「心の哲学」とジョン・サールによる人工知能批判

中野 明『超図解「21世紀の哲学」がわかる本』セレクション

更新日 2020.07.22
公開日 2017.04.28
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 「心の哲学」とは、脳科学や心理学などの科学的研究を念頭に、人間の意識や心とは何かを問う哲学の分野を指します。デカルトが心身二元論の立場をとって以来、意識や心は哲学上の重要なテーマとなり、その問題意識は現在の心の哲学に受け継がれています。
 ジョン・サールはこの心の哲学の第一人者の一人で、1981年に公表した論文「心・脳・プログラム」で名を馳せました。
 当時、人工知能の第二次ブームが巻き起こり、専門知識を保有するエキスパート・システムがやがて登場し、弁護士や医師などの職業は早晩これらのコンピュータに取って代わられるだろうといわれました。このようななか、サールは同論文の中の「中国語の部屋」という思考実験を通じて、「チューリング・テストを通過したコンピュータが“思考している”」という立場を、痛烈に批判しました。
 チューリング・テストとは、イギリスの数学者アラン・チューリングが、1950年に論文「コンピュータと知能」で公表したものです。「模倣ゲーム」と論文内で呼ばれるそのテストでは、参加者はテレタイプを介してコンピュータと会話します。会話する相手がコンピュータだと見破れない場合、そのコンピュータは思考していることを意味する、とチューリングは主張しました。
 一方、サールの思考実験「中国語の部屋」では、中国語をまったく理解しない人物が、小窓のある部屋に閉じ込められています。その人物は手元にルールブック(いわばコンピュータ・プログラム)が与えられており、このルールブックを用いることで、小窓を通じて部屋の外から与えられた中国語の質問に、完璧に回答します。
 この中国語の部屋を人工知能だと考えてください。完璧な回答を出力しますから、質問者はこのシステムをコンピュータと考えないでしょう。つまりこのシステムはチューリング・テストに合格するでしょう。しかし箱の中にいる人物は、質問に対して何の思考もしていません。ルールブックの指示どおり作業しただけです。つまり、コンピュータの計算と人間の思考は別ものであり、チューリング・テストを通過したからといってコンピュータが思考しているとはいえないでしょう。中国語の部屋は、その点を明らかにしました。

(※この連載は、毎週金曜日・全8回掲載予定です。5回目の次回は5月5日掲載予定です。)

 

中野 明 (なかの あきら)

ノンフィクション作家。1962年、滋賀県生まれ。立命館大学文学部哲学科卒。同志社大学非常勤講師。「情報通信」「経済経営」「歴史民俗」の3分野をテーマに執筆活動を展開。

著書は『超図解 勇気の心理学 アルフレッド・アドラーが1時間でわかる本』『超図解 7つの習慣 基本と活用法が1時間でわかる本』『一番やさしい ピケティ「超」入門』『超図解「デザイン思考」でゼロから1をつくり出す』『超図解 アドラー心理学の「幸せ」が1時間でわかる本』(学研プラス)ほか多数。

 

作品紹介

超図解「21世紀の哲学」がわかる本

21世紀の諸問題に対面する我々の思考の武器=哲学の「現在」を超図解で鮮やかに解きほぐす。人生論を超えた哲学の本質に迫る。
定価:本体1,200円+税/学研プラス

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