現代の子どもたちは、豊かで恵まれた社会環境のなかで育っていますが、一方で学校や塾の勉強、部活動や習い事で時間に追われ、ゆとりがない毎日を送っているのではないでしょうか。また、効率化のために学びの多くが教室での授業のような知的教育に偏りがちです。その結果、社会科で野菜の流通を学んでも、食卓に上るキュウリやピーマンが畑でどのように実っているかを見たことがなかったり、キンモクセイの芳香をトイレの芳香剤の香りとしか認識できなかったりする子どもが増えてきました。昔から多くの人たちが生活や自然から直接学んできた知識や知恵、発想力が圧倒的に不足しているのです。
そんな今、とても注目されているのが、生きる力を育む体験学習です。
体験学習ってなに?
体験学習はその名の通り、実際の体験を通して、そのなかから気づきや学びを得る学習方法です。机の前での学びに偏りがちで、直接体験の少ない子どもたちが、実際の作業を通して、作業ごとの役割分担、コミュニケーションの重要性、柔軟な発想などを学ぶことができる学習として注目されています。単純な知識として蓄積されるのではなく、体験や経験から身につく発想力や想像力は子どもたちの人生を切り開く、生きる力になると言われています。
最近では学校でも、地域の伝統芸能や産業に触れる文化体験・ものづくり体験などの体験学習を取り入れるようになってきました。ほかにも、将来の夢や進路の選択を広げるための職業体験など、さまざまな内容の体験学習を進めています。しかし学校での体験学習の実施には集団でおこなうための人数制限、時間や安全面を配慮した制約などがあり、ひとりひとりの子どもにあった体験をさせることは困難です。
そこでぜひ取り組んでいただきたいのが家庭での体験学習です。体験学習といっても難しく考える必要はありません。家族で一緒に、お花見や蛍狩り、磯遊び、雪遊びなどを楽しむことも、立派な体験学習になります。
自然のなかで学ぶ体験学習
体験学習にもさまざまなプログラムや方法がありますが、そのなかでも、もっともおすすめしたいのが自然体験です。森や山、川、海、畑などさまざまなフィールドで学習をすることができます。
自然は、子どもたちの五感を大きく刺激し、自宅や学校、塾、体育館などでは味わえない感動や驚きを与えてくれます。自然の少ない都市部でも、自然に親しめるように設計された公園や水辺など、意外と豊かな自然が残っているものです。自然体験は自然のなかからさまざまな学びを得るだけではなく、家族と思いきり楽しむことによって、家族の絆を深めることもできます。そんな自然体験のなかでも特におすすめなのが、農体験と自然観察体験です。
苦手な野菜を食べられるようになる!? 農体験
野菜を育てたり収穫したりする農体験は子どもも大人も楽しむことができる、人気の体験学習です。
農体験では野菜の種まきや苗植え、さらに収穫まで体験することができます。子どもたちが実際に目にすることの多い野菜の自然の姿に触れることは、子どもたちの食への関心を大いに高めてくれます。
実際に自分たちで採った野菜を調理したり試食したりする体験は、食べ物の好き嫌いを減らしたり、食べ物や栄養に関する理解を深める、食育の効果も期待できます。農体験に参加した子どもが、苦手な野菜を食べられるようになった、という声もあります。
自然のなかで柔軟な思考を育む、自然観察体験
親子で自然の多い公園などを散策することは、よい自然体験学習になります。
ミツバチやチョウを見ながら、花と虫との共存についてや、食卓に上るハチミツができるまでを知ることで、子どもの興味関心を刺激し、学びにつなげることもできます。
オタマジャクシとカエルをそれぞれの季節に見ることで、生き物の成長や変化に関してさまざまな気づきや学びを得ることもできるでしょう。
自然界の調和のとれた仕組みや、驚くべき変化を学ぶことで、常識にとらわれない柔軟な思考を得ることもできます。
しかしなかには、保護者自身も自然体験が少ないので、植物や昆虫などについて、子どもに詳しく教えられない、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そんな方には自然に詳しい専門家が身近な自然を案内してくれる自然観察イベントに参加してみるのもおすすめです。
体験学習は感動や驚きをもたらす経験ができる「楽しい」学びです。子どもの成長を刺激し、子どもの健やかな心身を育てるだけではなく、親子で楽しむことで絆を深めることもできます。ぜひ親子でチャレンジしてみてください。
ライター:岸本 由紀
中学校の国語教師を務めた後、子育てに専念。幼少のころから、二人の息子の習い事や、部活動などを積極的にサポート。子どもたちは生き生きと学生生活を送り、勉強だけではなくバスケットボールの県大会や野球の甲子園に出場するなど、しっかりとした成績を残した。子育てが落ち着いた今も、教育関連に高い関心をもつママライター。
※このコラムは、「ガッケン!ハッケン!学研ゼミ 保護者のよみもの ハッケン!みっけ!」に掲載されていたものです。
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