【おさかなちゃん★ 原作誕生20周年/Gakken版誕生10周年】 ヒド・ファン・へネヒテン×古藤 ゆず WEB対談風メッセージ-前編-

『ちっちゃなおさかなちゃん、うまれたよ!』

更新日 2024.04.02
公開日 2024.03.22
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 新作発売前のモニター募集でも、応募殺到! 0歳~3歳児ママパパに愛されている絵本シリーズの著者が語る、製作時の気持ちやマル秘エピソード!

 ベルギー発の絵本「おさかなちゃん」は、今年2024年で原作誕生20周年、Gakken版誕生10周年をむかえるロングセラーシリーズです。記念すべき大切な年に、なんと日本から企画提案した新作が登場!

 シリーズ原作者のヒド・ファン・へネヒテン氏と、新作の企画・構成・文を担当した古藤 ゆず氏に、実現への経緯やウラ話をお話しいただきました。ベルギーと日本それぞれから届いた、作品への愛とおたがいへの敬意がこめられたメッセージを、おふたりがWEB上で対談している風に楽しくご紹介していきます!

 

ヒド・ファン・へネヒテン〈絵〉


 ベルギーを代表する絵本作家。世界25言語以上に翻訳された「おさかなちゃん」シリーズの作・絵を担当する原作者。日本から発案された『ちっちゃなおさかなちゃん、うまれたよ!』の企画に賛同し、ベルギーでも同時期に出版を決定。世界中に紹介され、続々と翻訳出版のオファーが届いている。

▲「おさかなちゃん」の絵本は世界中で読まれている

古藤(ことう) ゆず〈企画・構成・文〉

 出版社で編集の仕事を経て独立。乳幼児向けの本の企画、執筆を数多く手がける。「おさかなちゃん」シリーズではこれまで翻案を担当し、こどもが喜ぶオノマトペを加えて65万部超の大ヒットを記録。ベルギー、日本ともに記念すべき周年である2024年に向け、ヒド・ファン・へネヒテン氏へ提案した『ちっちゃなおさかなちゃん、うまれたよ!』は、物語を絵コンテから立ち上げて彼の賛同を得た、世界初の作品。

 

新作は、おさかなちゃんの「エピソードゼロ」の物語

▲ママとパパ、おさかなちゃんがそろう、シリーズ初の表紙

▲物語の始まりは、生まれたばかりのおさかなちゃんに、ママがはじめて声をかける場面

   ▲わが子の誕生を海じゅうに知らせてまわるパパ。すると仲間たちが次々にお祝いにやってきて…

 

―― ヒドさん、「おさかなちゃん」シリーズ誕生20周年おめでとうございます! 20年間をふり返って、胸に浮かぶのはどんなことでしょうか。また、この周年のお祝いに、日本で『ちっちゃなおさかなちゃん、うまれたよ!』を出したい、と企画提案があったとき、どんなお気持ちになりましたか?


ヒド・ファン・へネヒテン(以下ヒド): 20年前、最初のおさかなちゃんの物語が誕生したとき、シリーズ化する予定はありませんでした。とにかく気の向くままに作り始めたのです。ところが、おさかなちゃんはあっというまに、作者のわたしにも想像ができないほど、大きな存在になりました。いくつもの物語が生まれて、おさかなちゃんが広い広い海で何を体験するのか、わたし自身ももっと知りたくなったのです。
日本からの提案は、うれしい驚きでした。やりがいのある仕事だと思いました。日本と連絡をとりあいながら1冊の絵本を作りあげていく過程は、すごく楽しかったなぁ。すばらしい企画に声をかけていただき、とても感謝しています。

 

古藤 ゆず(以下古藤): こちらこそ、ありがとうございます。はじめてベルギー版の原書を見たときにも感じたのですが、「おさかなちゃん」シリーズが世界中で愛されつづけているのは、シンプルなストーリーと、色、デザインが細部までよく考えられていて、絵本としての完成度が高いからだと思います。わたしとしては、ベルギー版誕生20周年をお祝いするとともに、Gakken版が10周年をむかえられることに感謝して、特別な新作を届けられたら、と思いました。ヒドさんにご提案したとき、こちらのアイディアを受け入れていただける確信はありませんでした。絵本作家さんによっては「こんなのは自分の作品じゃない」とお感じになる可能性もありますし…。「思いが伝わりますように…」「どうか気に入ってもらえますように…」と祈るような気持ちでお返事を待っていました。
そうしたらOKをいただけたばかりか、ベルギー版(オランダ語)も出版されることになって…! 
ご自身の国でも出版し、さらに世界の他の翻訳国にまで紹介してくださることになるなんて、ヒドさんは、とても広い心で「おさかなちゃん」シリーズを愛されているんだな、と感じました。

 

▲ベルギー版のトビラページには、古藤氏への謝辞も!
「With thanks to Yuzu Koto and Gakken in Japan」の意。

 

―― 古藤さん、単にシリーズの続きではなく、第1巻『ちっちゃな おさかなちゃん』よりも前の物語(第0巻=エピソードゼロ)にしたのは、他の翻訳出版国も思いつかない斬新な発想でしたね!

 

古藤: 日本語版のシリーズでは、ママかパパの登場する巻が比較的人気がありました。なので、ママとパパどちらも登場する、はじめての巻にしたいな、と。
「家族でお出かけ」「いっしょに遊ぶ」など、いろいろな場面を考えているうちに、ふと「おさかなちゃんが生まれたときって、どんな感じだろう?」と思い、そこから物語が広がっていきました。

 

ヒド: 日本から送られてきた企画書は非常によく練られていて、読者のためを思って作られていることがすぐにわかりました。売上だけを重視したプロジェクトではなく、心がこもっていたのです。わたしも常に、心のこもった作品を作ろうとつとめています。

 

古藤: そう言っていただけて、うれしいです! わたしは、ママパパに「エピソードゼロ」として、おさかなちゃん誕生のストーリーを楽しんでほしいと思いました。そして、わが子の誕生の日に思いを馳せてもらえたら…と。また、こどもたちには「生まれたとき、みんながこんなに喜んだんだよ」ということが伝わるといいな…と。

 

▲古藤さんの絵コンテ。小さな見開きページに、思い浮かぶシーンやアイディアを描き出していった

 

ヒド: 「エピソードゼロ」を作るというのは実にワクワクする試みでしたよ。提案をいただいてから、すぐにあれこれ考え始めました。もちろん、いろいろとなやんだ点もあります。「生まれたばかりのおさかなちゃんは、どんな感じかな?」とかね。

 

古藤: ヒドさんにいただいたラフスケッチは、鉛筆描きでさらさらっと描かれた感じの線なのですが、海の生き物たちの表情や動きの感じが伝わってきて、「ああ、読者に届けたい思いが、こうやって作品になるんだ…!」と、感動したのを覚えています。

 

▲ヒドさんのラフスケッチ。無邪気な“こども心”で楽しみながら描いた様子が伝わってくる

 

制作途中には、たくさんの修正や改善も…!


―― 生まれたばかりの “新生児おさかなちゃん”は、とってもかわいいですね。こだわったポイントは、どんなところでしょう?

 

ヒド: 生まれたての赤ちゃんらしい特徴を出すためには、バランスが非常に重要だと考えました。目は何より大切。心を映す鏡だからね。目を大きく、そして下のほうに描くことにして、さらに尾ビレを小さめに描いてみました。

 

古藤: なるほど! わたしも原案の絵コンテでは、海の仲間たちに対するおさかなちゃんのサイズ比率を他の巻よりうんとちっちゃくしてみました。おさかなちゃんはどの巻でも、ページのなかでだれよりもちっちゃな存在ですが、他の巻よりももっとちっちゃくて、守りたくなるような存在に見せたかったのです。
動作でこだわったのは、最初の登場シーンで目を閉じて眠っていることや「ぽよ~」という擬態語、みんなが会いに来てくれてまた眠っちゃっているところです。最初のシーンでは、ヒドさんのカラーラフに「このシーンは目を閉じて」と、リクエストしてしまいました(笑)!

 

▲古藤さんの絵コンテ。おさかなちゃんは目をつぶっている

▲ヒドさんのカラーラフでは、目がぱっちり開いていたが、おそるおそる修正のお願いを…(笑)!

▲紆余曲折の末、“新生児”らしい「ぽよ〜」とした表情に完成!

 

―― ヒドさん、カラーラフ段階では、全ページの地面や岩などは多色使いで描かれていましたよね。でも日本語版の「おさかなちゃん」シリーズは、どの巻もシーンごとに色イメージがまとまっていて、ページをめくるとはっきりと色が変わることが、幼いこどもの理解の助けになっています。
古藤さんとも相談し、編集部から「他の巻と同様に、背景の色調をそれぞれ海の生き物の色に合わせて同系色でまとめられないか」と要望を出させていただきました。それはとても手のかかる大きな修正でしたが…、どう感じられましたか。

 

ヒド: あはは、そうだったね。わたしはいつも、喜んで要望を受け入れています。でも今回は、ただ言われた通りにするのではなく、いくつかのバージョンを試してみました。最終的に、背景は海の生き物の色に合わせた色調にするのがいい、と考えました。シリーズの第1巻『ちっちゃな おさかなちゃん』でもそうだったしね。

 

▲ピンク色の「ぴぴん」のページを例に、制作工程をチラ見せ! 古藤さんの絵コンテから始まり、ヒドさんの鉛筆ラフスケッチ→カラーラフ→絵の完成→デザイン…と段階ごとに、それぞれ数週間~数か月をかけて、たくさんの模索や修正調整を重ねていった

 

古藤: 修正後の絵を見たとき、「色がとってもきれい!」と感動しました。背景の地面や海草などのテクスチャーが凝っていて、色味も同系色のなかでバリエーションや深みがあって。あと、みんなせいぞろいのラストシーンはさすがだなぁ、と。他の同系色構成のシーンと違ってここだけはあえて、たくさんの色を楽しむページなのですが、細部までバランスを大事に描かれているなぁと感じました。やりとりを重ねて最高のものができた! と思います。

 

▲ラストシーン。おさかなちゃんのお祝いにかけつけた、海の仲間がせいぞろい

 

想像の黒い海に、主人公の白い色

 

―― ここで、シリーズ全体にも通じる「おさかなちゃんの世界観」についておうかがいさせてください。10年前に原書をはじめて拝見したとき、主人公が小さな白い魚のこどもで、その子のくらす海が黒い海という設定は、強烈なインパクトがありました。

 

▲シリーズの1冊めとなった『ちっちゃな おさかなちゃん』より

 

古藤: わたしも10年前は、乳幼児向けの物語で全体が黒い絵本を見たことがなかったので驚きました。無垢なおさかなちゃんを「白」、そのおさかなちゃんを最大限魅力的に見せるために、海を「黒」という選択をされたのかなと想像したのですが…。

 

ヒド: 「白」という色が好きなんです。白は光、純粋さ、可能性、未知を表す色です。それに、ニュートンがプリズムを使って実験したとおり、虹のすべての色を集めると白になります。だから主人公は白いすがたにしたいと思いました。
また、第1巻『ちっちゃな おさかなちゃん』を考えたとき、さまざまな色の生き物が登場することで自然と色に興味が芽生える、というねらいもあったので、背景となる海には黒がぴったりでした。海が黒いからこそ、どの色も輝くし、白いおさかなちゃんに真っ先に目がいくのです。

 

古藤: そうだったんですね! ママパパの背は、虹のようで美しいですよね。おさかなちゃんの背にも淡く入っているのがまた素敵です。日本語版を立ち上げた10年前は意識していなかったのですが、多様性を表すのにレインボーカラーが一般的になってきて、もしかしたらヒドさんのなかにはもともとそのイメージがあったのかな、と思いました。

 

ヒド: おさかなちゃんファミリーの背をカラフルにするというアイディアは、『ちっちゃな おさかなちゃん』のテーマを色にしたことから思いつきました。カラフルな背はおさかなちゃんらしさを表す特徴でもあるし、いろんな気持ちの表現でもあるんです。カラフルな背が、おさかなちゃんを世界で唯一の存在にしています。また、おさかなちゃんがりと調和していることや、周りの環境がおさかなちゃんに影響を与えていることも表しているのです。

 

▲おさかなちゃんの背中の虹色は、ママパパゆずりでもある

 

―― おさかなちゃんがくらしている海とは、どんな世界でしょうか。

 

ヒド: 思うぞんぶん探検して、いろいろなことを発見できる世界です。

 

古藤: わたしは、読む人の心のなかにある想像の海だと解釈しました。そこではいろいろな生き物が自由に、自分らしく生きています。表紙をめくった最初のページの「ひろ~いひろ~い うみのなかの おはなしです」は、現実を離れて想像を広げていってほしいという願いをこめて、日本語版で特別に追加させていただきました。このページは全部の物語にあるんですよ。

 

▲日本語版の表紙をめくると現れるプロローグ的なページ。ぷくぷくとあがってくるカラフルな泡が読む人の
心のなかにある、美しい黒い海へといざなってくれる。泡の色や形、大きさなどは巻ごとにそれぞれ違う

 

―― 最初のページといえば、ベルギー版はどの巻も、表紙をめくるとカラフルなしま模様が現れますよね。これは何かを表しているのでしょうか。

 

ヒド: しま模様は巻ごとに違っていて、その絵本に登場する海の仲間の色とリンクしています。どの仲間がどの順番で出てくるかも表しているんだ。本の導入やまとめのような存在かな。

 

▲ベルギー版の表紙をめくると現れる、カラフルなしま模様の「見返し」。無邪気に絵具で遊んだような
ページに、胸がワクワクしてくる。日本語版の泡ページの色は、基本的にここの色とリンクしている

 

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前編はここまで!
後編のWEB対談風メッセージは下記から

<後編>はこちら

 

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