アルフレッド・アドラーが創始した「アドラー心理学」がにわかに世間で話題になったのは、いまから2年半ほど前のことです。その後もアドラー人気は衰えず、いまではアドラー心理学と「幸せ」の関わりがクローズアップされています。
幸せ、すなわち「幸福」と心理学との間には深い結びつきがあります。そもそも多くの人が心理療法家に相談に行くのは、不幸な状況から脱して幸福になりたいからでしょう。
そういう意味で心理学は、人の幸福に貢献する学問とも言えるわけです。
では、アドラー自身は幸福をどのようにとらえていたのでしょうか。
結論から述べると、アドラーは「他者への貢献」が幸福の最大の鍵と考えていました。
どういうことか説明しましょう。
私たち人間を他の動物と比較してみてください。身体の大きさや走る速さ、泳ぎのうまさなど、人間より優れた動物が多数存在します。こうした動物に囲まれて生きなければならなかった太古の人間は、生き残りのためにあることを思いつきました。それは集団を形
成することです。
集団でかかれば身体の大きな動物を敵に回しても戦えるでしょう。また、どう猛な動物から身を守るのも、1人でいるより集団でいるほうが利点は大きいでしょう。こうして集団で生きることを選択した人間は、社会的な生き物になるべくしてなり、現代に至ったと
言えます。
このように、人間は1人では生きられないとすると、集団の他のメンバーと良好な関係を結ぶことが、生きるための条件になります。そのためには、自己中心的ではなく、他者に貢献する態度がどうしても必要になります。
他者に貢献する人は、集団から見ると価値ある存在です。言い換えると、他者への貢献があって初めて集団はその人の価値を認めます。また、集団から認められることで、人は自分の価値を認識すると同時に、集団の中に自分の居場所を見つけられます。こうした自己尊厳の目覚めや集団への所属感が、その人に幸福感をもたらします。このようなことからアドラーは、幸福への最大の鍵として、他者への貢献を挙げたわけです。
ただし、アドラー心理学が提示する幸せについてより深く理解するには、アドラー以降の心理学の知見を活用すべきだ、と筆者は考えています。
中でも人間性心理学を創始したアブラハム・マズローの自己実現論、マーティン・セリグマンが提唱したポジティブ心理学の持続的幸福論、心理学者ミハイ・チクセントミハイのフロー体験論の3つは特に重要です。というのも、これら3つの知見とアドラーの思想を組み合わせると、アドラーの幸福論がより精緻で実践的なものになるからです。
では、これから8回にわたって、アドラーの説いた「幸せ」についてお教えしましょう。
中野 明 (なかの あきら)
ノンフィクション作家。1962年、滋賀県生まれ。立命館大学文学部哲学科卒。同志社大学非常勤講師。「情報通信」「経済経営」「歴史民俗」の3分野をテーマに執筆活動を展開。
著書は『超図解 勇気の心理学 アルフレッド・アドラーが1時間でわかる本』『超図解 7つの習慣 基本と活用法が1時間でわかる本』『一番やさしい ピケティ「超」入門』『超図解「デザイン思考」でゼロから1をつくり出す』『超図解 アドラー心理学の「幸せ」が1時間でわかる本』(学研プラス)ほか多数。
作品紹介
フロイト、ユングと並ぶ心理学の巨人、アルフレッド・アドラーが説く「幸せ」の要点を、短時間で一気に理解できる超図解本。
定価:本体1,200円+税/学研プラス
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