3月の新刊『くれよんたちのきょうはなにをかこうかな?』は、人気絵本作家・なかやみわさんによる「くれよん」シリーズ最新刊。「くれよんのくろくん」シリーズよりも、ちょっとちいさい子たち向けに描かれた本書は、「つぎはなにをかくのかな?」と想像しながら、当てっこしながら、親子で会話がはずむ絵本です。作者のなかやみわさんに、作品に込めた思いや、作家としての原点などをたっぷり伺いました。
内容紹介
くれよんたちは、おえかきがだいすきです。きょうもおえかき!とはりきっています。さあ、なにをかくのかな?
▲くれよんたちは、次々とおいしいものを描いていきます
なかやみわさんインタビュー
ちいさい子たちが大好きな「くれよん」と「おえかき」をテーマに新しい絵本を生み出したなかやみわさん。本書が生まれたきっかけや、作品作りの苦労と楽しさ、絵本作家としての原点などを伺いました。
―読売新聞の夕刊の童話をきっかけに生まれた絵本
2017年頃だったと思いますが、読売新聞社の夕刊に童話の連載企画があって、そのオファーをいただいたんです。1枚の絵に物語をつけるというもので、毎回ちがう作家が担当していたんですね。ちょうど忙しい時期でお引き受けするか迷ったんですが、せなけいこ先生がご自身のおばけの絵本をベースにちがうお話を描かれていたのを見て、わたしも自分の作品のスピンオフなら描けるなあと思って、お引き受けしました。
でも、ほんとうに忙しい時期だったんですよ。身体もあちこち凝り固まって、整体に通ったりして。この童話は、整体の待合室で待っているあいだに思いつきました。新聞に掲載されたあと、そのうち「これは1冊の絵本にできるな」と思うようになりました。ただ「くれよんのくろくん」シリーズよりも短いし単純なおはなしなので、もっとちいさい子向けだなあと思って。ちょうど「そらまめくん」シリーズで赤ちゃん絵本を作り始めていた時期で、対象年齢を下げた絵本を作りたいと思っていたんです。赤ちゃんや2~3歳の子が絵本を楽しむことってとても大事で、その体験があると、物語絵本にスムーズに移行できるんじゃないかと。
このおはなしを形にしたいと思っていたとき、ちょうどGakkenの担当編集Nさんとちいさい子向けの絵本を作りたいねとお話ししていたんです。Nさんとぜひ仕事をしたいと思っていたこともあって、Gakkenからこの絵本を出すことにしました。
―「こどものための絵本」を描きたい
わたしはもともと、「こどものための絵本」を描きたいという思いが強いんです。こどもが身近に感じるもの、こどもが親しみやすいものをモチーフにして、コミュニケーションを取れる、そんな絵本ですね。
この絵本の主人公は、こどもたちが大好きなくれよん。「なぜくれよん?」とよく聞かれるんですが、こどもがいちばん最初につかう画材って、くれよんですよね。筆圧が弱くても描けるし、口に入れても大丈夫なものも多いし、しかも握りやすい。だから絵本にぴったりだなと思って選んだんです。でもじつはわたし、こどもの頃くれよんがちょっと苦手だったんですよ。カスが出る感じとかね。だから色えんぴつ派でした。ふふふ、こどもたちにはないしょですよ。
くれよんたちが「つぎはなにをかくのかな?」と質問を投げかけながら、ページをめくって当てっこクイズで遊べるのが、この絵本の魅力だと思います。絵本を読んだら、食べものの話をしてもいいし、おえかきをしてもいいし、いろんな遊びに広がっていくんじゃないかな。それに2~3歳って、ちょうど色に興味を持ち始める時期でもあるんですよ。保育士の友人によく聞くんですが、たとえば友だちが自分と同じピンクの服を着ていたら同じだと喜んだり、同じ色やものを見つけると嬉しくなるみたいなんです。だから年齢的にもぴったりなテーマだと思います。
―絵本作家としての原点、かわいいものが大好きだったこども時代
こどもの頃から絵は好きでした。好きな色は水色や、青、ピンク。特に淡くて優しい色のパステル系、淡い藤色なんかも好きでしたね。それにこどもの頃からキャラクターグッズが大好きで、たくさん文房具やグッズを持っていました。水筒とかお弁当箱とか、ハンカチとか。サンリオでいえば、断然「キキとララ」。「パティ―&ジミー」とか初期の「マイメロ」も好きでした。成長とともに好きなキャラクターも変わっていって、高校生のときは「スノーマン」「パディントン」のグッズにハマってました。そうそう、あと漫画の『キャンディキャンディ』も本当に好きでした! アーリーアメリカンな雰囲気の服装や建物、文化にとっても惹かれていて。エプロンドレスとか、リボンとか、羽ペンとか可愛いでしょう? そういうのがベースにあるんでしょうね、キャラクターデザイナーになりたくて美大を卒業後にS社に入ったんです。
でも、何年か仕事をするうちに、キャラクターデザインの世界はちょっとちがうなと感じました。キャラクターの世界って移り変わりが早くて、下剋上なんですよ。人の目に触れないまま消えていくキャラクターもたくさんあります。キティちゃんだって、放っておいたら消えてしまうシビアな世界。キャラクタービジネスって、時代に合わせてどんどんリニューアルして、キャラクターを育てていかないと生き残れないのです。そして売れる、売れないがはっきり出るし、いかに飽きさせないかが大事で、そんな世界に作り手も消耗してしまったりして。
あ、でもわたしが消耗すると感じただけで、一流のデザイナーはまったく違うと思います。頭の切り替えが早くて、これが飽きたらすぐ次いこう、となる。トレンドを掴む力がすごくあるんです。たとえばドットがくるよと言ったら、ほんとにドットが流行るし、次はラメだと言ったらラメが流行る。常に流行のアンテナを張っていて、その情報をキャラクターに入れ込むのをまるで楽しんでいるようです。そういったデザイナーは、ほんとすごいなって思います。でも自分はそういう世界じゃなくて、流行に左右されず、じっくり時間をかけて、長く愛されるものを作りたいという気持ちがありました。
―キャラクターの世界観を作りこむと、絵本のストーリーが動き出す
キャラクターの世界で培った経験が、絵本の仕事に繋がっていると思います。キャラクターの世界では、1つのキャラに対して世界観を作りこむんです。たとえばキティちゃんは双子で、りんご3個分の体重だとか、ボーイフレンドはダニエルくんだとか。キキララは姉弟で、ララはお姉さんなので、お姉さんっぽい仕草をするとか。そんなエピソードを商品に落とし込んでいく。そういったことを考えるのが自然と身についたんでしょうね。
「くれよんのくろくん」シリーズを描き始めたときも、まず世界観やキャラクター設定を考えました。くれよんには10色あるけれど、どんな性格の違いがあるんだろう。くろくんは優しいけれど、ちょっと気が弱いところもあるとかね。こういうふうに設定を考えておくと、それぞれのキャラクターのセリフや行動が変わってきて、おのずとお話がまとまっていくんです。たとえばこの絵本でも、いちばん最初に絵を描きだす子は、積極的なきいろくんだなとか。
―くれよんの特徴を生かすために「貼り絵」という手法にたどり着いた
「くれよんのくろくん」シリーズは、貼り絵という手法を使っています。試作では、さいしょは水彩やパステルで描いてみたんです。でもくれよんに立体感がなく、存在感が出なくて悩みました。
そこでサクラクレパスやぺんてるなどいろいろなくれよんを見ながら、くれよんの特徴について考えました。くれよんって巻紙でまいてありますよね。その巻紙は手でむきやすく、くれよん本体を保護する役割があって、大事なものなんだなあと思いました。ですから、この巻紙の素材感を生かせばくれよんに存在感が出せると思ったんです。すぐに画材屋に行って、巻紙で使われていそうな紙を探しました。そのなかでいちばんイメージに近かったのを、「くれよんのくろくん」シリーズの巻紙にしてみました。風合いがいいでしょう?
でも、貼り絵という手法はよかったんですが、経年劣化ではがれてしまうという弱点がありました。何年か経ったら貼った部分がはがれてしまって、修復した原画が何枚もあります。じつは最初はよく分からなかったので合成のりを使っていて、それだとはがれやすいということがだんだん分かってきました。あと、変色もしますしね。いろいろ試して今は「フエキのり」を使っています。園などでも、よく使われているものです。けっきょく昔から使われているのりがいちばん良かったというのがおもしろいですね。
▲なかやみわさんのアトリエ。たくさんの画材とライトテーブルを愛用
▲いつも使っている画材。さっと取り出しやすいように種類ごとにまとめられている
―お話案はテキストに落として面割りしながら、構成を練っていく
編集者にラフを見せるときは、かなり完成に近いものを見せるようにしています。ラフを作っていて自分でも気になるところのある、中途半端なものを見せても、見る側は違和感を覚えると思います。そしてラフもできたらすぐ見せるのではなくて、ちょっと時間をおいて見直します。そうすると、良い方向にラフをブラッシュアップすることができるからです。
わたしの場合は、まずお話やアイディアを思いついたら、パソコンで一気にテキストにします。そしてそのテキストをざっくり面割りしてみます。面割りは最初から15面にしようとか考えずに、ページをめくるタイミングで考えていきます。すると似たような場面があることや、展開がもたついていることに気づくことができて、それを直しながら、ページ数を整えるんです。もちろん絵のイメージを膨らませながらね。だいたいまとまったなと思ったら、原寸ラフを描いてみます。このときは全然描きこまないで、もう点と丸みたいな簡単なラフです。そうすることでさらに画面構成のバランスに気付けるんです。
▲(左から順に)原寸ラフ、原寸ラフ(色を塗ってみたもの)、仕上がった絵本。編集者には色を塗った原寸ラフを見せている
▲(上から順に)原寸ラフ、原寸ラフ(色を塗ってみたもの)、仕上がった本。ほとんど画面に変更がない
―原寸ラフを描くことで、こどもたちが集中できる画面になっているか分かる
豆本とかミニラフを描かれる方もいらっしゃるんですけど、わたしは原寸ラフにします。サイズ感が違うと、しっかりしたイメージが掴めないと思うんです。ミニラフを原寸にするとイメージが全然違ってくるんですよ。原寸で見ることってほんとうに大事。最近はパソコンでラフを作ると、つい描きすぎてしまい、画面が窮屈だと気づくこともあります。見る側も息苦しく感じると思います。
最近の絵本でそういった絵本が増えているように思うんですが、それはパソコンの画面で構成を考える方が増えたからでしょうか? あまり描きすぎてもちいさい子たちは絵本を見るとき、どこに視点を定めていいかわからない。だからここを見てくださいねーって、集中するところを分かるように描かないとダメだと思います。わたしは「こどもたちのために描く」「こども目線で楽しめるように描く」ことを大切にしているので、こどもたちが集中して見られる画面構成をいつも意識するようにしています。今回の絵本もそういう気もちで全力投球で描いたので、ぜひ親子で、園で、こどもたちと楽しんでほしいなと思います。
なかやみわさん、すてきなお話をありがとうございました!
なかやみわさんの最新刊『くれよんたちのきょうはなにをかこうかな?』、ぜひご覧ください。
著者プロフィール
なかやみわ
1971年埼玉県生まれ。女子美術短期大学造形科グラフィックデザイン教室卒業。企業のデザイナーとしてキャラクターデザインを手がけた後、絵本作家となる。主な絵本に「そらまめくん」シリーズ(福音館書店・小学館)、「くれよんのくろくん」シリーズ(童心社)、「どんぐりむら」シリーズ(Gakken)、「やさいのがっこう」シリーズ(白泉社)、「こぐまのくうぴい」シリーズ(ミキハウス)など多数ある。
商品概要
『くれよんたちのきょうはなにをかこうかな?』
なかやみわ・さく
定価:1,210円(本体1,100円+税10%)
発売日:2024年3月7日(木)
判型:200×200mm/28ページ
電子版:なし
ISBN:978-4-05-205897-4
発行所:(株)Gakken