「仕事がうまくいかないな……」
　そんなふうに感じるとき、人間の意識はたいてい、自分や他人の短所ばかりに注意が向いている。
　よい点を無視し、そこを育てようともせず、ダメな点ばかりに目がいくという特殊な精神状態。できる誰かと自分を比べ、あるものではなく「ないもの」を嘆き、ジクジクと心を痛める。
　この自虐行為が、私たち日本人はなぜか大好きである。
　そこで、「仕事の成果」がどこからやってくるか？　に目を向けてみよう。
　仕事の成果や売上は、あなたの「長所」や「よいところ」が生み出している。
　会話で顧客を惹きつける者もいれば、優れた提案書を武器に契約を取る者もいる。
　成果は人間の「長所」についてくる。
　会社にしてもそう。「強い商品」が利益を生み出し、会社を存続させ、社員の生活を守っている。
　人も会社もそれぞれの「得意分野」や「特殊技能」が成果を生み出すのだ。
　それにもかかわらず、なぜダメなところにばかり目がいくのか？　そしてクヨクヨ悩むのか？　チクチクと部下を責めるのか？
　私たち人間は、このように実に奇怪な思考を巡らせる。
　人生で起死回生をはかりたいなら、自分の短所は思いきって捨て置き、長所だけに目を向け、そこを際限なく愛し、そして無謀なまでに伸ばす。
　あるいは部下やチームの「長所」を拾い上げ、それを活かして、かつ短所が目立たないような適所に配置換えする。そのように振り切るほうが得策だ。
　たとえば仕事でダメな部分は、得意な人に任せてしまう。「長所だけ」をぐんぐん伸ばしたほうが成果も上がり、信頼もされ、その道の第一人者としても認められる。
　このシンプルな考え方を、ただただ実行する。それだけであなたの境遇は、必ず変わる。
　もう自分や誰かの弱点に目を向けるのはやめにしよう。それは仕事の成果を小さくし、おまけに心を痛めつけることにしかつながらない。
　自分や部下の弱点にばかり目がいくリーダーは、無意識に取り返しのつかない大きなミスを犯す。
　部下の大きな欠点をつつき、欠点を直すことばかりに時間と労力をかけるのである。
　当然ながら、こうなると、部下としては長所を伸ばすことができない。
　業績も伸びないし、やる気も失せる。ここで悪循環が起こる。部下たちのセルフイメージは下がり、成功体験を味わえずに萎縮していくのだ。
　リーダー本人もまた、大いに苦しむ。部下の才能を活かしきれずに、成果が上がらず、部下に対して被害者意識を感じながら大きなストレスを溜め込む。
　部下の欠点には、少々は目をつむる。そして長所を大きく活かす。このような「割り切った采配」ができるかどうか？　そこがリーダーとして運命の分かれ道となる。
　長所を見つけたら、その長所に合った大胆な配置換えをする。
「人事のコツは、合わないと思ったら１日でも早く、勇気を持って配置換えをすることである」
　これは多くの人事のプロが実践するルールである。
　マイナスを埋めるための教育の時間と労力ほど、無駄なものはない。その労力で「人探し」をしたほうが効果的なのだ。
　相手の大きな長所を見つけ、その大きな長所が活かせる場所、成果が出せる場所を探す。そしてその場所にポジショニングする。
　それが、チームを強くする秘訣である。
　自分を成長させるのも「長所」なら、人を成長させるのも「長所」だ。自分に対しても人に対しても、「いいところを伸ばす」姿勢が、大きな成長をもたらす。
　人生には「不得意なこと」や「弱点」、ましてや「嫌いな分野」に目を向けている時間などない。
　得意で好きなことに全部の時間をかけ、超特急で成果を上げる。
　それが、あなたがチームを未来に向けて巻き返せるかどうかのポイントである。
　リーダーとしてのあなたが、捲土重来を果たせるかどうか、その９割は「長所の育成」と「人材の適所配置」にかかっている。もちろんチームメンバー一人ひとりにとっても、それが人生巻き返しの大きなチャンスとなるのである。