【絵本作家にずばり訊いてみた!】ヒド・ファン・へネヒテンさんの日本語翻訳版への思い<Gakken × パイ インターナショナル ★ 合同インタビュー>
大人気シリーズ『ちっちゃな おさかなちゃん』『おむつのなか、みせてみせて!』などの日本語版や、日本発案で生まれた作品についてどう思っているか訊いてみました!
ベルギーを代表する絵本作家、ヒド・ファン・へネヒテンさん。これまで数々のベストセラーを生み出してきました。
いまや40か国以上で翻訳出版されているその作品たちは、世界中のこどもの心をつかんではなしません。
日本でも多くの親子に愛されている『ちっちゃな おさかなちゃん』のシリーズ(Gakken)や、『おむつのなか、みせてみせて!』シリーズ(パイ インターナショナル)は、2024年にそれぞれ周年をむかえました。
▲日本語版『ちっちゃな おさかなちゃん』のシリーズ。原書の持つキュートなストーリーや美しい絵の魅力に加え、日本の0歳~3歳の読者に向けて、こどもが夢中になるアレンジをたくさんプラスしている。
▲日本語版『おむつのなか、みせてみせて!』シリーズ。2歳ごろからおすすめ。中ページの絵や文には、あえてアレンジを加えず、原書の魅力を忠実に表現することに力を注いでいる。
Gakkenとパイ インターナショナルは、この記念すべき周年に際し、同じ原作者の作品の翻訳出版を手がけた出版社どうし、ヒドさんの絵本をいっしょに盛り上げてきました。
このコーナーでは、ヒドさんのインタビューを年間数回にわたって公開。今回はいよいよ合同インタビュー最終回です!
合同インタビュー第3回の今回は、今年2024年11月に発売された『おふとんのなか、みせてみせて!』、同じく2024年の4月に発売された『ちっちゃなおさかなちゃん、うまれたよ!』など、日本からのリクエストや発案で生まれた作品について、ウラ話やヒドさんの思いを訊いてみました。
ヒド・ファン・へネヒテン
1957年ベルギー生まれ。モルの美術学校で、絵、グラフィックアート、写真を学ぶ。1998年に絵本『Rikki』で「ハッセルト市国際イラストレーター賞」を受賞。また、最高の児童図書の挿絵画家に贈られる「最優秀児童図書リーダーズ・ダイジェスト賞」や、オランダで「今年の絵本」に選ばれている。
日本からのリクエストで 誕生した一冊!
2024年11月22日に、『おむつのなか、みせてみせて!』シリーズの新作『おふとんのなか、みせてみせて!』(パイ インターナショナル)が発売されました。
日本から新作のテーマをリクエストしたことで誕生したという、要注目の作品です。
▲シリーズ第1弾~第3弾は「トイトレ」がテーマ。第4弾で初めて「ねかしつけ・ねんトレ」がテーマに。作品を重ねるごとに、主人公のねずみくんも少しずつ成長。かわいらしい星柄パジャマもツボ!
―― これまで翻訳出版されたシリーズについて、各国の出版社から新作のリクエストがよく入るとうかがいました。このことをどのように感じていますか。
ヒド・ファン・へネヒテン(以下ヒド): シリーズの新作として、こんな作品を描いてみてはどうかという提案をいただくことは、たしかによくあります。提案をいただくのはいつでもうれしいものですが、必ず実現するというお約束はできません。それでも、できるだけリクエストに応えたいとは思っています。
いただいた提案はすべてきちんと検討しますが、はっきり言って、すぐにアイディアがわくような案はなかなかありません。
絵本作家としての自分の力を過信しているわけではないのですが、作品として成立させるためには、クリエイティブな視点が必要なのです。
―― なるほど。そのような厳しい「審査」の末、『おふとんのなか、みせてみせて!』は、みごとリクエストが通って、実現したのですね。日本から提案したいくつかのテーマの中から、ヒドさんが描きたいテーマ(ねんねトレーニング)を選んだそうですが…。
ヒド: 数年前に、ベルギーのClavis Uitgeverij(原作出版社)と日本のパイ インターナショナルがミーティングをした際、ねずみくんのシリーズとして「トイレトレーニング」以外のテーマを扱う可能性はあるか、と質問があったそうです。
いくつかのテーマの候補をもらい、その中に「おやすみなさいの絵本」がありました。
テーマとねずみくんを結びつけようとしているうちに、これはうまくいくぞ、という手ごたえを感じたのです。
▲物語は、パジャマ姿のねずみくんが主人公。しりたがりやのねずみくんは、おともだちの「ねんねのしかた」が気になってしかたありません!「みんなはどうやってねんねするのかな?」と、おふとんのなかをのぞいてまわるのでした。
―― 「おやすみなさいの絵本」というお題で、まさかこういう展開の物語になるとは…! かけぶとんのしかけをめくるワクワク、この動物のおふとんの下はどうなっているんだろう? という期待がふくらむ作品になっていて、良い意味で改めて、ヒドさんはこども心を持ち続けているのだなぁ…と感じました。
ヒド: ハハハ。はっとひらめき、ワクワクする気持ちが生まれ、「物語の続きを知りたい」「次のページではどうなるか知りたい」とわたし自身が思うことが、作品作りの原動力になっています。何がひらめきのきっかけとなるのかは、わからないものです(笑)。
▲はとちゃんに「おふとんの なかを みせて!」。おふとんの部分を、下にぺろっとめくって中を見られるしかけにこどもは大喜び!
▲こぶたくんのおふとんをめくったら…翌日のしたくがしてあって、思わずふふふっ! それぞれの動物の個性がユーモラスに表現されている。ほかにも、こいぬくんのお部屋には「おさかなちゃん」のぬいぐるみが飾られていたりと、室内の小物も楽しい。
―― ねずみくんの言葉や行動には、どんな思いやテーマをこめましたか?
ヒド: このシリーズの共通点は、ねずみくんがお友だちよりひと足先に成長している、ということ。自分が学んだこと(スキルや心がけ)をお友だちと共有したいと思っています。おしつけがましくしたり、知識をひけらかしたりするのではなく、ユーモアをまじえながらね。ねずみくんは、ある意味「リーダー」なんです。
そんなわけで、この本でも、お友だちの「いいお手本」になって、おやすみの習慣を伝えています。
▲ベルギー版の原作(オランダ語)。日本からのリクエストが実り数年前に誕生したこの作品は、2024年12月現在、フランス・イタリア・スペイン・ギリシャ・デンマーク・ポルトガル・トルコほか、なんと15か国で出版が決まっている。
企画の持ち込みを受けいれて 誕生した1冊!
一方、今年2024年4月4日には、『ちっちゃな おさかなちゃん』のシリーズの新作『ちっちゃなおさかなちゃん、うまれたよ!』(Gakken)も発売されています。
こちらは日本でラフコンテを起こし、ストーリーや登場キャラまでトータルで提案して実現した、ヒドさんの作品の中でも初の試みの1冊です。
▲『ちっちゃな おさかなちゃん』のシリーズは、美しい黒い海を舞台に、ママ・パパや海の仲間たちに囲まれて成長していく、おさかなちゃんが主人公。ページをめくるたびに新しい仲間が登場し、場面の色がはっきり変わっていくのが特徴。この巻『うまれたよ!』はなんと、シリーズの「第0巻」として提案された。
―― 「おさかなちゃん」の20周年を祝う新作として、『ちっちゃなおさかなちゃん、うまれたよ!』の企画を日本から発案されたとき、どのように感じましたか。
ヒド: うれしい驚きでした。日本から送られてきた企画書は非常によく練られていて、心がこもっているのわかりました。
シリーズの「エピソードゼロ」を作るというのは実にワクワクする試みだったね。
提案をいただいてすぐに、あれこれ考え始めたよ。
日本と連絡をとりあいながら1冊の絵本を作りあげていく過程は、すごく楽しかった。すばらしい企画に声をかけていただき、感謝しています。ありがとう!
▲物語は、おさかなちゃんファミリー始まりのエピソード。おさかなちゃんが生まれてくるのを待っていたママ・パパの喜びや海の仲間の祝福を伝えている。はじめての「ママですよ〜」の声かけなど、生まれた時の感動を思い出して、明日からまた育児にがんばれる、ママ・パパにもおすすめの1冊。
―― 日本の描き起こした絵コンテから、大きく変更した点はありましたか。
ヒド: まず、生まれたばかりのおさかなちゃんをどう描こうか、悩みました。試行錯誤の結果、ほかの巻のおさかなちゃんより目を大きく、そして下の方に描いています。さらに尾びれを小さめにしています。
また、ラストは、このシリーズのほかの作品と同じように、海の仲間たちが全員そろう場面に変えました。
新しい命をいつくしむというのは、人生においてとても大切なこと。赤ちゃんの世界が広がっていくのをみんなで見守るのは、すばらしい体験だからです。
▲Gakken版『ちっちゃな おさかなちゃん』のシリーズ全巻の文を担当している古藤 ゆずさんが描いた絵コンテ。家族でほっこりするラストシーンを提案した。
▲古藤さんの絵コンテをふまえて、ヒドさんが提案したラフスケッチ。物語中で、おさかなちゃん誕生のお祝いに次々にかけつける海の仲間…その全員が集まる、ハッピーなラストシーンに変更された。
▲完成した日本語版のラストシーン。黒い海に映えるカラフルな仲間たちの色彩、動き、表情から、あふれる喜びが伝わってくる。仲間たちや背景のテクスチャーも、それぞれに祝福の気持ちがこめられた、とても美しくていねいな仕上がり!
―― ヒドさんとしてこの物語に、どんな思いや願いをこめましたか。
ヒド: 生まれてきた赤ちゃんをむかえるときのワクワクした気持ちや喜び。それを、表現したいと感じました。
おさかなちゃんのママとパパは、世の中のすべてのママとパパを表しています。ママとパパの個性も、いろいろな国の読者にとって共感できるものであるようにと考えて描きました。
▲親になったばかりのパパ。「まだまだやんちゃですが、責任感があり、おさかなちゃんのことが大好き」とヒドさん談。
▲ママ(左)はやさしくおさかなちゃんを見守っています。「ママにも パパにも にている」と言われてうれしくなるシーンは、3児のママでもある古藤さんの体験から生まれた。
▲ベルギー版の原作(オランダ語)。日本からの提案で誕生したこの作品は、ベルギー・オランダでも2024年の同時期に発売。2024年12月現在、アメリカ、韓国での出版が決まり、ほかに数か国が出版を検討中。
日本で生まれ変わった作品に ワクワク!
―― ヒドさんの作品たちは、さまざまな国で翻訳出版されていて、その数は40か国以上とうかがっています。各国の『おむつのなか、みせてみせて!』シリーズと『ちっちゃな おさかなちゃん』のシリーズの翻訳版の中で、ヒドさんが特に気に入っている本はどこの国のものでしょう?
▲世界中で翻訳出版されている『おむつのなか、みせてみせて!』シリーズと『ちっちゃな おさかなちゃん』のシリーズ
ヒド: おせじではなく、わたしの作品の中で、日本語版はピカイチです。どの絵本も、とてもていねいに編集してくださっています。原書と異なる点もありますが、それが日本の読者への配慮だということがよくわかります。
ねずみくんの日本語版シリーズは、すばらしい出来です。紙の質、みごとな印刷、すてきなブックカバー。何もかもがていねいに作られています。
おさかなちゃんの日本語版シリーズも、とても気に入っています。
原書より読者層を下げて0歳~3歳にしたのも、興味深い。日本の読者層に合わせてサイズが小さく、角が丸く、厚紙のボードブックで、中ページも0歳~3歳にあった、たくさんのくふうがされています。
また、どのページも表面が加工されていて光沢があるので、背景の黒がより引き立ちますね。
▲ヒドさんお墨付きの日本語版より。
ヒド: 日本以外の国の翻訳版は、原書とほぼ同じなんですよ。著者のわたしにとって、日本語版でのくふうや提案は、最高にうれしいプレゼントです。
▲『ちっちゃな おさかなちゃん』のシリーズには、翻訳版とは別に「0さい~3さい 脳そだて」シリーズ(脳科学者 茂木健一郎/監修)もある。おさかなちゃんワールドの世界観やキャラを活かし、日本オリジナルの本として提案。『おさかなちゃんと あ〜そ〜ぼ!』『おさかなちゃんと あはは!』の2冊があり、どちらもヒドさんのチェック・指導を経て実現した。
こどもたちに 伝えたいこと
―― ヒドさんが、絵本の製作を通じてこどもたちに伝えたいのは、どんなことでしょう?
ヒド: 何より大切にしているのは、ママ・パパとこどものきずなを深め、つながりを生む絵本を作るということです。
こどもにとって、大好きなママやパパによる読み聞かせほど、すばらしい時間はありません。昔ながらの読み聞かせの大切さこそ、絵本を通じて伝えたい「メッセージ」かもしれません。
絵本を読んでもらったこどもはきっと、自分なりのお話を思いつくようになるでしょう。お話をすること、お話に耳をかたむけることで、世界が広がるのです。
▲「おさかなちゃん」編集部に届いたこどもやママ・パパの様子。ヒドさんの思いはしっかり伝わっています!
―― 最後に、今後描きたいと思っている作品はどんなものでしょう?
ヒド: 自分でも、これから何を描こうかなとワクワクしているところです。この好奇心がわたしの原動力なんだ!
以前は、60歳になったらもう絵本を描くのはやめると宣言していました。60歳をむかえたときは、65歳になったら引退しようと考えていました。最近では、もうそんなことを言ったり考えたりはしていません。これからどうなるかは、見てのお楽しみです。
ねずみくん、おさかなちゃん、そのほかの作品のキャラたちが、わたしに新しい絵本のアイディアをくれるかもしれませんね。そのサインを見のがさないようにしたいです。
作品の主人公たちと常に対話しながら世界を広げていく「こどものような無邪気さと好奇心」。ヒドさんを表すなら、まさにこの言葉がぴったり。
どのシリーズにも独自のテーマとユーモアが盛りこまれていて、こどもだけでなく大人の心もつかんで離しません。
そんなヒドさんの作品は、今後も大注目です!
©Clavis Uitgeverij, Hasselt-Amsterdam-New York. All rights reserved.
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商品詳細
ちっちゃなおさかなちゃん、うまれたよ!(Gakken)
0さい~3さい脳そだて おさかなちゃんとあ~そ~ぼ!(Gakken)
0さい~3さい脳そだて おさかなちゃんと あはは!(Gakken)