私がコンサル会社に入社してまだ駆け出しの頃、
仕事で出逢う経営者たちの決断を目の当たりにして、驚愕したものだ。
最初に驚いたのは、一代で上場企業を築いて業界に名を轟かせた
カリスマ経営者だった。
朝イチで社長室を訪問すると、デスクの上には社運を左右しかねない、
最重要の書類がズラリと並べられていた。
そして社長は受話器を片手に、本部長たちに淡々と指示を出す。
いずれもその朝、初めて見る書類ばかりだが、片っ端から即断即決しているのだ。
電光石火の如くすべての決断が終了し、ひと区切りついたところで、
私はその社長にこう聞いてみた。
「私は将来独立します。
どうしたら、そんなに速く決断できるようになりますか?」
彼はニコニコ笑いながらゆっくりと、そしてすぐにこう即答してくれた。
「いちいち頭で考えないことだよ。直感で決めたらいい」
当時の私には“直感”という日本語は聞き慣れなかったので、意味を聞いてみた。
すると、
「直感とは自分の好き嫌いだ」と教えてくれた。
その人は、ロジックの極致のような業界で勝ち抜いた人物だったが、
「頭で考えて決断すると失敗する」ことを何度も強調していた。
ただし私は、彼がどんな日常を送っているのかも知っていた。
暇さえあれば貪欲に本を読んでいたし、思索に耽っていた。
彼は昭和ひと桁生まれだったためか戦争の本が大好きで、
本棚には軍事関連の書籍がビッシリと詰まっていた。
生きるか死ぬかの瀬戸際で、当時のリーダーたちはどのように考え、
どのように決断したのか、本から吸収していたのだろう。
私も彼に触発されて軍事関連の本を読んでみたが、
ビジネスと戦争には共通点が非常に多く、
ちまたに溢れ返るビジネス書よりも、実践で役立つくらいだった。
有名なランチェスターの法則は、もともと戦争に勝つための知恵だった。
私が彼から学んだことは、自分の好きな分野を掘り下げていく教養の大切さだ。
直接役に立つように思えない教養も、
蓄積されれば、決断の強力な武器になる。
決断は100%好き嫌いでするべきだが、
それを支えてくれるのはあなたの教養なのだ。
(※毎週月曜日、全8回掲載予定です。次回は、11月7日掲載予定です。)
千田 琢哉 (せんだ たくや)
文筆家。 愛知県犬山市生まれ、岐阜県各務原市育ち。 東北大学教育学部教育学科卒。 日系損害保険会社本部、大手経営コンサルティング会社勤務を経て独立。 コンサルティング会社では、多くの業種業界における大型プロジェクトのリーダーとして戦略策定からその実行支援に至るまで陣頭指揮を執る。 のべ3,300人のエグゼクティブと10,000人を超えるビジネスパーソンたちとの対話によって 得た事実とそこで培った知恵を活かし、 “タブーへの挑戦で、次代を創る”をミッションとして執筆活動を行っている。
■E-mail
info@senda-takuya.com
■ホームページ
http://www.senda-takuya.com/
作品紹介
大切なことは、「好き嫌い」で決めろ!
“直感”を信じて人生を好転させる52の方法
仕事、就活、恋愛、人間関係…20代のカリスマ・千田琢哉が説く、「好き嫌い」という直感を信じて人生を好転させるための極意。
定価:1,200円+税/学研プラス
バックナンバー
- 責任感を育てるためには、 好き嫌いで生きること。
- 好き嫌いで仕事をしていると、 本物の仕事仲間ができる。
- 嫌いなことで成功すると、 寿命を縮める。
- しんどさをしんどいと感じないのが、 好きなことだ。
- 好き嫌いで決める人間は、 信頼できる。
- 好きなほうを選んで失敗しても、 あとがある。
- 決断する前に、 もう決まっている。
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