「最初の一歩」を踏み出せるかどうか。人生はほとんどこの一瞬に決まります。
多くの人は、はじめは「これしかない!」と思っていたのに、いつのまにか他人の意見のほうをより現実的で、賢いものだと思うようになってしまうのです。
せっかく踏み出そうと思っていた考えは、いつのまにか、「お蔵入り」。
一歩を踏み出すとき、強いブレーキになるのが「常識」です。いえ、「常識だと思い込んでいること」。世間ではみな、こう考えているんだろうな、とか、こう考えるのが普通でしょう、というような思い込みです。
時には、常識なんかにこだわらないで、もっと自由に考えてみませんか。まわりの考えに左右されることはありません。
まわりの考え方を受け入れ、そのうえで自分らしく進んでいく姿勢。これが本当の、自由で柔軟な生き方です。
人間はいかに円くても、
どこかに角がなければならぬ。
渋沢栄一(1840〜1931)幕臣・官僚・実業家
世界に誇る日本の技術というと、新幹線やLED技術など、工業技術ばかりを考えるでしょう。でも、実はもっとも身近な、世界を支える技術があるのです。
それはインスタントラーメンとカップめん。どちらも、日清食品創業者の安藤百福(1910〜2007年)が、常識を超えた発想で、たったひとりで開発したものです。
百福がインスタントラーメンを開発しようと思い立ったのは戦後まもないころ、巷に飢えている人があふれているのをみたことがきっかけでした。
「衣食住というが、食がなければ衣も住も、芸術も文化もあったものではない」
そう思ったといいます。
戦後まもない時代に、「お湯をかけるだけでおいしいラーメンになる」といわれれば、「まさか、魔法じゃあるまいし」。常識ではそう考えるでしょう。
しかし、そんなラーメンがあったらどんなにいいだろう。そう思った百福は「魔法のラーメン」の開発に取り組むのです。
理事長をしていた信用金庫がつぶれたところで、全財産を失って無一文。そこで、自宅の庭に物置同然の小屋を建てました。スタッフは百福ひとり。お金がなかったので、人をやとうこともできません。
何度も何度も失敗しては、別の方法を試してみる、のくりかえし。ところがある日、奥さんがてんぷらを揚げているところをみて、突然、ひらめきます。
めんを高温の油に入れると水分がはじき飛ばされ、めんに無数の穴が開く。そこにお湯を注げばその穴からお湯が吸収され、めんがやわらかくなる。ここに気づいたことによって、お湯を注ぐだけでできる魔法のラーメン「チキンラーメン」がついに完成したのです。
1958年6月、試食販売に踏み切ったところ、用意した500食はあっというまに売り切れ。問屋から注文が殺到し、チキンラーメンの需要はまさに爆発。想像を超える大ヒットになります。
できるかどうかわからない、でもあったら面白い――。そんな発想を、世の人々は待っているのです。
◎常識を超えたとき、世界は大きく変わる
それから10年あまりを経た1971年、百福はまたしても、常識をやぶる発明で世界をあっといわせます。容器つきのインスタントラーメン「カップヌードル」の誕生です。
この破天荒な製品のアイディアを得たのは1966年、百福がチキンラーメンの売上拡大のためにロサンゼルスのスーパーを訪れたときのことでした。バイヤーに試食を頼んだところ、彼らは明らかに困っていました。めんを入れるどんぶりがなかったのです。
少しして、なかのひとりが紙カップを持ってくるとチキンラーメンをカップに入れ、お湯を注いでフォークで食べはじめました。
これをみた百福は目からウロコが落ちる思いでした。めんはどんぶりで食べる。これは日本人の常識にすぎません。めんをカップに入れれば、お湯さえあれば、世界のどこでも食べられます。
そこから先も、常識が壁になったところはいくつもありました。いちばん大きな常識やぶりの工夫は「中間保持」。容器にめんを入れるのではなく、めんにカップをかぶせる。この方法で、カップ内にめんを〝宙吊り〟にするというアイディアです。
このアイディアのおかげで輸送中もめんが粉々になることがなくなり、被災地にも紛争の地にも送ることができるようになったのです。こうしてカップめんは、食べものが手に入りにくい場所でも食べられる〝命の食べもの〟となり、いまも世界中の人を救っています。
現在、世界中で1年間に食べられるインスタントラーメンは1000億個以上。宇宙空間でも食べられており、まさに人類食といいたいものになっています。
この偉大な発明は、百福の「あったらいいな」からはじまったのです。
井上 裕之 (いのうえ ひろゆき)
歯学博士、経営学博士、コーチ、セラピスト、経営コンサルタント、医療法人社団いのうえ歯科医院 理事長。
島根大学医学部 臨床教授、東京歯科大学 非常勤講師、北海道医療大学 非常勤講師、ブカレスト大学医学部 客員講師、インディアナ大学歯学部 客員講師、ニューヨーク大学歯学部 インプラントプログラムリーダー、ICOI国際インプラント学会指導医、日本コンサルタント協会 認定パートナーコンサルタント。世界初のジョセフ・マーフィートラスト公認グランドマスター。
1963年、北海道生まれ、東京歯科大学大学院修了。歯科医師として世界レベルの治療を提供するために、ニューヨーク大学をはじめ、ハーバード大学、ペンシルバニア大学、イエテボリ大学など海外で世界レベルの技術を取得。 6万人以上のカウンセリング経験を生かした、患者との細やかな対話を重視する治療方針も国内外で広く支持されている。
また、医療に関することだけでなく、世界中のさまざまな自己啓発、経営プログラム、能力開発などを学びつづける。成功法則の権威ジョセフ・マーフィー博士による「潜在意識」と経営学の権威ピーター・ドラッカー博士による「ミッション」を総合させた「ライフコンパス」を提唱。
現在はセミナー講師としても全国を飛び回り、会場は常に満員。2012年8月に東京・日本青年館で1,000名の講演を実現し、2014年には日比谷公会堂で1,200名を超える伝説のセミナーを成功させている。
作品紹介
何のために働くのか。目標に向かい生きる充実した日々は、どうすれば手に入るのか――。人生の答えを求めて毎日を真剣に生きる人々に向け、歯科医師でありセラピストである著者・井上裕之が贈る渾身のメッセージ、そして「自分の価値観」を磨くためのヒント。
定価:1,300円+税/学研プラス
バックナンバー
- もっと、 わがままに生きていい
- 全人的に、 相手と向かい合う
- 「いいお金の使い方」を 心がける
- 勇気をもって 「NO」という
- 人生の「パワーパートナー」を持つ
- 完全にわかり合えるとは期待しない
- 「見える資産」と「見えない資産」
- 楽しんで仕事に取り組む