『僕らは戦争を知らない』編集者と難民支援 NPO 職員が「平和」を語る
『僕らは戦争を知らない 世界中の不条理をなくすためにキミができること ハンディ版』
「平和の本決定版」として話題になり、売上の一部が「認定NPO法人 難民を助ける会」に寄付されることとなった『僕らは戦争を知らない』。この本を手がけた編集者と、NPO法人職員による対談が実現した。

もくじ
小さな団体だからこそ、きめ細やかな支援ができる
――このたび、『僕らは戦争を知らない』の売上の一部を、AAR Japanに寄付することが決まりました。
澤田未来(以下、澤田):この本の中で、平和のために活動をしているNPOとして、AAR Japanさんを紹介させていただきました。紛争地で弱い立場に置かれている人々を長いあいだ支援してきたAAR Japanさんの活動に、個人的にも深く共感しています。
平和な世界を願って『僕らは戦争を知らない』を手に取ってくださる読者の方々の意志を、平和の実現に向けたアクションにつなげたいと思い、本の売上の一部を寄付させていただくという決断をしました。
栁田純子さん(以下、栁田):澤田さんとは今日が初対面なのに、まったくそんな感じがしません(笑)。『僕らは戦争を知らない』の内容や、澤田さんがこの本に込めた思いは、私たちの活動と重なる部分が大きく、とてもシンパシーを感じます。
澤田:私も、今日が初対面だとは思えません(笑)。
AAR Japanさんは、これまでどのような活動に取り組んできたのですか?
栁田:AAR Japanは、1979年、インドシナ難民の支援をきっかけに、日本発のNGOとして創立されました。現在は18の国と地域で難民支援や自然災害支援、障がい者支援を行うほか、日本の子どもたちへの啓発活動を実施しています。決して大きな団体ではありませんが、そんな私たちだからこそできる支援があります。
例えば大規模な団体だと、拠点を設けてそこで難民の方々に支援物資を配布することがあります。しかしそれだと、障がいのある方や高齢の方はそこに行けず、物資を受け取れないことがあります。そのような方にも支援をお届けするのが、私たちの役割です。


澤田:大規模な支援からは漏れてしまう人々にも、きめ細やかな支援を行っているのですね。「障がいのある方がどこにいるのか」などは、コミュニティの外部から来た人々には分かりづらいと思うのですが、そのような情報はどうやって入手しているのでしょうか?
栁田:そこで活躍するのが、AAR Japanの現地スタッフです。やはり、地域のコミュニティの中に入らないと情報は得られませんので、現地スタッフが地域の自治会長のような方に自分たちの活動を説明したうえで、例えば「障がいのある方はこの地域にどれくらいいて、どこに住んでいるのか」などの情報を教えていただきます。
また、私たちが地域のコミュニティに入ることで、私たちと住民がともに難民を支援できる環境を作れます。その土地に元々暮らしていた住民と、あとからやってきた難民とのあいだに軋轢が生まれてしまうことは、どうしてもあります。そこで、私たちが住民の話を聞き、住民の日常生活を脅かさず、時には住民にとってもメリットのあるような支援施策を行うことで、私たち・元からの住民・避難してきた人々という三者のあいだに、良好な関係を築けるのです。
澤田:難民を受け入れる側の住民と、難民の共存をめざしているのですね。

「戦争」は、日常の延長線上にある
――栁田さん自身は、これまでAAR Japanでどのような活動をしてきたのですか?
栁田:トルコにおけるシリア難民支援や、ウクライナ難民支援などにかかわってきました。シリアでは、2011年に政府軍と反政府勢力による武力衝突が本格化し、2024年にアサド政権が崩壊したあとも不安定な情勢が続いています。そのため、多くの人々が国内外に避難しており、隣国のトルコがシリア難民の最大の受け入れ国となってきました。
澤田:シリア難民支援の活動をする中で、印象的だったできごとはありますか?
栁田:地雷を踏んで足を失ったある男性が、「何度手術をしても、僕はシリアに戻るたびに地雷を踏んで、毎回身体のどこかが無くなるんだ」と、非常に明るく笑いながら話していたのが印象的でした。大変な状況の中でも、自分の置かれている状況を冗談にして笑い飛ばし、前を向いて生きていく姿に、「人間の強さ」のようなものを感じました。
難民と呼ばれる人々にも、彼のように冗談を言ったり、また、兄弟げんかをしたり、嫁姑問題に悩まされたり……と、私たちと同じような日常があるのです。
澤田:裏を返せば、そうした日常の延長線上に、「戦争」があるということですよね。
私たちは難民の方々に対して悲壮感漂うイメージを持ってしまいがちですが、栁田さんのお話を伺っているうちに、彼らはたくましく未来を見据えているのだと分かりました。
栁田:もちろん、先ほどお話しした男性のように前向きになれる方ばかりではなく、トラウマを抱え精神的に不安定になってしまう方もたくさんいます。それでも、みなそれぞれに現状を受け入れ、悲しみから自分の力で立ち直っていきます。難民の方々が持つ「レジリエンス」(困難を乗り越え、回復する力)から、私自身が学ぶことも多かったです。私たちの役割は、支援を必要としている方々に寄り添うことでニーズを把握し、レジリエンスを高めていけるようなサポートをしていくことだと考えています。

「想像力の解像度」を上げる本を作りたかった
――澤田さんは、どのようなきっかけで『僕らは戦争を知らない』を制作したのですか?
澤田:私がこの本の企画を社内で初めて提案したのは、2023年2月のことです。当時はロシアによるウクライナ侵攻が始まって1年が経っていましたが、ウクライナに関する報道に以前ほど衝撃を受けなくなっている自分に危機感を覚えていました。1年前は「爆撃により何人亡くなりました」というニュースにあんなに心を痛めていたはずなのに、連日の報道によって感覚が麻痺していました。
一方、幼いころに太平洋戦争を経験し、今は90代になる私の祖父母は、私よりもリアリティをもってウクライナ侵攻のニュースを受け止めていました。祖父母は、ウクライナの人々の境遇や心情を、私よりも圧倒的に高い解像度で想像していたと思います。
今後、日本で戦争の記憶が遠ざかる中で、人々の戦争に対する想像力の解像度は落ちる一方です。日本の人々が、戦地で苦しむ人たちに心を寄せられなくなるのはとても怖いことだと感じ、若い世代の読者の「想像力の解像度」を上げるような本を作りたいと思って、この本を企画しました。
栁田:これまで出会った難民の方々は、どの地域でも「私たちのことを忘れないでほしい」と口にします。なぜなら、彼らは「時間が経てば忘れられる」ことを知っているからです。「想像力の解像度を上げる」ことは、そういった人々に対して思いを寄せるためにも、とても大切です。
そういう意味で、『僕らは戦争を知らない』は、漫画の場面設定がよかったですね。「自分のクラスにウクライナからの避難民がやってくる」という設定は、日本の子どもたちがウクライナで起こっていることを臨場感たっぷりに体験できるように工夫されていると感じました。

澤田:漫画の設定はこだわった部分なので、気づいていただけてうれしいです。漫画のストーリーは私が考えたオリジナルのものですが、日本に来たウクライナ避難民の中学生へのインタビューに基づいて作りました。
栁田:漫画では、ウクライナから避難してきた少女が、遠く離れた日本で抱える悩みや苦しみも描かれていました。彼女のように慣れない土地で日常生活を送らなければならないことのつらさも、私たちは忘れてはいけないと思います。
澤田:この本を作るにあたって、幼いころに広島で被爆された小倉桂子さんという方にお話を伺う機会があったのですが、小倉さんも「被爆者の苦しみは8月6日限りのものではなく、一生続いていくものだから、戦争のあとに待っている苦しい日常にも目を向けてほしい」とおっしゃっていました。
「戦争は、時間的・空間的に離れたところにも傷跡を残す」ということは、胸に刻んでおくべきですね。

直接的な支援でなくても、平和のためにできることはある
――栁田さんの、今後の活動に対する思いを、ぜひ聞かせてください。
栁田:私たちのような団体が活動しなくても済むような平和な世界になるのが、いちばんの理想だと思います。ただ、近年の世界情勢を見ると、それはなかなか現実的ではないので、「その時点で必要な支援を、困っている人々に対して届ける」ことを大切にし続けたいです。
また、世界各地の戦争で苦しむ人々の声を日本の若い人々にも届けたいという思いを持っています。さまざまな方と協力しながら、日本の若者に戦争を自分ごととしてとらえてもらえるような活動をしていきたいです。
澤田:私は難民の方々に直接支援を届けられるわけではありませんが、書籍の編集者という立場で平和のためにできることも、きっとあると思います。
今年は「戦後80年」ということで戦争に関する話題が注目されていますが、「来年は注目されない」なんてことがあってはいけません。世界情勢が厳しくなる中、今日栁田さんから伺ったような話を、本という媒体を通じて発信し続けたいです。
栁田:「直接支援を届けられないから、難民を助けられない」ということは、決してありません。今回の対談のことも、「あとでどんなことを話したか報告するね」とウクライナ人の現地スタッフに話したら、とても喜んでいましたよ。
平和を祈って発信する一人ひとりの気持ちが、ウクライナの人々の活力につながります。澤田さんには、これからも、本を通じて平和への願いを発信し続けてほしいです。

取材・文・写真:森田晃平
商品概要
『僕らは戦争を知らない 世界中の不条理をなくすためにキミができること ハンディ版』

軍事評論家・小泉悠氏が監修し、太平洋戦争からウクライナ侵攻、ガザでの戦闘まで、豊富なイラストでやさしく解説。国内外の戦争体験者に取材したマンガやインタビューも。大人も子どもも読みたい“平和の本”決定版。
■定価:1,760円(税込)
■発売日:2025年7月10日
■発行:Gakken
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▼本書の制作背景はコチラ▼
「戦争を知らない」編集者が全世代に届ける本――「戦争報道への慣れ」に対する恐怖が出発点
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