地元の電車から最新の運行システムまで! 好奇心と多角的な視点から生まれた、無敵の鉄道図鑑

クリエイター・インサイド『学研の図鑑LIVE 鉄道 新版』梅崎洋

更新日 2023.06.06
公開日 2023.05.23
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 Gakkenが生み出す、数々の個性的で魅力的な商品・サービス。その背景にあるのはクリエイターたちの情熱です。(株)Gakken公式ブログでは、ヒットメーカーたちのモノづくりに挑む姿を「インサイド・ストーリー」として紹介しています。今回は、『学研の図鑑LIVE』シリーズの中でも根強いファン層を持つ『学研の図鑑LIVE 鉄道 新版』の編集を手掛けた、梅崎洋です。

 日本は、鉄道大国だ。毎日多くの人が利用し、公共交通機関として人々の暮らしに根付いている。それだけに、子どもたちや鉄道が好きな多くの人たちにとって、鉄道は単なる交通機関以上の価値をもつ、特別な存在といえるだろう。

 新たな新幹線の開通や、最新の運行システムなど、日々進化している鉄道。この鉄道図鑑を、かつて「科学と学習」の編集、科学実験イベントの企画運営など多様な経験を重ねたベテラン編集者の梅崎が手掛ける。7年ぶりの改訂で、世に送り出されるのだ。

ひと目見るだけで知的好奇心を刺激する、丁寧な仕掛け

 『学研の図鑑LIVE 鉄道 新版』の収録車両数は約850種類。2024年春から運行予定の山形新幹線E8系から、各地の路線を走る新型車両、最新情報を網羅している。だが梅崎は、「最新情報の網羅ならば、新版では当たり前のこと」だという。

 むしろ腕の見せどころは、日々進化し続ける鉄道の世界を、子どもたちの興味をそそる “新しい切り口”や、“面白い仕掛け”をどのように仕込んでいくかなのだ。

 「いくつかのアイデアは、最初の段階ですでに持っていました」

 まず、車両の見せ方を刷新した。これまでのLIVEでは車両本体とその背景が写っている四角い写真=“角版”がほとんどだったが、梅崎は、車両本体のみの輪郭を切り抜く、“切り抜き”のスタイルも多く採用した。

 「新型車両や、あまりお目にかかれない観光列車の場合、読者は細かいディテールまで見たいと思うのが自然かなと。 “切り抜き”だと、紙面のレイアウト上、より大きく車両を見せやすいので、細部まで確認できるというメリットがあります」

 デザイン処理の作業量が数倍になり、さらに新しい車両情報も入ってくると締切とのたたかいにはなるが、車両にフォーカスできる良さを優先した。

 「もちろん角版写真にも魅力があります。架線や線路、風景が入ってこそ鉄道が引き立つとも考えられます。今回、車両に特徴のある特急車両と観光列車以外は、一部を除き角版にする“いいとこどり”の構成にしました。地域性のある風景や周囲の情報も加わり、写真の情報量でも満足感を得られると思います」

紙面を最大限に活かして、迫力満点の“本物”を

 大きさや特徴などを比較する、“くらべるページ”にも工夫を施した。学研の図鑑のなかでも、科学的視点を養うために生物系の分野でよく使われている企画だが、鉄道にも応用できると考えた。

「単にくらべるだけではおもしろさにかけてしまうので、アレンジを加えました」

 新版では観音開きの見開き4ページに新幹線を7種類載せて比べている。運転席から先頭までのノーズだけでなく、続く2両目以降の車両の長さや形、模様の違いが一目瞭然となった。車両の全編成も載せてシンプルな長さ比べもできる。小さな子どもでも楽しめる仕掛けだ。

 さらに、「本物の大きさ」ページでもよりおもしろいものを厳選した。吟味を重ねた結果採用したのは“レールの断面図”と“踏切の警報灯”であった。実物写真は紙面いっぱいに広がり、迫力のあるページに仕上がっている。

▲踏切の警報灯。全国に普及しつつある全方向から視認可能なものを掲載している。

 「ページを見た方はきっと『意外と大きいんだな』などと思われるのではないでしょうか。普段は近くで見ることができない踏切の警報灯ですが、図鑑で思う存分楽しんでほしいです」

好きな世界の知識を深めるというのも、図鑑の役割

 梅崎の考える図鑑とは、子どもたちにとって、“はじめの一歩を探す身近な一冊”なのだという。

 「最初はそんなに興味がなくても、見ているうちに夢中になる。図鑑はいろんな分野への入り口になる存在だと思ってます」

 そして、梅崎が考える図鑑のもうひとつの役割が、“好きな世界をとことんまで追求するキッカケ”というものだ。たとえば新幹線が高速で走るところが好きになったならば、どうやって動いているのか、そのメカニズムを知りたくなる。

 梅崎は「鉄道への興味を、この図鑑でさらに深めてほしい」と考え、早稲田大学先進理工学部の近藤圭一郎教授に監修を依頼した。

 「近藤教授は、“子どもの頃は学研の鉄道図鑑が愛読書だった”という鉄道ファンです。現在のご専門も、鉄道を電気で動かす研究開発や、電気で動く乗り物全般のエネルギー消費の低減に関する研究などです。鉄道にとどまらず、乗り物全般の技術分野においてすぐれた知見をお持ちでした」

 近藤教授からは、最新の設備の解説や、鉄道の技術的な見解など、監修の作業でいくつもの鋭い指摘が入った。

 「たとえば信号機については、旧版では “駅の設備”のページに載せていたんですが、先生から『信号機は運行に関わる設備だから、安全管理のページで解説しよう』と提案いただいて」

 専門家からのアドバイスにより、イメージではなく、本来の役目を明確にした紹介ができた。「情報の正しい分類」も図鑑の大切な要素だ。

 「近藤先生には、全体の監修だけでなく、省エネ化、自動化が急速に進んでいる昨今の状況を見据えて、最新の鉄道の情報にとどまらず、多くのものを組み合わせて鉄道を安全に運行するための技術についてもご指摘いただきました。 最新の知見に触れることで、子どもたちの興味や想像力が、よりふくらんだらいいなと思っています」

 くらべるページや「本物の大きさ」ページ、最新の鉄道……これまでの鉄道図鑑にくらべると新しい切り口になってきたが、鉄道をより好きになってもらうために、「もっと何かあるはずだ」と切り口をさがした。

 「これは意外でしたが、すべての鉄道会社の情報を載せた鉄道図鑑がなかったんです。新版をみた子どもたちが興味のある鉄道を見つけて『あ、いつも乗っている電車の会社は、自分の家の近くだ』などと発見したら、親近感をもちますよね。『同じ会社で、こういう車両もあるんだ。』『家から少し足をのばすと、この電車も見られるかな』など、電車を通して、地域への愛着というか、興味関心が広がるのではないかと思ったんです。そこで、この新版では、日本全国全ての会社の情報を紹介すると決めました」

 

 鉄道会社の情報には、各社が運行しているエリアの地図を加えた。本社がどこにあるかもわかるようになっている。

「『このエリアは4社も電車が通っている』とか『路線がここでふたつに分かれて、もっと遠くへ続いているんだ』などと新たな発見があると思います。すべての会社に確認を取ることは大変でしたが……『今度夏休みに行ってみよう』という展開になったときに役立つ情報が入った図鑑でありたいと考えました。」

子どもたち憧れの鉄道。その“裏側”を届けたい

 「鉄道会社のみなさんのお話を聞いてつくづく感じたのは、やはり鉄道愛です。だれもが、鉄道を誇りに思っている。僕はそんな心に触れて、感動する場面が多々ありました。
 地方鉄道だと特に、地域の人に応援されているんです。風景の一部、生活の一部になっていて、『車で行けるけど、使うようにしている』という人もいて。そういう期待に応えるために、省エネに適した車両を導入したり、機能を向上させた新型車両を定期的に導入したり……鉄道に関わる人の裏の努力もみせたいと思いました。」

 付録のDVDでは、大井川鐵道の『きかんしゃトーマス号』と西九州新幹線の『かもめ』を取り上げたが、その映像は梅崎が直接現地に赴いてロケを敢行した完全オリジナル映像である。そこには蒸気機関車が走り始める前の準備の様子など、鉄道の運行の裏側も収録した。

 
「子どもたちには、かっこよく、ビューンと走る電車のシーンが好まれやすい。そういった映像ももちろん入れていますが、新版では、走るまでの苦労だったり工夫だったりの視点も入れたいと思いました。表からは見えない部分だからこそ、子どもたちに興味を持ってもらえるかな、と。
 たとえば打音検査。車輪のまわりと車体をつなぐボルトを、カンカンとひとつずつ金づちで叩いて音で確認する安全点検です。普段と違う音がすれば、ボルトが緩んでいる証拠で、ボルトを締め直します。こうした人の手で行われている職人的な整備をじっくり見る機会ってあまりないですよね」

▲大井川鐵道の『きかんしゃトーマス号』整備の様子

 蒸気機関車は職人的な整備の様子が映像でわかりやすく見ることができる。石炭の火入れから入念な油さしまで、その細かさ、丁寧さには、安全運行を目指す人たちの心意気が詰まっているのだ。

 図鑑の中では、鉄道の仕事に携わる、運転士、車掌、駅長など、新幹線の安全な運行を支える6つの業務をインタビュー形式で紹介する特集も掲載している。

鉄道は、単なる交通手段を超えた特別な存在

 「自分は田舎出身で、近くに電車が走っていなく、電車少年ではなかったのですが、初めて乗ったときの印象は残っています。子どもの頃、富山から兄弟だけで千葉の親戚の家まで旅行に行きました。行きで親が見送り、到着地点では親戚のおばちゃんが待っている、みたいな。普段乗り慣れていないというのもあり、『特別な乗り物で行く』という感覚だったのを、今でも覚えています」

 子どもの頃は馴染みのなかった鉄道を、今は知れば知る程、好きになっていったという。

 「根っからの鉄道好きじゃなかったからこそ、新鮮さをもって、ほかの鉄道図鑑ではやっていないようなことにチャレンジできたのだと思います。この図鑑は、文字の読めない小さなお子さんから楽しめて、知識を深めたい、将来 “鉄道博士”になるような子どもたちの期待にも、十分に応えている内容になっていると思います。貴重な情報も多いので、この図鑑を長く、とことん使い倒してほしいですね」

 “乗り鉄”や“撮り鉄”だけでなく、“見る鉄”“読む鉄”になってほしい。1人でも多く鉄道ファンが増えてくれたらうれしいと梅崎はいう。

 大好きな世界をより深め、新たな「知の冒険旅行」へと走り出す『学研の図鑑LIVE 鉄道 新版』は、2023年6月に発売される。

 

(取材・文=吉田 順 撮影=多田 悟 編集=櫻井 奈緒子)

※発売前の取材内容のため、商品の内容は変更となる場合があります。

 

クリエーター・プロフィール

梅崎 洋(うめざき・ひろし)

 富山県出身。1995年に入社し、学年誌『6年の科学』を担当。その後、科学実験ショーや実験教室の運営企画に携わり、2019年より図鑑編集部で多種多様な図鑑を手掛ける。

 

商品の紹介

『学研の図鑑LIVE 鉄道 新版』

 全鉄道会社の情報(本社位置まで)も掲載しており、“鉄道好き”の期待に応える図鑑です。収録数は類書中最多の850点以上。日本全国の最新車両に対応し、2022年9月開業の西九州新幹線「かもめ」や2024年春から運行予定のE8系山形新幹線も掲載しています。
 総監修の近藤圭一郎先生(早稲田大学先進理工学部電気・情報生命工学科)は元鉄道総合技術研究所の研究者。「鉄道のしくみ」や鉄道のお仕事などのページも大充実しています。

■総監修:近藤圭一郎(早稲田大学先進理工学部電気・情報生命工学科
■発行:Gakken
■発売日:2023年6月15日
■価格:
2,860円 (税込)

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学研の図鑑LIVE公式サイト

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