こんな歌、ありなんだ! すごい! という驚き
私がおすすめする1冊は、吉岡太朗さんの『ひだりききの機械』です。
こんな歌、ありなんだ、すごい! という驚きに満ちていて、今年出会った詩や短歌の本のなかで、もっとも印象に残っている作品です。
ひだりききの機械―歌集
吉岡 太朗・著
短歌研究社
プログラムは更新されて君は消える 風鈴の向こうに広がった夏
すぐ花を殺す左手 君なんて元からいないと先生は言う
ふと風が背中をなでて振り向けば「行ってきます」は遠い約束
新しい世界にいない君のためつくる六千万個の風鈴
上に挙げた歌は、どの歌も斬新で新鮮で、なにより、心に迫ってきますが、もっとも心を動かされたのは、
南海にイルカのおよぐポスターをアンドロイドの警官が踏む
という1首です。
この歌集を誰かにすすめるとしたら、太田光さんでしょうか。『タイタンの妖女』が大好きで、ヴォネガットファンの太田さんなら、きっとこの歌集の魅力をわかってもらえると思います。
金原瑞人(かねはら・みずひと)
1954年岡山市生まれ。法政大学教授・翻訳家。児童書やヤングアダルト向けの作品など翻訳書は400点以上。訳書に『豚の死なない日』(白水社)『青空のむこう』(求龍堂)『わたしはマララ』『ユリシーズ・ムーア』シリーズ(小社刊)などがある。
わたしはマララ
教育のために立ち上がり、タリバンに撃たれた少女
マララ・ユスフザイ、 クリスティーナ・ラム他・著
学研プラス
この作品を飜訳したことで、自分がパキスタンのことを知らないということを痛感しました。まったく、世界のどこにあるかも正確にはわかっていなかったし、アフガニスタンやインドと接していることは知っていましたが、イランとも接していることは知りませんでした。
また、その政治制度や、人々の生活など、知らないことばかりでした。もちろん、女性が置かれている状況も知りませんでした。
アメリカの同時多発テロとアルカイダのことなど、この本を通してあらためて学びました。というか、日本でなされた報道でしか知らなかったことを、イスラム過激派に苦しめられている人々のひとりであるマララさんの視線でみることができました。世界情勢をみるときの意識が変わったような気がします。
マララさんの場合は、女の子にも教育をと訴えて銃撃され、瀕死の重傷を負うのですが、決して、怖れない。それどころか、回復してからは、それまで以上に教育の重要性を訴えるようになります。
そんな彼女の生き方を、とくに日本の女性、とくに日本の女の子たちに読んでほしいです。
日本は女性の政治家が驚くほど少ない。国会議員の数では、日本の女性議員の比率は先進国で最低です。女性が政治に参加するようになれば、きっと日本はいい方向に進むようになると思います。男性議員が女性議員に差別的な罵声を浴びせるようなこともなくなるでしょう。
マララさんは現在、自国に帰ることができませんが、帰れたら、政治家を目指すといっています。
ENDGAME‐THE CALLING エンドゲーム・コーリング
ジェイムズ・フレイ、ニルスジョンソン=シェルトン・著
金原瑞人、井上里・訳
壮大なSF的世界をパズルを織りこんで構成した物語です。魅力的な登場人物をずらりと並べ、殺し合いをさせるという、じつに殺伐とした物語なのですが、お互いの心理的なやりとりがぞくぞくするほどリアルでおもしろいと思います。しかし、本当におもしろくなってくるのは、「殺し合いをしなくてはならないのか」という葛藤が登場人物たちをもてあそぶようになってからです。
実在する地名や建築物や遺跡も多く登場するので、調べながら読んでいくと、生き残りを賭けたこのスリリングな物語をいっそうリアルに味わうことができます。
世界同時発売という条件があったので、まだ本になっていない原稿を訳し始めたのですが、次々に訂正訂正訂正の嵐。共訳者の井上里さんが悲鳴をあげていました。
第1巻は衝撃的な結末を迎えますが、第2巻以降、さらにこの世界が深みをましていくはずです。生き残るのはだれなのか、いや、第2巻の展開がどうなるのかもわかりません。が、第1巻を上回る衝撃が待っている予感があります。
ミステリ好き、SF好き、冒険小説好き、恋愛小説好き、ファンタジー好き、地球滅亡小説好きの人々。そして、文句なくおもしろい小説が好きな人々に読んで欲しい作品です。
『エンドゲーム・コーリング』特設HP:
http://honchu.jp/topics/ENDGAME/