「世界の謎と不思議に挑戦するスーパーミステリーマガジン」として、40年余りの長きにわたり刊行されている月刊誌『ムー』。
2005年から5代目の編集長を務めるのが三上丈晴氏だ。入社直後から一貫して本誌編集部に在籍し、近年は雑誌編集のかたわら、オカルト番組など、メディア活動も積極的に行っている。
まさに『ムー』の顔とも言うべき三上氏が、初の著作『オカルト編集王 月刊「ムー」編集長のあやしい仕事術』を上梓した。ビジネス書の体裁を借りて、謎に覆われた誌面づくりの真相と、独自に編み出した仕事術を語り尽くした濃密な1冊だ。
もくじ
仕事術なんて語れない。けれど『ムー』の歴史は語り残しておきたい…
「最初に執筆の話をいただいたときは、仕事術なんて、語るのはおこがましいと思いました。編集の作法とかビジネスメソッドとか滅相もない。謙遜じゃなく、書いたところで「お前が何を偉そうに!」と、世の人たちに叱られるでしょう」
当初は執筆に及び腰だったというが、長い歴史の有名雑誌の裏側をすべて知る数少ない現役編集者。先代から受け継ぎ『ムー』を率いてきた者として、書くことの必然性を認識した。
「仕事術を語るつもりはないけれど、これまで伝え聞いてきた『ムー』の黎明期を記録するのは、自分がやるべき仕事かなと。神話の再構築というか、学研のかつての名物編集者たちが、『ムー』の基礎をつくるために悪戦苦闘した歴史を、リスペクトをこめて書くことはできるだろうと思いました」
編集者は、読者からの「面白かった!」の感想で、何もかも成仏する
仕事術ではない、と強調しながら、本書内で説かれる「マインドマップの魔術」「編集は料理である」「積極的幻想論」など、オカルトに携わるなかで獲得した特異な企画・発想メソッドは、充分にビジネスへの応用が効く。
『ムー』の歴史を一望できるファン垂涎の内容であると同時に、ものづくりを目指す若い社会人には、最適の思考の補助となり得るのではないだろうか。
「いやいや、少なくともビジネスの参考にしてもらうつもりで書いていません。説教くさくならないよう、事実のみを書くように気をつけました。
結果的に、読者の側で仕事の参考にしてくれるなら、それは嬉しいです。「面白かった!」と言ってくれるだけでいいと思っています」
ユリ・ゲラー氏や飛鳥昭雄氏ほか、縁の深いオカルト関係者たちとの交遊録、『ムー』的事件の真相など、専門的なエピソードも絶妙なユーモアをまじえて描かれ、一般読者も楽しめる。ビジネス書の体裁は取りつつ、基本は『ムー』に触れた者みんなが楽しめる、エンターテイメントだ。
「本をつくる編集者の心は読者の「面白かった!」で成仏するし、気持ちよく極楽へ行けます。変に崇拝されたりしたら、居心地わるい。
『ムー』編集長が書いてますが、別に怖いことが書いてある本じゃないですから、「○○の記事の裏で、そんな事件があったんだ!」なんて、気楽に笑いながら、面白く読んでもらえれば本望です」
待ってました! の声に応える。『ムー』は伝統芸能
『ムー』は世界の謎と不思議に挑戦する雑誌だが、それらの謎の「正解」を追い求めているわけではない。
そして、正解がないことを受け入れる雑誌にもかかわらず、答え合わせの欠かせない学習参考書を多く手がける教育系出版社から生まれ、40年を超える年月で刊行を続けている。これについて、作り手としてどう考えているのか。
「世間の人からは、『ムー』って学研から出ているの? と驚かれます。たしかに違和感はあるでしょうね。しかし、学研から出ているのは不思議ではなく、学研でなければ誕生しなかった雑誌でしょう。
なにしろ、『ムー』の原型は『高校コース』という、30-40年ほど前に隆盛を極めた「学年誌」にあるんです。
誌面デザインなども、他社の雑誌には醸し出せない「学研の匂い」がします。ほんとに昔っぽいですよ。いまでも特集記事は2色刷。読者ページでは読者が描いたイラストも掲載されているし、近年までペンパルコーナーも存続していました。これからも、学年誌をルーツとする、ある種の和やかな雰囲気は残り続けるでしょう」
トレンドに逆行しているからこそ、古参の読者から熱い支持を受け、移り変わりの速い時代において強いブランドを発揮しているようだ。
「20代の若手編集なら、デザイナーに「古いですよ!」「もっとお洒落に!」などと食ってかかかるでしょう。わからないでもないですけれど、時代に合わせて変わることなど、読者は求めていません。
実は何度か、誌面リニューアルを試したんです。1年ぐらい表紙の「目」を無くしてみたり。すると「目が無いのは何故!?」と、大騒ぎになりました。結局、元に戻るんですよね。」
読者には読者の確固とした『ムー』のイメージがある。彼らが求めているイメージを、編集サイドで改変してはいけない。そんな編集者の矜持もうかがえる。
「古くさいなど、作り手のエゴで伝統に手を加えるのは厳禁。『水戸黄門』のクライマックスで、助さん格さんが印籠を出さないようなものです。
ファンが大切にしている型を破っても、いい結果は出ません。新しい情報を採り入れつつ、決まった型に従う。歌舞伎や時代劇に近い。
読者からの、待ってました! の声に応える。『ムー』は伝統芸能みたいなものです」
読者のほうが賢い、という編集の姿勢
『あやしい仕事術』では、三上たち送り手側の謙虚な姿勢を説いている。読者との距離感は、遠すぎず、離れすぎない。読者の読解力を深く信頼しているのだ。
「『ムー』では人工知能や占星学など、難解なテーマを幅広く扱っています。けれど、読者の方々は、難しいテーマもきちんと面白がってくれます。編集者の我々よりも知識や理解力が高い。これ、謙虚な姿勢なんかじゃなくて、本当に読者の方が賢いですからね。読者への信頼感は、常に忘れません」
実際に、国内のサイエンスの研究者には『ムー』の愛読者が少なくない。ノーベル賞受賞者クラスの研究者でも楽しめる内容なのだ。
「たとえば超弦理論研究の第一人者、大阪大学の橋本幸士先生の著書に『ムー』が登場します。娘さんとの会話のなかで出てきますが、「お父さんはちゃんとした物理学者なんだから、『ムー』なんて読んじゃダメ!」みたいなことを言われます。
それを受けて橋本先生は「わかってないな」と、娘に向かって『ムー』の魅力を懇々と説くんです。目頭が熱くなりますね」
読者のリテラシーが格上であるという考え方は、『ムー』編集部に通底する思想。特集記事など、雑誌の質を保つために不可欠な思考の軸だろう。
「専門的な知見は綿密に取材しますが、あくまで『ムー』はエンターテイメント雑誌。面白くなくては、意味がありません。
決して慢心せず、知識も意識も「読者の方が上」と思っていれば大丈夫。『ムー』読者の期待を裏切らない、面白い誌面づくりに取り組めるんです」
真贋は問わない。でも理論は必ず通す
この辺りの心構えは、自身の経験値だけでなく、過去の編集長から継承したものだという。オカルトという異質な世界を取り上げつつ、編集者には脈々と、正統の学研イズムが受け継がれているようだ。
「『ムー』の土台をつくったのは、3代目編集長のOさんです。Oさんは理系のなかでも工学を修めた筋金入りの理論派。嘘やつくりごとは許さないけれど、「理屈が通っていればOK」が信条でした。
真贋は問わない。でも理論は必ず通す――。そのルールは徹底していて、いまも『ムー』の原稿に関しては理論の精査に手をかけます。今回の著書も、怪しいエピソードは山盛りですが、理論の破綻だけはないように努めました」
『ムー』の仕事に追われて、いまのところ「2冊目」は予定されていない。だが、三上氏の不敵な笑みの向こうには、さらなる「謎」や「不思議」が隠されているのではないか?
――異色のビジネス書作家として、期待は高まるばかりだ。
(取材・文=浅野 智哉 撮影=江藤 はんな 編集=倉上 実)
プロフィール
三上丈晴(みかみ たけはる)
1968 年生まれ、青森県出身。 筑波大学自然学類卒業。1991 年、学習研究社に入社。『歴史群像』編集部に配属されたのち、入社半年目から『ムー』編集部。2005 年に5代目編集長就任。2021年6月より、福島市の「国際未確認飛行物体研究所」所長に就任。CS 放送『超ムーの世界R』などメディア出演多数。趣味は翡翠採集と家庭菜園。
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