小泉悠氏が書籍『僕らは戦争を知らない』特別授業を愛知県大府市にて開催

『僕らは戦争を知らない 世界中の不条理をなくすためにキミができること ハンディ版』

公開日 2025.09.11
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「なぜロシアはウクライナに攻め込んだのか」などを解説。「戦争の悲惨さを知ったあとは、戦争を防ぐために“なぜ戦争が起こったのか”という部分まで、一歩踏み込んで考えてほしい」と地元の高校生に呼びかける

▲左から、澤田未来(Gakken)、大府市高校生平和大使(5名)、小泉悠(東京大学先端科学技術研究センター准教授)

▲特別授業の題材となった、『僕らは戦争を知らない 世界中の不条理をなくすためにキミができること ハンディ版』

 2025年7月10日の発売前に重版がかかるなどの話題の書籍『僕らは戦争を知らない 世界中の不条理をなくすためにキミができること ハンディ版』。書籍制作当時、ウクライナから大府市に避難していたマリヤ・ボイコさんに取材協力をいただいたことがご縁で、愛知県大府市主催の「おおぶ平和のつどい」にて、Gakken協力の特別授業「僕らは戦争を知らない」が開催されました。
 特別授業は書籍の監修を務めた、小泉悠氏(東京大学先端科学技術研究センター准教授/以下小泉氏)による解説からスタート。中学生以下75人を含む200人以上の参加者に向けて、「なぜロシアはウクライナに攻め込んだのか」をわかりやすく説明しました。

▲『僕らは戦争を知らない 世界中の不条理をなくすためにキミができること ハンディ版』より

 解説のあと、Gakken編集担当・澤田進行のもと、小泉氏と大府市高校生平和大使がパネルディスカッションを実施しました。
 登壇した高校生平和大使5名は、今年7月に鹿児島県に派遣され、知覧特攻平和会館などで日本の戦争体験を学んできました。現地で得た学びや気づきをもとに、小泉氏と3つのテーマ「人はなぜ戦争をやめられないの?」「なぜ話し合いで解決できないの?」「日本の戦争の記憶を風化させないために何ができるの?」について議論しました。

 1つ目のテーマ「人はなぜ戦争をやめられないの?」では、高校生から以下のような意見が出ました。


◎「個人どうしのけんかでも解決が難しい場合もあるのだから、たくさんの人が集まってつくられた『国』どうしの争いはますます解決が難しいだろう。相手に対する不安と、お互いに歩み寄る気持ちが足りないことが積み重なって、戦争が起こってしまうのではないか」(服部春香さん・高校2年生)

◎「対立の解決方法として『武力行使』という考え方が根づいてしまっているからだと考える。一方が『話し合い』を望んでも、もう一方が武力を用いた解決方法を望めば、争いを避けることは難しくなる」(井上侑香さん・高校2年生)


 小泉氏は「戦争は今もまだ続いているが、人類の長い歴史の中でその数は減っている。戦争を起こすか、戦争をやめるかの2択のあいだには、さまざまな選択肢がある。0か1かではなく、グラデーションで考えられるとよい」と述べました。

 2つ目のテーマ「なぜ話し合いで解決できないの?」では、以下のような意見が出ました。


◎「話し合いで解決するということは、どちらか、もしくはお互いが譲歩する必要があると考える。しかし、戦争をしている国は、宗教や領土、民族の歴史など、簡単には曲げられない価値観などを持って対立している。お互い、どうしても譲歩できない状況があるのだと思う」(鈴木香澄さん・高校2年生)


 小泉氏は「話し合いだけで解決するのは難しいが、暴力を選択するまでのあいだには、細かな段階がある。長い歴史の中で、人類は暴力に頼らないための知恵も絞ってきた。話し合いを含む、さまざまな方法を学んでほしい」と述べました。

 3つ目のテーマ「日本の戦争の記憶を風化させないために何ができるの?」では、以下のような意見が出ました。


◎「知覧では、自分と同じくらいの年齢の特攻隊員が、恐怖や悲しみを感じながらも、大切な家族を守るために任務に向き合っていたことを知った。こうして自分が学んだことを後世に伝えていくとともに、日本の過去の戦争だけでなく世界で現在起こっている戦争にも関心をもって生きていきたい」(田平咲人さん・高校3年生)

◎「知覧の特攻隊の遺書を見て、何年経っても後世に強い思いを伝え続ける、文章の力に驚かされた。私も、自分が体験して学んだことを文章にして、SNSやインターネットを活用し、言語の異なる相手にも伝えていきたいと思う」(髙木すずさん・高校2年生)


 小泉氏は「個人の戦争体験を風化させないことは、現実的には難しいかもしれない。しかし、『なぜ戦争が起こったのか』という歴史は残る。特攻の悲惨さを感じたあとは、『なぜ特攻隊員が生まれたのか』などと考えてみてほしい」と述べました。 

 小泉氏は、授業の最後に、以下のようにコメントを残しました。
「タイとカンボジアの武力衝突など、今、日本の近いところでも戦争は起こっている。戦争というものから目を逸らしてはいけない。戦争は『天災』ではない。起こるかどうかは、人間次第。どうすれば戦争が起こらないのか、考えてほしい。少数の専門家の考えだけでなく、多くの方の考えが必要である」

 参加した高校生平和大使はプログラム終了後、以下のように感想を述べました。


◎「小泉先生には、知覧特攻平和会館の語り部の方のお話とはまったく異なる考えを伺った。今回学んだことを、今度は自分の学校でも話したい。少しでも戦争の記憶を風化させないようにしたい」(田平咲人さん)

◎「戦争について知ることや、それを周りに伝えることだけでなく、『なぜ戦争が終わらないのか』を考えることも大事だと学んだ。友人とのけんかが、原因がわからないと解決できないのと同じように、戦争をなくすためには、その理由を知ることが必要だと感じた」(鈴木香澄さん)

◎「知覧特攻平和会館では、特攻隊をめぐる歴史や、隊員の証言を学んだ。そこから一歩進んで、『なぜ特攻隊ができたのか』と自分の頭で考えることが大事であると知った」(井上侑香さん)

◎「話し合いでは解決できないから、戦争という悲しい選択をしてしまうのだと思っていた。しかし、過去の被害が積み重なって、引くに引けない(武力行使を正当化せざるを得ない)状況になってしまう、という考え方があることに驚いた」(服部春香さん)

◎「小泉先生は、『個人の戦争体験を完全に風化させないことは難しい』とおっしゃったが、私は少しでも風化させないようにしたい。学校の授業では知ることができなかった、ロシアによるウクライナ侵攻の原因の複雑さや、戦争が終わらない理由を知り、深い学びが得られた」(髙木すずさん)


 また、プログラム終了後、小泉氏は大府市市長・岡村秀人氏と面会。
 今回のプログラムへの協力に対し、岡村市長は、「若い世代の大府市民に対して、このような貴重な機会を設けてもらい、ありがたい」と感謝の言葉を述べました。

▲小泉氏(左)と、大府市 岡村秀人市長(右)

イベント概要

■大府市制55周年記念事業 おおぶ平和のつどい ~私たちがつなぐ平和~
■開催日:2025年8月3日(日)
■開催場所:おおぶ文化交流の杜こもれびホール
■内容:
●第1部:平和に関する特別授業「僕らは戦争を知らない」
(講師:東京大学先端科学技術研究センター准教授 小泉悠氏/協力:Gakken)
●第2部:映画「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」

登壇者プロフィール

小泉悠(こいずみ・ゆう)

 1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了(政治学修士)。外務省専門分析員、未来工学研究所研究員、国立国会図書館非常勤調査員などを経て、2023年から東京大学先端科学技術研究センター准教授。ロシアの軍事研究が専門。
 2019年、『「帝国」ロシアの地政学』でサントリー学芸賞を受賞。著書に『現代ロシアの軍事戦略』『ロシア点描』など。ユーリィ・イズムィコ名義でnoteも。

書籍概要

 

 軍事評論家・小泉悠が監修し、太平洋戦争からウクライナ侵攻、ガザでの戦闘まで、豊富なイラストでやさしく解説。国内外の戦争体験者に取材したマンガやインタビューも。大人も子どもも読みたい“平和の本”決定版。

■書名:『僕らは戦争を知らない 世界中の不条理をなくすためにキミができること ハンディ版』
■監修:小泉悠
■定価:1,760円(税込)
■発売日:2025年7月10日
■発行:Gakken

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