【おさかなちゃん★ 原作誕生20周年/Gakken版誕生10周年】 ヒド・ファン・へネヒテン×古藤 ゆず WEB対談風メッセージ-後編-
『ちっちゃなおさかなちゃん、うまれたよ!』
ベルギー発の絵本「おさかなちゃん」は、今年2024年で原作誕生20周年、Gakken版誕生10周年をむかえるロングセラーシリーズです。記念すべき大切な年に、なんと日本から企画提案した新作が登場!
シリーズ原作者のヒド・ファン・へネヒテン氏と、新作の企画・構成・文を担当した古藤 ゆず氏に、実現への経緯やウラ話をお話しいただきました。ベルギーと日本それぞれから届いた、作品への愛とおたがいへの敬意がこめられたメッセージを、おふたりがWEB上で対談している風に楽しくご紹介していきます!
ヒド・ファン・へネヒテン〈絵〉
ベルギーを代表する絵本作家。世界25言語以上に翻訳された「おさかなちゃん」シリーズの作・絵を担当する原作者。日本から発案された『ちっちゃなおさかなちゃん、うまれたよ!』の企画に賛同し、ベルギーでも同時期に出版を決定。世界中に紹介され、続々と翻訳出版のオファーが届いている。
▲「おさかなちゃん」の絵本は世界中で読まれている
古藤(ことう) ゆず〈企画・構成・文〉
出版社で編集の仕事を経て独立。乳幼児向けの本の企画、執筆を数多く手がける。「おさかなちゃん」シリーズではこれまで翻案を担当し、こどもが喜ぶオノマトペを加えて65万部超の大ヒットを記録。ベルギー、日本ともに記念すべき周年である2024年に向け、ヒド・ファン・へネヒテン氏へ提案した『ちっちゃなおさかなちゃん、うまれたよ!』は、物語を絵コンテから立ち上げて彼の賛同を得た、世界初の作品。
繊細なテクスチャーにこめられた思い
▲ママとパパ、おさかなちゃんがそろう、シリーズ初の表紙
――「おさかなちゃん」シリーズは、キャラクターや背景のテクスチャーがとても繊細で美しいのが特徴ですが、今回も細部まで美しいですね。どんな画材やテクニックを使っているのですか?
ヒド: 背景の地面や海草には、あらゆる絵画のテクニックを使っています。ひっかいたり、型押ししたり、絵の具を飛びちらせたり…。
さらにデジタルでは、意外性のある新しいテクスチャーを常に探しているんですよ。
▲ひっかいたり、絵の具を飛びちらせたりしたような模様の海草
▲海草や岩肌のザラザラ、デコボコした質感が伝わってくる
―― ママとパパのからだには、木目のようなテクスチャーが見えますが、これはどのように描かれているのでしょうか?
ヒド: 幅が広くて毛が太めのブラシと、濃い絵の具を使って、あえて均一に塗らないようにしました。テクスチャーはわたしにとって、非常に重要なもの。あまりにつるんと平坦な絵は好きではないんだ。「さわったらどんな感じだろう?」と、思わず考えてしまうような絵をめざしています。テクスチャーは、それぞれの生き物の個性にもつながるのです。
▲どんなさわり心地なのか、想像するのも楽しいかも?
“日本ならでは”のたくさんのくふう
▲日本語版の表紙(左)とベルギー版の表紙(右)
―― 「おさかなちゃん」シリーズの日本語版とベルギー版をくらべると、いろいろと違う点がありますよね。
古藤: ベルギー版は主に2~4歳を対象としています。0~3歳を対象としている日本語版よりも年齢がやや上向けということもあって、なかページの紙も薄く、本のサイズは大きく、文字は小さめ。色や配置など、全体に落ち着いた雰囲気があると感じます。日本語版は0~3歳向けということもあり、厚紙のボードブックタイプ。つるつるの表面加工もしてあり、手に取りやすい雰囲気を大事にしています。こどもの視野を考えて、本のサイズは小さめです。ページサイズに対する絵や文字のサイズ比率も大きめにしてあるし、日本語版だけのオノマトペ(擬音・擬態語)などもあって、親しみやすさや楽しさを盛りあげています。
ヒド: たしかに、小さな違いもあれば大きな違いもあって、すべて挙げることは難しいね。でも、どちらのバージョンも、おさかなちゃんであることに相違ありません。作者のわたしにとっては、それが一番大切なこと。それに、原作を尊重して日本語版が作られていることがわかるので、とても感謝しています。改めてありがとう!
▲ベルギー版の1シーン。下の日本語版との違いにいくつ気づくだろうか
▲日本語版ではキャラクターのサイズを少し大きくし、より「いないいないばあ!」らしいインパクトを
強調。また、泡を増やすことで「ばあ!」と飛び出す楽しさを盛りあげている
―― 日本語版では、海の仲間のネーミングや動作をオノマトペ(擬音・擬態語)で表すなど、より本能や感覚に訴えかける表現に変えています。このことについてはどう思いますか。
ヒド: 日本語版では、0〜3歳の対象年齢に合わせて、一貫した翻案が行われています。「おさかなちゃん」が日本の読者に受け入れられるようによく考えられ、原書を尊重した翻案が行われていることをとてもうれしく感じます。
古藤: ありがとうございます! 日本のこどもたちは、音の響きだけでワクワクできるオノマトペが大好きです。「おさかなちゃん」は図鑑ではなく物語なので、想像の海のゆかいな生き物や世界観をめいっぱい楽しんでほしいと思いました。まだおしゃべりできない幼いこどもも、オノマトペによって自然と動きをイメージしたり、ネーミングで個性を感じたりができるといいな、と。
▲やわらかいからだの「くにゃ~る」は、おさかなちゃんを見て長いあしを「くにゃっ くにゃっ」
▲小さな「きょろろん」たちは、おさかなちゃんと遊びたくて、おめめを「きょろろ」「きょろろ〜ん」
おさかなちゃんのママとパパは、どんなキャラ?
――『ちっちゃなおさかなちゃん、うまれたよ!』は、おさかなちゃんのママとパパの両方が登場するところが魅力のひとつです。ママとパパはどんな性格でしょう?
ヒド: おさかなちゃんのママとパパは、すべてのママとパパを代表する存在。個性についても、いろいろな国の読者にとって共感できるものであるようにと考えて描いています。ママもパパも親になったばかり。パパはまだまだやんちゃですが責任感があり、おさかなちゃんのことが大好きです。ママは思いやりがあり、おさかなちゃんをやさしく見守っています。
古藤: たしかにパパは、ちょっと調子にのっちゃうタイプかも(笑)! でも基本的に、パパもママも明るくおだやかな性格で、海の仲間たちとの毎日を楽しんでいると思います。読者の実生活でも、10年前よりずっとパパが育児に関わるようになり、こどもとのコミュニケーションも増えている様子。ママとパパがいっしょにおさかなちゃんを見守るストーリーはきっと共感してもらえる、と信じています。
新作の完成をむかえて
―― 完成した絵本のなかで、とくに気に入っているのはどのシーンでしょう?
ヒド: きょろろんたちが登場するシーン。かわいいでしょ?
▲「きょろろん」たちは新しいお友だちの誕生がうれしくって、「あそぼうね」「たのしいよ」と誘います
古藤: わたしは、やはりラストのせいぞろいのシーンです。みんながおさかなちゃんを愛おしく思う気持ちがページからあふれています。ここの文については、絵が完成したあとも推敲をくり返して、最後まで悩みました。自分のこどもが生まれたときの気持ちを時間をかけて思い出し、そうして出てきた「ママ パパ みんなに かこまれて おおきくなあれ! おさかなちゃん」の文は、とても好きです。
▲仲間たちがせいぞろいのシーン。おさかなちゃんを見つめるあたたかい笑顔にも注目!
―― では、登場する海の仲間のなかで、いちばんのお気に入りはどの子ですか。
ヒド: だれというよりもまず、海の生き物の色と形がみんなそれぞれ違うところが、何より気に入っています。なかでも「ぴぴん」たちがおもしろいと思います。
▲「ぴぴん ぴん!」と元気にとびはねて、おさかなちゃんの誕生を喜ぶ「ぴぴん」たち
古藤: わたしも、みんなそれぞれに思い入れがあります。しいてあげるなら「ぐるり~ら」でしょうか。みんなを見守る「海の主」のような存在で、他の巻にいない、おばあさまっぽいキャラクター。子守歌を歌っちゃうところや「ねるこは そだつ~♬」なんて言うところもおかしくていいなと思っています。大人のかたもお子さんも、気分がのってきたら、いっしょに歌っちゃうと楽しいですよ!
▲大きくて存在感のある「ぐるり〜ら」。精霊のような声で歌うイメージ
―― 最後に、今回の物語を通じて表現したかったこと、読者に伝えたかったことをお願いします。
ヒド: この作品を作るタイミングで、偶然にも、親族に赤ちゃんが生まれたところでした。赤ちゃんをむかえるときのウキウキした気持ちや喜びを、表現したいと思いました。新しい命をいつくしむというのは、人生においてとても大切なことです。赤ちゃんの世界が広がっていくのを見守るのは、素敵な体験です。そんなことが伝わるとうれしいです。
▲ベルギーのアトリエにて
古藤: おさかなちゃんの世界には、慈愛に満ちたゆかいな仲間がたくさんいます。まだ「おさかなちゃん」を読んだことがないママパパ、たくさんの絵本が並ぶ売場を前にどんな物語から読み始めればいいのかとまどわれているママパパも、ぜひこの1冊を入り口に「おさかなちゃん」シリーズを手に取ってほしいです。今回お祝いにかけつけた仲間のなかには、シリーズの他の巻でまた会える子もいます! そして、自分が生まれたとき、ママパパがどんなにうれしかったことか、どんなにみんなに喜んでもらえたことか、を知ることは、こどもやママパパの自己肯定感をはぐくむ、と思います。
▲ママパパの気持ちとこども目線を大事にした絵本づくりのために、検証や努力を惜しまない
古藤: それと、日本語版10周年に際し、改めて、第1巻『ちっちゃな おさかなちゃん』の発売から10年間、たくさんのこどもとママパパに読んでもらえたんだな、と感慨ひとしおでした。思い返せば、翻案を考える際にぴったりくる表現がなかなか出てこなかったときは、苦労しました。何日もず――っと言葉を考えていることもありました。でも、書店で手に取って買っていかれるかたを見たときや、SNSで上の子が下の子に読んであげている動画を見たときには、気に入ってくれているんだな〜、と思って励みになりました。数年前に「おさかなちゃん」の世界観でトレーナーやジグソーパズルなどにグッズ化されたことも、うれしい経験でした。この場をかりて、みなさんに感謝をお伝えいたします。
▲愛読者はがきより。編集部には毎日のようにママパパのうれしい反響が届く
▲日本のメーカーから発売されたトレーナーやジグソーパズルは、
原作出版社Clavisの絵本カタログのイメージ写真にも採用された
商品概要
■書名:『ちっちゃなおさかなちゃん、うまれたよ!』
■絵:ヒド・ファン・へネヒテン 企画・構成・文:古藤 ゆず
■発行所:Gakken
■発売日:2024年4月4日(木)
■定価:1,100円 (税込)
■「おさかなちゃん」シリーズ
▲「おさかなちゃん」シリーズ既刊。心をはぐくむ「おはなし絵本」と
遊んでにこにこ「脳そだて絵本」の2ジャンルがある
■関連サイト
■関連記事