「本屋さんのココ」、第 5 回のテーマは「本屋さんと商店街」。
今回は少し遠出をして、奈良県へ。
大和郡山市の柳町商店街にある「とほん」にお邪魔しました。
全国的に“にぎわい”がなくなっている商店街にあって、
既存の物件を使ったまちおこしも始まっています。
2014年2月にオープンした「とほん」は、
商店街にあった畳屋さんの物件をリノベーションした
レンタルスペース「柳花簾」に入居。
商店街でも新しいお店ができ始めた一角にあり、
イベントにも積極的に参加しています。
店主の砂川さんは新刊書店に長く勤められた方。
店内では新刊、古本、雑貨を扱っています。
もちろん「とほん」は商店街にとっての「本屋さん」でもあります。
商店街と本屋さんの関係。
本屋さんとしての商店街との関わり方とはなにか?
そんな疑問を、直接聞いてきました!
「本屋さんのココ」では、
私と一緒に毎回色々な人に実際に“本屋さん”を
楽しんでもらいながら読者の視点にたったレポートも加えて
お伝えしていこうと思います。
取材日:2015年3月29日
取材、構成、写真:松井祐輔
写真提供:山本茂伸、とほん
【店舗情報】
とほん
〒639-1134
奈良県大和郡山市柳4-28
営業時間:11:00〜17:00
定休日:木曜日、祝日
http://www.to-hon.com
松井:「とほん」は2015年2月22日でオープンから1周年ですね。
おめでとうございます!
砂川:ありがとうございます。
松井:僕が前に来たのはオープンして2週間くらいのころ。
そのときにもお話を聞かせてもらいました。
砂川:それから松井さんもすぐに小屋BOOKSをオープンされて。
「やられた!」と思いましたよ(笑)。
「とほん」を4坪の小さな本屋と言っていたのに、2坪って。
松井:「小ささ」を求めたわけじゃないんですけどね。
たまたま小さな場所だったんですよ。
今回は2店舗たしても6坪。極小本屋対談ですね(笑)。
古本市が呼んだ出会い
松井:今日は、1年前の話も振り返りながら、
この1年間の変化をお聞きしたいと思っています。
そもそも砂川さんは、「とほん」を開く前から
書店員をされていたんですよね。
砂川:アルバイトの期間も含めて14年間やっていました。
でも、勤めていた書店が閉店してしまって。
そういう中で、せっかくの機会なので自分の店をやってみよう、と。
本に関わる仕事はずっと続けたいとは思っていたんですが、
「勤めていた店の閉店」というきっかけがなかったら、
自分の店は始めなかったかもしれないですね。
松井:「きっかけ」は重要ですね。
砂川:そんな時に、いまの「とほん」が入居している
「柳花簾」というスペースができる、という話があって。
さらに近くに「K−Coffee」という珈琲屋さんが
オープンされることも決まっていて、盛り上がりそうだ、と。
いろんなきっかけが重なったんですね。
松井:「柳花簾」はどういう場所なんですか。
砂川:近隣のNPOが空き家になっている「町家」を貸し出す、
「大和・町家サブリースプロジェクト」という活動をされていて、
それがきっかけでできたレンタルスペースです。
松井:そもそも、NPOの方と知り合うきっかけが、
一箱古本市だったんですよね。
砂川:そうなんです。
奈良県と地域団体やNPOが共同でやっている
「はならぁと」というアートイベントがあって、
大和郡山市の会場で一緒に何か面白いことができないか、
というお話を数年前にいただきました。
松井:まだ他の書店に勤めていたころですよね。
砂川:そうですね。そもそもその企画の話をいただく数年前に、
別の古本市で隣に出店していた、というのが最初の縁なんです。
松井:それもすごいきっかけですね。
砂川:「はならぁと」に声をかけていただいたときは、
大和郡山市は金魚の産地として有名なので、「一箱」じゃなくて、
「ひとたらい」で古本市をやったらどうか、という話になって。
神社の境内でたらいに古本を入れて販売したんです。
実は僕もそのときに初めてこの街に来たんですよ。
松井:そうなんですか!
じゃあその古本市が商店街との最初の縁なんですね。
砂川:そういう縁もあって、
「柳花簾」ができるときに僕にお声がけいただいたんです。
そのNPOの代表の方がまちおこしの活動をされているからこそ、
近隣にも少しずつ新しいお店ができているんです。
いい雰囲気で、うれしいです。
松井:いま「とほん」が入っているこの場所は、
もともと畳屋さんなんですよね。
「まさに町家!」という感じで、細長い建物の作りですね。
砂川:奥には蔵みたいな倉庫も残っているんですよ。
空き家になっていた物件で、それをうまく活用しよう、
という話になったようです。
松井:「柳花簾」の中で「とほん」が使っているのは、一角ですよね。
「とほん」が入っているスペース以外は、どう活用されているんですか。
砂川:常設で借り手がいるわけではないんですが、
イベントをするときに活用したり、
ギャラリーとして使ったりしています。
先日は高校生の美術部員が展示に借りていました。
引き継ぎながら店をつくる
松井:いざ本屋をやる、と決めてもいろいろ準備がありますよね。
ディスプレイに使っているデスクは、
廃業したガソリンスタンドからもらってきたんでしたっけ?
砂川:そうなんです。
「K-Coffee」さんが開店準備をしているときに、
いただいてきました。
松井:「K-Coffee」さんは、
「とほん」のすぐ近くにあるコーヒースタンド。
ガソリンスタンドの元事務所に出店しているんですよね。
オープンが「とほん」と同じ日。
砂川:「K-Coffee」さんがオープンするにあたって、
ガソリンスタンドにあって使わない机やロッカーを、
さっき話した「柳花簾」の奥の蔵に入れてあったんです。
なかなかいい感じだったんで、そのまま使わせてもらって(笑)。
あとは……もらってきたリンゴ箱を利用したり。
松井:いい雰囲気を出してますよね。
砂川:足りない什器は自宅から持ち込んだり、
家具店の「IKEA」で買って。
あとは……この小さな平台は、
商店街の閉店してしまった本屋さんからもらってきたものなんです。
松井:商店街に本屋さんがあったんですね!
砂川:ちょうど「とほん」のオープンと入れ替わるタイミングで
店を閉めることになってしまわれて。
それを知らずに、開店準備をしているときにご挨拶に伺ったら、
「うちはもう閉めるから、欲しい棚は持って行っていいよ」って。
そこの本屋さんは古本も扱っていたんですね。
だから、本棚だけじゃなくて、古本もいただきました。
松井:商店街の本屋を引き継がれているんですね。
閉店なので良いことではないんでしょうが、
タイミングが合った、というか。
砂川:そうですね。
うちとは品揃えがまったく違うので共存できると思っていたのですが……。
引き継げるものがあって良かったと思います。
次回は、
「とほん」も関わっている商店街のイベントと本屋さんについて。
第3回 「地域イベントとほん」
松井 祐輔 (まつい ゆうすけ)
1984年生まれ。 愛知県春日井市出身。大学卒業後、本の卸売り会社である、出版取次会社に就職。2013年退職。2014年3月、ファンから参加者になるための、「人」と「本屋」のインタビュー誌『HAB』を創刊。同年4月、本屋「小屋BOOKS」を東京都虎ノ門にあるコミュニティスペース「リトルトーキョー」内にオープン。
バックナンバー
- 「本屋さんと商店街」とほん 砂川昌広さん 第5回
- 「本屋さんと商店街」とほん 砂川昌広さん 第4回
- 「本屋さんと商店街」とほん 砂川昌広さん 第3回
- 「本屋さんと商店街」とほん 砂川昌広さん 第1回
- どこでも同じ本が「買えない」からこそ、本屋はおもしろい
- 「本屋さんのココ」って?