ピケティが提案する二つの税制

中野 明『一番やさしい ピケティ「超」入門 』セレクション

更新日 2020.07.22
公開日 2015.04.22
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 経済格差の拡大は、フローとしての所得格差、それにストックとしての資産格差がその原因になります。そして、相続財産の格差と能力主義が組み合わさって、「富める者」が6分の1、「貧しき者」が6分の5という「どこにでもある格差」が生み出されます。
 ピケティは、能力による所得格差と相続財産の格差は、「最悪な二つの世界の合体」と述べました。ですから、フローとしての所得格差、ストックとしての資産格差、その双方を抑制する手を打つべきだとピケティは考えます。
 まず前者のフローとしての所得格差に対してピケティは、累進的な所得課税を提案します。かつて世界の先進諸国では90%という驚くべき税率の累進所得税が現実に存在しました。ピケティは同様の政策を実行すべきだと、まず主張します。
 累進制による所得課税は程度の差こそあれ現在の日本やアメリカでも行われています。 ですからピケティの主張にそれほど驚きを感じないかもしれません。ピケティの主張でより画期的なのは、ストックとしての資本に対する課税です。ピケティはこれを「世界的な資本税」と呼びます。
 要するに世界中のあらゆる資産に対して、年次の、累進的な課税を行おう、という考え方です。
 
 面白いのは、ピケティが提唱するこれらの税が、国家の税収を高めることが主目的ではない、という点です。そうではなくて、資本主義が根本的に持つ「r>g」による経済格差を抑制して平等な社会を作るための税制として利用すべきだ、というのがピケティの主張です。いわばより良い公共社会を築くための措置です。

 

中野 明 (なかの あきら)

ノンフィクション作家。1962年、滋賀県生まれ。立命館大学文学部哲学科卒。同志社大学非常勤講師。「情報通信」「経済経営」「歴史民俗」の3分野をテーマに執筆活動を展開。 著書は『物語 財閥の歴史』(祥伝社新書)、『グローブトロッター 世界漫遊家が歩いた明治ニッポン』『今日から即使える! ドラッカーのマネジメント思考』(朝日新聞出版)ほか多数。

 

作品紹介

一番やさしい ピケティ「超」入門
『21世紀の資本』と「格差社会」を今日から語れる本

資本と格差の問題に切り込み世界に影響を与えた大著『21世紀の資本』。著者ピケティの理論と著作の概要が短時間でつかめる本。
定価:本体1,200円+税/学研プラス

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