AI(人工知能)は 人類の脅威になるのか?

中野 明『超図解「21世紀の哲学」がわかる本』セレクション

更新日 2020.07.22
公開日 2017.05.05
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 現在のAI(Artificial Intelligence)すなわち人工知能のブームは、1950年代、1980年代に続いて3回目だといわれています。
 2011年、IBM製の人工知能ワトソンが米国の人気クイズ番組「ジェパディ!」に出演し、人間のチャンピオンに勝利して話題になったことは、まだ記憶に新しいでしょう。また日本でも、将棋ソフトのボクラーズが米長邦雄永世棋聖に勝利し、人工知能「DeepZenGo」が囲碁の趙治勲名誉名人に勝利しています。さらに、2012年開発されたスーパー・コンピュータ「京」は、1秒間の計算能力が10の16乗回に達しました。これはコンピュータで人間の脳を模倣する際に、必要となる処理能力に相当するといいます。
 もっとも、コンピュータの高度化だけが、現在のAIブームの背景にあるのではありません。これ以外に少なくとも二つの特徴において、現在のAIブームは過去のブームと異なります。
 特徴の一つは、コンピュータに入力するデータです。処理能力の高度化により、現在のコンピュータは、膨大な量のデータすなわちビッグデータの全件処理が可能になってきています。全件処理とは、母集団となるデータからサンプルを取り出して分析するのではなく、文字どおり、母集団を丸ごと分析にかけることをいいます。
 もう一つ、全件処理をする際にデータがもつ相関関係やパターンをあぶり出す点も、大きな特徴になっています。この作業とは、いいかえると、「(理由はわからないけれど)データ間にこんな相関関係がある」「(理由はわからないけれど)データにこんなパターンがある」ということを、明らかにすることだといえます。こうして、膨大な買い物記録から特定のパターンを見つけ出したり、膨大な音楽聴取情報からヒットしそうな楽曲を作曲したりできるわけです。
 ビッグデータの中に相関やパターンを見出すことに関して、人間はAIに太刀打ちできません。そのため、AIが私たちの仕事を奪うという悲観論が漂います。

 一方で、コンピュータ学者でSF作家でもあるヴァーナー・ビンジは、コンピュータの知能が人間の知能を超える日がやって来ると指摘し、その時点を「シンギュラリティ=技術的特異点」と呼びました。未来学者レイ・カーツワイルなど、シンギュラリティに賛同する人々は多数にのぼり、どちらかというと、楽観的な未来を想定しています。
 また、日本の国立情報学研究所教授・新井紀子は、人工知能(AI)で東京大学合格をめざした「東ロボくん」の研究を通じて、状況が比較的限られる場合、AIは高いパフォーマンスを発揮するものの、対処すべき状況が無尽蔵にわたるケースでは、AIの力にも限界があることがわかった、と結論づけています。
 このように、AIには悲観論、楽観論、限界論と多様な主張があります。
 そのようななか、情報工学者・西垣通は、AIの可能性と限界を理解しつつ、AIを人間の知能を増幅する装置、すなわちIA(Intelligence Amplifier)として活用することを、提案しています。
 そうすれば、AIは人間にとっての脅威でなく機会になるでしょう。

(※この連載は、毎週金曜日・全8回掲載予定です。6回目の次回は5月12日掲載予定です。)

 

中野 明 (なかの あきら)

ノンフィクション作家。1962年、滋賀県生まれ。立命館大学文学部哲学科卒。同志社大学非常勤講師。「情報通信」「経済経営」「歴史民俗」の3分野をテーマに執筆活動を展開。

著書は『超図解 勇気の心理学 アルフレッド・アドラーが1時間でわかる本』『超図解 7つの習慣 基本と活用法が1時間でわかる本』『一番やさしい ピケティ「超」入門』『超図解「デザイン思考」でゼロから1をつくり出す』『超図解 アドラー心理学の「幸せ」が1時間でわかる本』(学研プラス)ほか多数。

 

作品紹介

超図解「21世紀の哲学」がわかる本

21世紀の諸問題に対面する我々の思考の武器=哲学の「現在」を超図解で鮮やかに解きほぐす。人生論を超えた哲学の本質に迫る。
定価:本体1,200円+税/学研プラス

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