ビールが飲める」「家具が買える」といった特徴も。

実は松井と、代官山 蔦屋書店に引き続き今回も一緒に回ってくれた秋山史織さんはB&Bのインターンスタッフとして、イベント運営の経験があります。そのせいか、会話は具体的なイベント運営やインターンの話にもなりました。

「イベントってどうやればいいの?」「毎日やるって大変じゃない?」「本屋さんのイベントはどういうものなの?」。そんな疑問に答えていただきました。

 「本屋さんのココ」では私と一緒に毎回色々な人に実際に“本屋さん”を楽しんでもらいながら読者の視点にたったレポートも加えてお伝えしていこうと思います。

取材日:2014/10/17

取材:松井祐輔、秋山史織
写真:片山菜緒子

構成:松井祐輔

毎日やるとイベントが日常になるんです

 

松井・秋山:今日はよろしくお願いします。

内沼:よろしくお願いします。ふたりともインターンをしてくれているから、具体的な運営は僕に聞かなくても十分、詳しいんじゃないの(笑)。

松井:いえいえ(笑)。今日はその経験もふまえながら、改めてイベント運営についてお聞きしたいと思います。まずはB&Bでイベントをやろうと思った経緯について教えてください。イベントは2012年7月のオープン以来、1日も欠かさず開催していて、特に「毎日やる」ことにはオープン時からこだわっていらっしゃいますね。

内沼:そうですね。「毎日やる」ことでイベントが日常になるんです。そのほうがお客さんとスタッフ、両方にとって良いと思ったんですよ。例えば週1回しかイベントをやっていなかったとしたら、イベントがある日が「特別な日」です。お客さんの立場から見ると「今日はB&Bでイベントをやっているんだ」という印象です。それが毎日やっていると「今日は“何の”イベントをやっているんだろう?」という考えになりますよね。毎日イベントをやっていれば、イベントがあるかどうかではなく、何のイベントをやっているかを気にしてもらえるようになる。そうなると「今日はちょっと時間があるな」というときに、B&Bのことを思い出してもらいやすくなると思うんです。そのためには毎日やっていないとダメなんですよね。だから「お客さんにとってB&Bのイベントを日常にする」という狙いがありました。

 それはスタッフにとっても同じで、週1回のイベントだとイベントがある日が「大変な日」になりますよね。イベント作業が普段の仕事に上乗せされてしまう。でも毎日やっていればそれは日常、普段の仕事になるんです。

 お客さん、スタッフ両方にとってイベントが日常になったほうが「強いな」と思ったんです。だからB&Bの企画段階から毎日イベントをすることにこだわりました。最初は週1や週3から始めて、慣れてきたら回数を増やしていけばいいんじゃないか、という意見もあったんです。でも最初から「毎日やる」ことを打ち出したほうが良いと思って今のやり方になりました。実際にやってみて、確かに苦労は多いですがオープンから今まで毎日イベントを続けられているし、やって良かったと思います。

松井:毎日イベントをするほうが「強い」というのは、どういうことなんですか。

内沼:それが「売り」になるということです。単純に「毎日イベントをするなんてすごいですね」って言われるんですよ(笑)。例えば前回「本屋さんのココ」で取材していた代官山 蔦屋書店や、最近できた新潮社の旧倉庫を改装した「la kagu」。すでに本に関わるイベントをする場所はあったし、今でもどんどん増えています。でも「毎日やる」ことを公言している本屋さんはまだB&Bだけなんです。やっぱりみなさん、「毎日やるのは大変だ」と思っているんですよね。

 本屋さん以外だったら、寄席は毎日落語をやっているし、ライブハウスも毎日ライブをやっていますよね。だから毎日企画して、毎日イベントをするのはできない仕事じゃない。本屋でやっているところがないだけなんです。だからイベントも含めて、本屋の仕事として日常にしてしまえば毎日できる、と思いました。

 できるようになれば他にやっているところがないから、単純に差別化になります。それにイベントに来るお客さんにとっても安心ですよね。行ったら必ず何かをやっているので、安心して立ち寄れる。今日はどっちかな、と考えなくていいわけですから。実際に、イベント常連のお客さんもいらっしゃいます。

 

 それとイベントをきっかけにB&Bのことを知ってもらえる、という強みもありますね。B&Bは30坪の小さな店です。下北沢駅南口徒歩30秒、といってもメイン通りから外れた路地の2階。簡単に、ふらりと立ち寄れるような立地じゃないんです。それにB&B自体はよくメディアにもご紹介いただいているので、存在を知ってくださっている方は多いと思うんですが、実際にわざわざ店まで行くとなるとそれなりにハードルが高いですよね。知っているけど、まだ行ったことがないという人も多い。イベントはそういう人が最初にB&Bに来るきっかけにもなります。

 B&Bではあくまで本を売るのがいちばんの目的で、そのためにイベントをしているんです。だから本屋としてのB&Bを知ってもらうために、イベントをする。それは集客の入り口という意味でも強さになります。イベントを毎日やっていることやビールが飲めることが目立って話題になるので、実際にいらしたことがない方からは、本はおまけで、しっかりやっていないんじゃないか、と思われていることもあるんですよ。

秋山:インターンをしていても、お客さんから「カフェですか?」と聞かれることがありますね。

内沼:いわゆる書店らしい什器は使っていないので、パッと見でそう感じる人がいるのは仕方ないですね。けれど、イメージだけでそう思っていた人がイベントをきっかけに実際に店に来て、本棚を見てくれる。そこで「いい本屋だ」と思ってもらえれば、今度はその人も本を買いにB&Bに寄ってくれるようになる。毎日イベントをすることは、本を売るためにも強みになると思います。

 

松井:「日常になる」というのも面白いですね。イベント企画も本屋さんがフェアを考えるときと同じ感覚で普段の仕事にしていく、ということなんでしょうか。

内沼:もっと日常の仕事ですね。本屋さんのフェアも毎日入れ替わるわけじゃないですよね。あえて例えるなら、平台の商品を入れ替えるような仕事。本屋さんは常に新刊の入荷があるから、普段の仕事として平台の本を入れ替えていますよね。その仕事って日常すぎて特に意識していないと思うんです。でも平台は“毎日入れ替わって”いるんですよ。そういう感覚です。その「毎日」という要素が、お客さんへのサービスや、イベント集客、B&Bという場でのコミュニケーション、店に関わる全てのことに影響を与えていると思います。

本屋でイベントをする楽しさ

松井:本屋さんでイベントをする、ということについてはどうですか。本屋さんでのイベントと他の場所でのイベント、同じ企画でも違いが出てきますか。

内沼:それは違いが出ると思います。これもお客さんと企画者両方の側面で違いがありますね。

 まず企画者にとっては、企画のしやすさが違います。ブッキング、登壇者へのお声がけのしやすさ、とも言えますね。B&Bでのイベントは出版記念イベントが基本です。もちろん他のイベントスペースでも出版記念イベントはできるんですが、著者の方や出版社にとって、本のイベントは書店でやるほうがやりやすいし、自然だと思うんです。本も売りやすいですしね。

 例えば、B&Bのオープン初日のイベントには勝間和代さんに来ていただいたんです。僕らも特別なつながりがあるわけではなかったので、勝間さんの公式サイトにある「お問い合わせフォーム」から企画書を送って、それで出演していただいたんですよ。勝間さんほどの方であれば、普通に考えて講演会1回のギャラは数十万円とか、場合によってはそれ以上でしょう。でもB&Bの最大50人規模という会場では、もちろんそんなに謝礼はお支払いできない。それでも受けていただけたのは「本屋のイベント」という部分が大きかったと思います。本の出版記念であれば、プロモーションの一環として、著者の方にも来ていただきやすい。会場の規模や予算に比べて、いろんな企画が立てやすいという側面があります。

 お客さんにとってはシンプルに、本好きの人に楽しい空間を提供できる、ということがありますね。少し早く来れば本棚を見ながらイベント開始を待つことができるし、イベント後もB&Bならビールを飲みながら本を見ることができる。単純にイベント関連以外の本も買えます。それに本に囲まれている空間って、やっぱり楽しいじゃないですか。

秋山:それは私もお客さんからよく言われます。

内沼:やっぱり本好きの人は、本に囲まれた空間が好きなんですよ。「数がある」ということ自体がお客さんを楽しませる要素になると思うんです。本だけじゃなくて、例えばケーキ屋さんでたくさんのケーキがショウケースに並んでいると、それだけでワクワクしますよね。本好きの人にとってたくさん本がある空間はワクワクする。だからこそ本屋さんで本に関するイベントをする楽しさがあるんだと思います。

では、どうやって毎日イベントを企画しているのか?

実際に運営してきた経験もお聞きする、第3回「イベント企画で気をつけていることは何ですか?」に続く。

 

松井 祐輔 (まつい ゆうすけ)

1984年生まれ。 愛知県春日井市出身。大学卒業後、本の卸売り会社である、出版取次会社に就職。2013年退職。2014年3月、ファンから参加者になるための、「人」と「本屋」のインタビュー誌『HAB』を創刊。同年4月、本屋「小屋BOOKS」を東京都虎ノ門にあるコミュニティスペース「リトルトーキョー」内にオープン。

 

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