~ずっと絵を描いていたい~ 絵本作家・ふくざわゆみこさんインタビュー

「もりのえほん」シリーズ第4弾『もりのはなやさん』

公開日 2024.05.22
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 森の動物たちのすてきな世界を描き続ける絵本作家、ふくざわゆみこさん。今月刊行された『もりのはなやさん』は、「もりのえほん」シリーズ待望の第4弾です。ふくざわゆみこさんの絵本は、こんな風に暮らしてみたいと思わせる森の動物たちの世界。思いやりと優しさに満ち、読み終わるとほっこりとした温かな気もちに包まれます。作者のふくざわゆみこさんに、作品づくりのエピソードや、絵が好きだった子ども時代のことなどを伺いました。

内容紹介

 おおかみさんは花のことばがわかる森の花屋さん。毎日花たちと森のみんなに笑顔を届けたいねと話しています。ある日おおかみさんがチューリップを配達に行くと、うさぎさんがケガをしていると知り……。おおかみさんとチューリップがしたこととは…? 「もりのえほん」シリーズ第4弾。

▲花たちと「今日もみんなに笑顔を届けようね」と話すおおかみさん

▲森のみんなが、次々に花を買いにきます

▲チューリップを届けに行くと、うさぎさんがけがをしていて……

 

 

ふくざわゆみこさん特別インタビュー

  森の動物たちの世界を描き続ける絵本作家、ふくざわゆみこさん。今月刊行された『もりのはなやさん』は、「もりのえほん」シリーズの第4弾、『もりのはなやさん』の主人公はおおかみさんです。作品づくりのエピソードや、とにかく絵が好きだった子ども時代のことなどを伺いました。

 

―~花を見ているだけで幸せな気もちになる~ 花の想いと力

  わたしは花が好きなので、アトリエにもよく飾っています。子どものころも母が庭木を育てていたので、花が咲くと嬉しそうに「咲いたよ~」と教えてくれたりして。わたしや家族は「ふ~ん、そう」なんて、わりとそっけない対応でしたが(笑)。神代植物公園や新宿御苑などの植物園も、好きでよく行っていました。花は見ているだけで幸せな気もちになる、花はみんなに笑顔を届けてくれる……。そこに花たちの想いや力を感じ、このお話が生まれたのかなと思います。

 

  この絵本では、とにかく花を大量に描きたい!と思って取り組みました。担当編集Nさんと、この花は何月に咲くから描こうとか、これは季節がずれるから外そうとか言いながら、花を選んでいきました。日本列島は細長いので、花によって咲く時期が違うことや、北国では春の花が一斉に咲き乱れることなどを話したりしたのも楽しかったですね。

 

  今回、チューリップがお話のキーになってますが、チューリップが花のなかではいちばん好きかもしれないですね。花びらが開いたり閉じたりするのも面白いし、花びらが1枚ずつ落ちていくのなんかもいいなあって。花が綿毛になって種になっていく花なんかも、捨てずに取っておいたり、散歩の途中でも、道端の植物の茎とか葉っぱとか裏側がどうなってるんだろうって、しゃがんで観察したりしてますね。絵描きだから、モチーフとして観察してるんだと思います。今回の絵本では花をいっぱい描けて楽しかった! うさぎさんがチューリップと花みたいに踊っているシーンも好きだし、森の動物たちがみんな花みたいになったパーティーシーンも、楽しく描きました。

 

―花の好きなひとは、ずっと接しているから花の気もちがわかる。それが「植物の声が聞こえる」ということ

  わたしの絵本ではファンタジー要素はそんなに多くないんですけど、今回は「おおかみさんが花の言葉がわかる」という設定を入れてみました。お話の1つのネタとしてちょっと開けた感じがほしかったので、エッセンスとして加える程度ならいいかなと。

 

  花の言葉がわかるという設定は、ある種のファンタジーとして、お話としてはよくあるものですよね。『ハリー・ポッター』のように魔法が起こってすごいことが起こるとか、まるっきりのファンタジーではないにしても。でもファンタジーという手法って、作家にしてみれば簡単に手を出せないというか、ちょっと難しいんですよ。下手するとなんでもありのご都合主義になってしまうし、お話として面白みがなくなることもあるので。

 

  ただ今回の「花の言葉がわかる」という設定は、植物が好きなひとによくあることじゃないかなと思うんです。例えば植物って水が足りないと元気がなくなって、うなだれるじゃないですか。まるで水がほしいと言っているみたいに。それが、葉っぱがしゃべってるみたいに感じるというか、言葉を介しているように思えるというのが、植物が好きなひとの「声が聞こえる」だと思うんです。だからこの設定は、地に足がついたファンタジーとも言えるかな。実際、わたしもアトリエにパキラを置いてるんですが、水が足りないとしおれてきて、「ああ、この子は水がほしいんだな」ってわかるんです。花の好きなひとは、ずっと接しているから花の気もちがわかるんじゃないかと思います。

 

―地図から広がる森の世界。この森に住む動物たちの暮らしを描きたい

  『もりのはなやさん』は、『もりのホテル』『もりのとしょかん』『もりのかばんやさん』に続く「もりのえほん」シリーズ4冊目です。このシリーズでは、最初、建物を舞台にして絵本を描こうということになりました。それまでずっと「おおきなクマさんとちいさなヤマネくん」シリーズ(福音館書店)や、「ぎょうれつのできるおいしいえほん」シリーズ(教育画劇)など、森の動物を主人公に絵本を描いてきていて、まだホテルとか、図書館とか、大きな建物を舞台にしたことがなかったので、面白そうだなと思って。

  この絵本の見返しに地図を描いています。『もりのホテル』を描くとき、担当編集Nさんが見返しに『くまのプーさん』みたいな地図があるといいなと言ってくれたんです。地図はわたしも好きなんですが、描き手としてはちょっと難しいんですね。この子はこっちからくるから、この建物は左にないとか、この道はこっちにつながっているはずだとか、物語の途中で矛盾が出ることがあるんです。でも実際描いてみたらとても楽しくて、世界観に広がりが出てよかったなあと思います。方位磁石もかわいいデザインにしたりと、遊びが入れられましたし。

▲『もりのはなやさん』の見返しの地図。4巻目で『もりのかばんやさん』までなかった、
うさぎさんの家と花屋さんが加わった(右ページ中央)

  この地図を見ると、「もりのホテル」を中心に森が広がっていることがわかるでしょう? それで建物を中心にした物語から、この森に住む動物たちの暮らしを描こうというように、だんだんと気もちが移っていきました。こうして、本好きのふくろうさんの家が図書館になっていく『もりのとしょかん』、森のみんなが使うかばんのお店の『もりのかばんやさん』が生まれたのかなと思います。第4弾は、わたしが花好きというのもあって、花屋さんを主人公にしようということになったんです。

 

―1見開き10日くらいかけて色を重ねていく丁寧な絵本作り

  最近はラフをパソコンのペンツールで描いて、ストーリーの流れや構図などを編集者に見てもらっています。そのあと、資料を見ながら清書して、プリントアウトして、方眼紙に鉛筆でラフをもう一度描きます。それを本番の紙に薄い色鉛筆でトレースしてから、塗っていくんです。アクリル絵の具で下塗りして、色えんぴつでタッチをつけて、またアクリル絵の具を塗って、パステルとかカラーインクを重ねて……。時間がかかって、なかなか終わりが見えない。1見開き、だいたい10日くらいで仕上げたいと思ってますが、泥沼化するとそれ以上かかることもありますし。1枚ずつ仕上げていって、仕事机の前に描きあがったものを提げていき、色を合わせたり、小物の位置を確認したりしながら進める感じです。

▲『もりのはなやさん』のラフ。この段階でストーリーの流れや構図を相談する

▲仕上がったページ。資料を見ながらラフを何度か清書し、丁寧に色を塗っていく

 

  最近よく思うんですけど、パソコンラフと手描きの絵では、情報量が違うんですよ。パソコンで描いたラフどおりに本描きすると、絵が細かくなりすぎるんです。塗りとかタッチとか、アナログのほうが情報量が多いんでしょうね。今回の表紙は花を大量に描きたかったので、ラフで本当にたくさん描いちゃったんですけど、塗っていたら細かくなって、描き過ぎたなーって、途中でやめようかと思ったくらい。でも出来上がった絵を印刷所のプリンティングディレクターに見せて相談したら、メリハリつけて、本当にきれいに印刷してくださったんです。とても感謝しています。パソコンで描くラフは、本質的にシンプルにしておかないといけないですね。

▲ふくざわゆみこさんのアトリエ。大きな仕事机に愛用のめがね。細かいところは虫眼鏡を使って描くことも

▲愛用している画材。よく使う緑色や茶色は、たくさんの種類がある

 

―とにかくずっと絵を描いていたい。それが絵本の形になって、子どもたちに届いているのがほんとうに幸せ

  森の動物が出てくる絵本をずっと描いていますが、わたしは北海道のような雄大な自然に囲まれて育ったわけじゃないんです。でもけっこうわんぱくで、虫とり網を持って近所の塀や屋根に登ってしかられているような子どもでした。それに、小さいころから動物の絵を描くのが好きでした。犬とか馬とか、ライオンとか、4つ足の動物が走っているところをよく描いてました。そう言えば、ネイチャー系のドキュメンタリーをよく見ていましたね。親もテレビでそういう番組がやっていると見せてくれていたみたいです。「トラとライオンではどっちが強い?」なんていう図鑑も好きでした。わたしの絵本はとっても平和な世界ですが、わりと戦うやつが好きでした笑。ほんとうに、言われなくてもずーっと絵を描いてるような子だったかな。今、中高時代の友人に会うと「昔からやってること変わんないねー」って言われます。とにかくずっと絵を描いていたい、というのが今でも変わらない思いです。それが絵本の形になって、子どもたちに届いているなんて幸せなことだなあと思います。

ふくざわゆみこさん、すてきなお話をありがとうございました!

 

■ふくざわゆみこさんの最新刊『もりのはなやさん』。誰かを幸せにすることは、自分の幸せにもつながっている―。そんなことを感じさせてくれる、森の動物たちの豊かな物語です。読み聞かせだけでなく、小学校の朝読や読書感想文にもお勧め。ぜひお子さんとお読みください。

 

著者プロフィール

ふくざわゆみこ
東京都生まれ。絵本作家。主な絵本に『もりのホテル』『もりのとしょかん』『もりのかばんやさん』(Gakken)、「おおきなクマさんとちいさなヤマネくん」シリーズ(福音館書店)、「ぎょうれつのできるおいしいえほん」シリーズ(教育画劇)、「モモンガのはいたつやさん」シリーズ(文溪堂)、『やさいもぐもぐ』(ひかりのくに)、『はりねずみのおいしゃさん』(世界文化社)、『くぬぎのもりのりすのがっこう』(アリス館)などがある。

 

商品概要

『もりのはなやさん』
ふくざわゆみこ・さく
定価:1,760円(税込み)
発売日:2024523日(木)

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