大人の科学マガジン 肉眼では見えないほどの暗い星が奥行きのある星空をつくる ―プラネタリム・クリエーター大平貴之の恒星原板―
大人の科学マガジン 細渕電球特注版 ピンホール式プラネタリウム
大人の科学マガジンのピンホール式プラネタリウムを監修しているのは、プラネタリウム・クリエーター大平貴之さんだ。1998年に当時の常識をはるかに超える170万個の恒星を投影するプラネタリウム「MEGASTAR(メガスター)」を個人で製作。2004年には「MEGASTAR-II cosmos」を発表し、「世界でもっとも先進的なプラネタリウム」としてギネスブックに認定された。肉眼では見えない星まで、忠実に投影して生み出される圧倒的な星空は日本のみならず国外でも評価され、観る人の心を虜にした。
そんな世界的なクリエーターがつくった家庭用のプラネタリウムが『大人の科学マガジン 細渕電球特注版 ピンホール式プラネタリウム』だ。MEGASTARゆずりの奥行きを感じさせる星空を目指したこのプラネタリウムは、観る人を喜ばせたい満足させたいという大平さんの思いと、開発者としてのノウハウがつまった特別な星空投影機だ。
星をひと粒ひと粒表現する恒星原板
『細渕電球特注版 ピンホール式プラネタリウム』は極小フィラメントを持つ細渕電球と、大平さんが作成した高精細の恒星原板が特長だ(細渕電球の記事はこちら。前編・後編)。恒星原板とは星の座標データを平面に落としこんだ星空の地図のことだ。恒星原板にはその一枚一枚に、針穴のような小さな透明の丸として星が印刷されている。
「恒星原板を組み立てると正十二面体の恒星球になります。まずは恒星球を底面の穴からのぞいてみましょう。ああ、これは南天ですね。天頂を横切るように天の川が流れています。これ、よく見るとわかるのですが、星がひと粒ひと粒の点で表現されています。天の川も小さな点が何万個も集まって、天の川になっているんですね。天の川を星の集まりで表現する方法は昔からあったのですが、そこが一層研ぎ澄まされていると思います。」

▲キットのプラネタリムと、2,200万個の恒星を映し出すことができる「SUPER MEGASTAR-II」。

▲恒星球を底面の穴からのぞいたところ。
恒星原板には1等星から7等星までの星と、無数の星で表現される天の川が記録されており、その数は数万個にも及ぶ。星は大きなサイズもあれば、極小の点にしか見えないものもある。
「恒星を表す点は、明るい星は大きく、暗い星は小さく描いています。点が小さいと通過できる光の量がわずかなので、投影される星は肉眼で見えるか見えないかくらいの明るさしかありません。ただ、この目に見えないようなかすかな星が星空に奥行きを出すんですね。
目に見えない星が実はたくさん映っている。すると夜空に奥行きが生まれる、というのはMEGASTARで培ったコンセプトです。それがこのね、大人の科学のプラネタリウムでも同じような効果が出ている。」

▲北天(上)と南天(下)を投影したところ。天の川も1個1個の星の集まりで表現されている。
恒星原板は位置天文衛星ヒッパルコスが観測した精密な恒星データを基に作られている。ただし、ひと口にプラネタリウムといっても方式や性能は千差万別。同じデータで恒星原板をつくるにしても、プロダクトに合わせて細かいチューニングが行われる。今回の大人の科学用の恒星原板も大平さんが自作した専用ソフトから生まれた。
「恒星原板はまず設計するためのプログラムを自分で作るんですね。そのときに肝になるのは、星をどのくらいの大きさにするかです。ピンホール式で星の明るさを表現するには、大きさを変えて表現します。星は1等級上がるごとに明るさが2.5倍、正確には2.51倍の比率で変わっていくという法則があります。例えばMEGASTARの恒星原板は2.51倍の明るさを忠実に守るように作るのが基本です。
ただ、今回のプラネタリウムだと2.51倍の比率で作ると、小さい星に対して大きい星のサイズが大きくなりすぎるわけですよ。つまり1等星がめちゃくちゃ大きくて明るすぎるということが起こるわけです。じゃあ反対に1等星のサイズを小さくしようとすると、今度は暗い星がつぶれていってしまう。
それを抑えるために等級差を少し圧縮したりするんですよ。計算上はこの大きさになるんだけど、実際はこのぐらいのサイズでいこうというアルゴリズムを考えているわけです。」

▲今回のピンホール式プラネタリムの原板データ。
ピンホール式プラネタリウム専用電球が星空の表現を深くする
奥行きのある星空をつくるために暗い星を暗く映す。目に見えるか見えないか、でもたしかに存在する星を表現するためには、点光源の極小フィラメントを持つ電球の力が大きい。
「あとやっぱり電球の力が大きいんですね。点光源を実現するわずか0.55mmの極小フィラメントを持つ細渕電球になったことで、暗い星がより小さい点として映せるようになります。よく見えないけど、実は星がある、という表現が実現できる。チューニングされた恒星原板と細渕電球が合わさったことで、奥行きのある星空が生まれたと言えるでしょうね。」
このプラネタリウムはピンホール式とよばれる投影方法で星を映し出す。恒星球の中心にある光源が光を放射して、ピンホール(針穴)を通って星を投影する。ピンホール式では光源の形(ここでは電球のフィラメント)が星の形としてそのまま映し出される。そのため光源が点に近く、小さいほど、より星らしい質感で表現することができる。
「細渕さんのこの電球は本当にすごい、僕の子供のときの理想の電球なんですよね。ピンホール式プラネタリムを自作していた子供のときにあったら欲しかっただろうなと思いました。ものすごい探しました、こういう電球を。だから、自分的には何ていうかな、積年の夢が叶ったみたいな感じですよね。このちっちゃいタングステンのフィラメント……、ああ、そっかあっていう感慨が深かった。」

▲ピンホール式投影方法

▲細渕電球(左)と、通常のスポット球での星像のちがい。
星空はそれ自体が天然のアート。プラネタリウムを家庭で楽しんでほしい
「このプラネタリウムは星の位置、星座の形が正確に表現されています。北斗七星のひしゃくの先をたどったら、そこには北極星がある。もっと先にはカシオペヤ座がある。本物の星空と同じわけです。天球というのは360度、地面の下まで含めてあります。360度方向に星座が正しい形に、正しい大きさで、正しい方向に見えること。天球を忠実に表現してるっていうのがこだわりです。
そのうえで、MEGASTARゆずりのきれいな星空を“家庭用プラネタリウム”という条件の中で表現する。位置関係が正しいピンホール式はほかにもあるんですけど、ここまでの天の川を星の集団で表現していることがこれの特徴たらしめている。」
MEGASTARゆずりの奥行きのある星空を目指した大人の科学のプラネタリウムは、本物の星空をできるだけ忠実に再現しようとしている。しかし、星空のデータを切り取るときにそこにはどうしても人間の解釈が生まれる余地が出る。それがまさに大平さんのノウハウが注がれる部分であり、大平さんのつくる星空が人を感動させる理由なのかもしれない。
「本物の星はサイズが無限小なわけです。けれどそれをプラネタリムで表現しようとすると、どうしても面積を持ってしまうわけですよね。そのときにデフォルメって嫌でも発生してしまう。そこで必ずやっぱり人間の取捨選択が出ますよ。どこをよりビビッドに表現するのか、あるいはどこに目をつぶるのかみたいなね。
星空はそれ自体が天然のアートみたいなもんだと思ってて。だから人は本物の星空を見て感動をします。プラネタリウムは本物の星空ではないですよね。でも少しでも本物に近づけようとする行為が、結果として何かを生み出している。僕はそう思っています。」
「やっぱりプラネタリウムって人を喜ばせて初めて価値が生まれるわけですから。人間って周りの人が喜ぶことを喜ぶように生まれつきできてるじゃないですか。本能ですよ。そこに向かっていくのが自分の喜びみたいな。僕はこのプラネタリウムが使われているシーンを想像します。お手洗いで使うとか、個人宅の天井で映してみるとか。寝る前に映したらどうだろうかとか。そのときにどういう星空が見えたらいいんだろうか、それは僕なりに最大限イマジネーションするわけです。その人の使うシーンを想像しながら、感動してくれたらああよかったなあ…そう僕は思います。」
大平貴之(おおひらたかゆき)
https://www.megastar.jp/
プラネタリウム・クリエーター。有限会社大平技研代表取締役。小学生のころからプラネタリウムを作り始め、大学生の時には専門会社でしか不可能と思われていたレンズ式プラネタリウムを個人で製作。1998年に発表された「MEGASTAR」は進化を続けて、日本各地の科学館など世界14か国47以上の施設で鑑賞することができる。信条は、「人間は可能は証明できるが不可能は証明できない」。
文:編集部 写真:大野真人
商品について
■書名:『【2,000個以上予約受注で発売決定】【Amazon.co.jp限定】大人の科学マガジン 細渕電球特注版 ピンホール式プラネタリウム』
■監修:大平貴之 電球製造:細渕電球株式会社
■編:大人の科学マガジン編集部
■発行:Gakken
■発売日:2025年7月22日
■定価:12,100円(税込)
本書を予約する(Amazon)※本商品は2,000件以上の受注で発売が決定する、条件付き予約受注生産販売の商品です。生産数量は最大3,000個を予定しています。