道尾秀介(作家)対談 「Jam Session」

UPDATE 2020.07.21
公開日 2014.03.18

道尾:(style-3!のTシャツを着て登場した道尾)ライブも、いつもこれで行ってます(笑)。

高嶋:ありがとうございます(笑)。僕はけっこう本を読むのが遅いんですけど、『光』は一日で夢中になって読んでしまいました。まずは普通に読んでしまって「そうだ、対談するから、意見をまとめなきゃいけなかった」って思い出して、結局三回読みました。三回とも違った発見がありました。同じ本を二回、三回と読むこと僕は無いので、本当に楽しかったです。

道尾:本当ですか? ありがとうございます。

高嶋:この中に、「小学校の頃はトイレの大の方に行くのが恥ずかしい」みたいなエピソードが出てくるじゃないですか。そういうのが懐かしかったですね。小学校の夏休みの話というのが僕は大好きなので。あと、最後のスパート感がたまらないんですけど、最初の方に全部伏線が張られているんですよね。曲作りも同じで、一つのフレーズをちょっと変化させながら使っていく、という手があるんです。例えば「声」というフレーズが中盤に出てきたら、また最後でも使うとか。『光』も冒頭で出てきた台詞がまた最後でリフレインされますよね。そういう風に出てくるものが全部無駄なく、計ったように、でも無理のない自然の流れのままで出てくるのが「すげえなあ」と思いました。

道尾:ありがたいです。

長澤:僕も普段は本を読む機会が少なくて、どちらかと言うと夏休みの読書感想文もギリギリまで読めないような人間だったんです(笑)。でも今回はじっくり時間をかけて読みました。登場人物の個々の性格などが非常にわかりやすくはっきりしていますよね。特に慎司っているじゃないですか。彼はもう自分がモデルなんじゃないかって(笑)、そんな風に感情移入しながら読みました。すごく楽しかったです。最初は冒険ものなのかな、って思いながらページを開いたんですが、後半になるに従って謎解きの要素も出てきて。最後の最後で種明かしされることがあるじゃないですか。あれも、僕が鈍感なので気づかなかったのかもしれないけど、「おお、やられた」と思いました。

道尾:ありがとうございます。

堀江:読み始めたときには「市里修太」って誰なんだろう? とか、なんでアポロ宇宙船の話が最初に出てくるんだろう、とか不思議なことがあって。本文の中でもちょこちょこ「え?」と感じたことがあったんですが、その意味が最後にわかるのがすごくおもしろいですね。アポロの話で言うと、各章の合間に現在の視点が挟まれていて、それを道尾さんが書いている、というのを読者である自分たちが観ている。それがアポロ宇宙船の設定と一緒なのかなって深読みしちゃったんですけど、そういう本の作りが他の作品とは違っていますね。あとは、人によって視点がすごく違っていて、Aという人から見るとBのしたことは悪いことに見えるんだけど、実はとても良心的なことをしていたんだ、とか。そういう登場人物同士の絡みにも感心しました。私も三回ぐらい読んだんですけど、道尾さんの他の本も二冊読ませていただきました。どれもすごくおもしろかったです。ありがとうございます。

子供のために、子供の目線で作った曲を聴いて僕が「光」を思い出した、というのも偶然ではなかったんですね(道尾)

道尾:いえいえ、こちらこそありがとうございます。僕はまだstyle-3!さんのファンとしては新参者なんですけど、アルバムを聴くたびにいつも思い出すのが、『光』というこの作品なんですね。曲を聴くと『光』の各章のシーンたちを思い出す。そういうアーティストさんは初めてだったので、今回のシリーズ対談では絶対に来ていただかないといけないな、と。いつも僕は三人の写真をCDのジャケットで見ているわけですよ、そこに僕がいるっていうのが、まるでハメ込み合成のようで奇妙です(笑)。僕がstyle-3!さんの存在を知ったのは、じつはつい去年のことで、「ものすごい路上ライブをやっている人たちがいた」みたいな動画がネットにアップされていたんですね。その動画で演奏していた曲が「花雷」だったんです。それでぞっこんになってしまって、すぐにCDを全部買いました。そのときちょうど、関内ホールのワンマンがチケット販売中だったので、それも聴きに行って。ライブパフォーマンスも、ものすごいですよね、本当に。

高嶋:関内ホール。去年の8月ですか? 僕、走り回っていたでしょう(笑)。

道尾:はい。袖に消えたと思ったら、バイオリンを弾きながらあの、花道っていうんですか?

高嶋:あれは単なる通路ですね(笑)。

道尾:あそこをバイオリンを弾きながら走って行かれて。バイオリン弾きながら走る人も、跳んでる人も、ブリッジしてる人も見たことなかったので、まず驚きました。なのに、まるでCDのようにまったくブレずに演奏されるじゃないですか。あれもびっくりしたんですよね。このあいだの年末のトークショーも、新年のライブも、ぜんぶ行かせていただきました。次はいよいよ渋谷公会堂ですよね。

高嶋:そうですね。頑張らなくては、と思っています。今回、道尾さんがstyle-3!のこの曲を聴くと『光』のこの章を思い出す、というリストを作ってくださったんですが、「stories」とか初期のころに作った作品が多いんですよ。その頃って、ショッピングモールで演奏することが多かったので、子供を振り向かせる、子供の心で作ったものが多かったんです。小学校のころの思い出だとか、父親に川に連れて行ってもらった記憶だとか。そういうものを特に強く曲に反映していた頃なので、そこからリンクさせてもらったのは納得がいきます。

道尾:なるほど。確かに、最近のヒット曲の「花雷」なんかは、『光』のイメージではないですね。ああそうだ、通じ合うと言えば、堀江さんは僕が昔メタルバンドをやっていたときのドラマーと一緒にバンドをやられていた時期があるんですよね。

堀江:そうなんです(笑)。

道尾:僕がstyle-3!さんのことを「最近ファンになって、ほんとに良い曲ばかりで」みたいなことをツイッターに書き込んだら、そのドラマーがメールをしてきて「俺、サッちゃんと一時期バンドやってたんだよね」って書いてあるんです。確率としては恐ろしく低い出来事ですよね。それで、まあこんなことを申し上げるとすごく不遜かもしれないですけど、どこかに何か共通点のようなものがあるのかな、と思いました。今のお話の、子供のために、子供の目線で作った曲を聴いて僕が『光』を思い出した、というのも偶然ではなかったんですね。

高嶋:繋がりがありますね。

道尾:不思議なことに、僕の他の作品について考えているときはstyle-3!さんの曲はあまり思い浮かばないんですよ。でも『光』では必ず浮かぶんです。ある曲を聴くとある章が思い浮かぶし、その章を思い出すとその曲が浮かんでくる。映像と違って、音楽は文章と干渉し合わないので、どちらも相手を崩さない状態で一緒にいられるんです。でも、「曲を聴きながらその文章を書いた」だと、それはもう最初から干渉されていることになるのであまりやりたくないことではあるんですけど、『光』のケースだと、純粋に嬉しい体験として感じることができます。

ところでstyle-3!さんは三人組のユニットですが、三角形というのは一番安定するんですよね。椅子なんかも脚が三本だと絶対にグラつかないけど、四本だと揺れることがある。物語の中にも、三角関係が入ってくると、一見不安定なようで、じつは二角関係よりも四角関係よりも作品の構造がしっかりする。その三人組のユニットの安定感も、僕は好きなんです。『光』も三の倍数の六章仕立てにしてあるんですよ。僕は連作短編集を書くときにいつも六章仕立てにするのですが、それは三角形が一番安定するからなんです。だから三の倍数の六章仕立て。長編を書く時も大体六章なんですよね。やはり、三章、三章で安定するので。アンバランスの魅力というのもありますから、時にはそのバランスを意図的に崩すこともあります。でもそれは、まずバランスを知っていないとできないんですよね。

小説って読む人によって感想が違うからおもしろい。本当にオブジェクテブっていうか(道尾)

高嶋:小説の中で、いろんな自然環境が出てきますよね。うちの近くにも似たような森があるんです。女恋湖はないんですけど(笑)。そういうところで、朝自転車に乗っていると曲を思いついたりすることがあるんですね。だから、道尾さんがどういう自然環境のところで育ったのかをお聞きしようと思っていたんです。

道尾:僕は東京の北区王子で育ったので、飛鳥山公園と荒川土手には大きく影響を受けていると思います。特に『光』はそうでしょうね。学校が終わったあとはよく荒川土手で遊んでいました。別になんにもないんですけど、石をひっくり返すといろんな虫が出てきたり、ときには不可解なものが出てきたり。一時期、石をひっくり返す行為に夢中になったことがあったんですが、あるとき石をひっくり返したら、豚足が出てきたことがあったんです。

高嶋:豚足(笑)

道尾:生のやつで、しかも腐ってないんですよ。だから直前に、誰かがその石の下に豚足を入れたとしか思えないんです。その理由を友達と真剣に推理し合ったのをいまだに憶えてます。ちょうど『光』の第二章で、主人公たちが「人魚の生首」について話し合っていたように。どんな推理だったのかは忘れてしまいましたが。それと、子供の頃から虫が好きだったんですが、飛鳥山公園でみんなで遊んでいるときに、見たことがない虫がいると必ず「新種だ!」って言うんですよね。で、それを捕まえて、仲間内限定で有名になるという。

高嶋:ありましたね。「このコガネムシ、新種じゃね?」とか言ってましたね。

道尾:たぶん『ドラえもん』でよく「新種」という言葉が出てきていたんですよね。それで僕らも、何かあるたびに「新種だ」なんて言ってたんだと思います。友達と二人で追いかけた、見たことのない飛び方をするトンボがいて、夕方になってとうとう逃げられたときは、新種を捕まえそこねたことが悲しくて仕方がありませんでした。まあ大人になってから調べてみたら、ただのヘビトンボだったんですけどね。そんな頃のことも思い出しながら『光』は書きました。

長澤:これは音楽と一緒で、読む人も捉え方が違う部分があるのかなあと思うんです。道尾さんは第1章で「ゆり風のロンド」を思い浮かべられたと書いてくださっているんですが、僕はこの第1章全体ということではなくて、ある場面のときに「BLUE STORM」という曲が浮かんできたんです。大きく章全体を捉えるのか、それとも場面場面で捉えるのかで違うように思います。読み手によって、そこは変わってくるかな、と。

道尾:そうなんですよね。小説って読む人によって感想が違うからおもしろい。本当にオブジェクティブっていうか。作者は、完全に客観的にはなれないんですよ。他の人が初めて読んだ時にどう感じるかは、想像するしかない。

長澤:同じ音楽を聴いて、「これは楽しい曲なんだよ」っていうふうに思う人もいれば、そうじゃなくて「激しい曲なんだ」って思うこともあるでしょう。捉え方は人によってまちまちですし、僕はそれでいいんじゃないかなと思っています。十人十色じゃないですけど、むしろ広がったほうが、いろんな人の想像力をかきたてる、そういった曲に仕上がったんじゃないかなって思えるような気がします。

道尾:このあいだ、ふと思い出したことがあるんです。「麻酔」という言葉は、英語では「anesthesia」なんですね。昔、この単語を最初に覚えたとき、「ane」で始まるので、病室の白いベッドにピクリとも動かずに横たわっている「姉」の姿を思い浮かべたんですよ。僕にお姉さんなんていないのに。そして、そのイメージとともに「anesthesia」という単語を覚えたんです。だからいまだに、「麻酔」という言葉を聞くと、存在もしない「姉」の、ピクリとも動かない悲しい姿が思い浮かぶんです。こんなふうに、言葉というのはものすごく個人的なものなので、そこに込めたものを100%伝えようとしても、絶対に無理なんですよね。だから、人によって感じ方が違うのは当たり前で、そのことをちゃんとわかってないと、違う感想を聞いたときに「そういうつもりで書いたんじゃないのに」ってことになってしまう。たとえば「長澤」という名前の登場人物を書いたとき、思わずstyle-3!の長澤さんを思い浮かべてしまう人もいれば、別の長澤さんの顔が浮かぶ人もいる。ご本人が長澤さんの場合もありますしね。ちょうど先日、山田太一さんが似たようなことをおっしゃっていて、「作品を100%理解してもらうことは不可能。その代わり、思わぬところで通じあうことがある。こっちが予想もしていなかったことで通じあうことがある」と言っていたんです。それにはすごく励まされました。

司会・構成/杉江松恋 撮影/干川修

作品紹介

真っ赤に染まった小川の水。湖から魚がいなくなった本当の理由と、人魚伝説。洞窟の中、不意に襲いかかる怪異。ホタルを大切な人にもう一度見せること。去っていく友人にどうしても贈り物がしたかったこと。誰にも言ってない将来の夢と決死の大冒険ーー小学四年生。世界は果てしなかったが、私たちは無謀だった。どこまでも歩いて行けると思っていた。

プロフィール

style-3!

2004年結成。高嶋英輔(バイオリン)、長澤伴彦(コントラバス)、堀江沙知(ピアノ)の3人からなるポップインストユニット。熱いラテン調のものから明るいポップなもの、バラードまであらゆるジャンルを取り入れ、型にとらわれない楽曲で、数々のコンテストでグランプリを受賞している実力派。

道尾 秀介

1975年東京都出身。2004年、「背の眼」でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し、作家としてデビュー。2007年「シャドウ」で本格ミステリ大賞、2009年「カラスの親指」で日本推理作家協会賞、2010年「龍神の雨」で大藪春彦賞、「光媒の花」で山本周五郎賞を受賞。2011年「月と蟹」で直木賞を受賞。近著に「カササギたちの四季」「水の柩」「光」「ノエル」「笑うハーレキン」などがある。

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