中学受験にも頻出テーマの「新紙幣」!『マンガ 新しい紙幣の感動物語』が、またまた大増刷! 新紙幣にこめられた、もうひとつのメッセージとは?
もくじ
「新紙幣」の発行は、中学受験でも必ず出題されるであろうテーマ
20年ぶりの改刷を受け、絶好調に売れ続けている『マンガ 新しい紙幣の感動物語』が、またまた大増刷をした(現在第4刷)。これまでは、「お札の肖像画が変わったけど、どんな人物なのか、今ひとつわからない」という人が、この本を読んでいたと考えられるが、これからの季節、ある人たちにとってこの本は、「絶対に読んでおくべき本」になるだろう。
それは、中学受験をはじめ、さまざまな入学試験を控えた人たちである。たとえば、中学受験ではご存じのとおり、時事問題が「面接」「作文」「筆記試験」などの中に織り込まれる。「新紙幣の発行」は、「社会への関心」「歴史知識のレベル」「興味の方向性」を知るためのテーマとしては最適なものなのだ。
もちろん、「紙幣は、どこが発行しているか」とか、「新紙幣に取り入れられた最新技術」という切り口もあるだろうが、もっとも多く想定されるのは、「肖像画の人物」に関する問題であろう。
そこで今回、『マンガ 新しい紙幣の感動物語』の編者である木平木綿氏に、本のことや、肖像画の人物について、話をうかがった。
「新紙幣」の肖像画の人物の基本知識
――まず、基本的なことをおさらいします。今回の新紙幣で新しく肖像となったのは、「1万円札=渋沢栄一」「5千円札=津田梅子」「千円札=北里柴三郎」です。この3人が、肖像画の人物として選定された理由は、「新しい紙幣の肖像になる渋沢栄一氏、津田梅子氏、北里柴三郎氏は、それぞれの分野で傑出した業績を残すとともに、長い時を経た現在でも私たちが課題としている新たな産業の育成、女性活躍、科学の発展といった面からも日本の近代化をリードし、大きく貢献した方々です」と、財務省のHPで説明されていました。
木平木綿(敬称略 以下、木平) そうですね。渋沢栄一は、日本の「資本主義の父」や「実学の父」と言われる人で、今も残る多くの企業の設立に関わりました。
――「経済の近代化」への貢献ですね。
木平 そして津田梅子は、(現)津田塾大学を開学し、教育の面――特に女子教育の面で近代化に貢献しました。
――日本で最初の女子大学を開学したことが評価されて、ということでしょうか?
木平 その部分は誤解されることが多いのですが、日本で最初に創立された女子大学は「日本女子大学」です。津田塾大学は、前身の津田英語塾の開学は「日本女子大学設立」より早いのですが、大学になったのは戦後です。お茶の水女子大学も、前身の「東京女子師範学校」ができたのは、津田英語塾よりも早いですが、大学になったのは、やはり戦後です。
――最後に、北里柴三郎は、「破傷風菌の培養」に成功した人ですよね。
木平 培養に成功すれば、治療だけではなく、「予防」にも役立てることができます。北里柴三郎の功績は、簡単に言うと「医療の近代化」ということになるのでしょうけど、医療の近代化において、「予防」や「公衆衛生の改善」は、とても重要です。予防は、そもそも「病気にかからないようにする」ということですから。おそらく、明治以降に日本人の寿命が延びたのは、「病気が治るようになったこと」よりも、「病気にならなくなったこと」のほうが大きいのではないか、と思います。北里柴三郎は、医学生だったころから、「医者の使命は、病気を予防することにある」と考えていたそうです。
――そういえば、話はそれてしまいますが、「白衣の天使」とよばれるナイチンゲールでも、似たような話を聞いたことがあります。
木平 「天使」という単語があると、「優しい」「自己犠牲」というイメージが思い浮かべられます。自分を犠牲にしてでも患者に奉仕するような姿です。でも、ナイチンゲールの本質は、「統計学」を駆使して、病床などの看護環境を徹底的に改善したことにあるそうです。実際にナイチンゲールが、看護師の制服を着て仕事をしていた期間は「3年くらい」だったそうです。
「新紙幣」の肖像画の人物の共通点は、「人を育てること」
――「近代化」以外で、肖像画の3人に共通点はあるんでしょうか?
木平 財務省の発表などには明確に書かれていませんが、「人を育てた」という点も挙げられるのではないでしょうか。「近代化」というと、「合理化」とか、「機械化」とかというようなことをイメージする人も多いと思いますが、近代は「市民社会」が成熟する時代でもありますから、「近代化」と「人を育てる」ということは切り離せない関係にあると思います。
――具体的には、どういうことですか?
木平 3人とも、大学の開学にかかわっているんです。
――先ほどもお話があった、津田梅子の津田塾大学(津田英語塾)はわかりますが、ほかの2人は? たとえば、北里大学は、柴三郎が亡くなって30年以上経ってできた大学ですよね? 名前は冠されていますが、開学にかかわっていたわけではないのでは?
木平 北里柴三郎が貢献したのは、慶應義塾大学の医学部の設立です。北里柴三郎の研究所は、福澤諭吉の私邸の土地を提供してもらって作られました。そのあたりの経緯は、『マンガ 新しい紙幣の感動物語』の中にも描かれているので、ぜひお読みください。で、その福澤諭吉への恩返しのために、慶應義塾大学医学部の新設に全面的に協力し、初代医学部長にもなりました。
――前の紙幣の肖像が福澤諭吉で、新紙幣の肖像に北里柴三郎が登場するのは、「あえて」なのかわかりませんが、何か物語性を感じさせる人選ですね。
木平 そうですね。そして、渋沢栄一は、一橋大学の建学に大きく関わっています。「実業界を背負うような人材の育成」に大きく期待していたんでしょう。ちなみに、一橋大学の名前の由来は、かつて大学があった東京都千代田区の地名に由来するんですが、そこが「一橋」という地名になったのは、徳川の一橋家があったからなんです。で、渋沢栄一がかつて仕えていたのは、徳川慶喜。慶喜は、一橋(徳川)慶喜です。そのあたりの関係性はよくわかりませんが、偶然だったら、とても面白いですね。それと、渋沢栄一は、大隈重信を助けて、早稲田大学の建学にも協力しています。
――北里柴三郎の慶應義塾と、渋沢栄一の早稲田。新札の中に、「早慶戦」があるんですね。
木平 もちろん、戦っているわけではないですけどね。北里も渋沢も、「恩師や友人のため」という部分もあったとは思いますが、やはり大きな想いとして、未来の日本を背負うような人材を育てたい、という考えが強かったんでしょうね。それは、津田梅子も同じでしょう。
新紙幣の裏面の物語も掲載
――この『マンガ 新しい紙幣の感動物語』には、新紙幣の裏面の物語も載っていますね?
「1万円=東京駅丸の内駅舎(辰野金吾設計)」「5千円札=藤の花(古来、多くの詩歌で描かれたモチーフ)」「千円札=富嶽三十六景・神奈川沖浪裏(葛飾北斎作)」です。
木平 やはり、財務省のHPには、「日本を代表する歴史と伝統、美しい自然、文化などから、各券種の色味やイメージに合うものを採用することとしています」と説明されています。「藤の花」は、特定の人物ではありませんが、本書では、「辰野金吾」「葛飾北斎」の人生や苦労を、物語として紹介しています。北斎は、アメリカの有名な雑誌『LIFE』の「この1,000年で最も重要な功績を残した世界の人物100人」という記事の中で、唯一選ばれた日本人です。その生涯も波瀾万丈ですから、物語として読んでも楽しめるし、「浮世絵」のことがわかる入門書的なマンガにもなっています。
――辰野金吾は、子どもたちの中には、名前を知らない人も多いと思いますが?
木平 「日本近代建築の父」とも呼ばれる人で、東京駅のほかにも「日本銀行本店」などを設計しています。マンガの中にも描かれているんですが、辰野金吾には、面白いエピソードがあります。外国に留学したばかりのころ、自分の「美術センス」に限界を感じていた辰野に恩師がこう言ったそうです。「タツノ、美術建築を理解したいと思うなら、人物を描けるようになりなさい」と。辰野金吾は、工学部出身で建築を学びに海外に留学したので、人物画なんて、得意ではなかったそうなんです。やはり、建築においても、「人間」というものの理解が中心にある、ということがわかるエピソードです。
類書のない、超高密度な一冊
――新紙幣の肖像画の3人の物語に、各紙幣の裏面の物語。さらには、旧紙幣の6人の物語や、紙幣の肖像の人物の名言集まで載っていて、とても充実した1冊ですよね。しかもこの価格で、全ページフルカラーとは。
木平 紙幣のリニューアルは、突然行われたわけではなく、5年前にすでに予告されていました。たとえば児童書でも、各出版社が万全の準備をもって、「新紙幣がらみの書籍をだしてくるだろう」と思いました。だから、編集担当の人と話をして、他社では絶対に実現できないような密度の濃い本にしようと思ったんです。「たぶん、オモテ面の肖像画の人物の本は出るだろうけど、裏面までは注目しないだろう」と。
――でも、結果的には、「新紙幣」をテーマにした本自体、あまりでてないように思いますが……。
木平 そうですね。たぶん、「情報」だけなら、いくらでもネットで検索できますから、各社、「本を出すまでもない」と考えたのかもしれませんね。ただ、ネットの情報では、本書のように、「オールカラーのマンガで、物語を楽しむ」ということはできないと思います。事典の説明のようなものを読んでも、頭にも、心にも残りません。書籍においても本書のような充実したものはなく、「密度と面白さ」という点でも、どの本にも負けていないという自信があります。子どもだけでなく、おそらく大人も知らないことがたくさんあると思いますので、ぜひ親子で楽しんでいただければと思います。そして、おそらく今年の入試問題でもたくさん出題されるテーマのはずですから、本書籍がそういう対策の役に立てたら、とても嬉しいと思います。
商品の紹介
■書名:『マンガ 新しい紙幣の感動物語』
■発行:Gakken
■発売日:2024年5月23日
■定価:1,320円(税込)
【電子版】
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