大好きだった走ることを通して、少年は再び前を向く
物語の主人公は、中学生の男の子。
陸上部に所属する成瀬颯斗(なるせはやと)は、ユーイング肉腫で右足を切断することになりました。手術後、彼は、窓に映った自分の姿に絶望します。「これが……僕?」と。
義足を履いて学校に戻ってからも、腫れ物に触るように接してくるクラスメイトとの距離感に悩みます。また、失ったはずの右足の痛み(幻肢痛)にも襲われます。
そんな彼を救ったのは、一本の板バネ(陸上用義足)でした。
颯斗が再び全力で走る日は来るのか? 友情あり、恋愛あり、涙あり。青春小説の傑作です。
綿密な取材を基に執筆
本書の執筆にあたっては、多くの義足アスリートや義肢装具士の方々に、綿密な取材を行いました。そのため、いわゆる「義足あるある」が、物語の中に自然に織り込まれています。例えば、義足では足首を微妙に動かせないため、靴を履く動作が苦手だとか、「幻肢痛」といって、切断して失ったはずの足が痛むことがあるとか……。そうした義足での苦労を知る反面、義足でできることの広さも理解できます。本書を読めば、義足やパラスポーツに対する学びが、大いに深まることでしょう。
この本のテーマは…
クラスメイトとの距離感に悩んでいた颯斗に、親友がこう声をかけます。
「ごめんな。最初の頃はびっくりしちゃって。悪気はなかったんだけど、なんて言っていいか分からなくてさ……。でも、もう慣れたよ」
もう慣れた。
この一言は、本書の大きなテーマの一つです。障害者と共に生きる社会を作るために、私たちは「知ること」と「慣れること」が必要です。人は、切れた足に限らず、知らないもの・見慣れないものを見ると、不安になったり、様々な感情が湧きます。差別意識がなくても、初めて見るものに驚くのです。
でも見慣れてしまえば、やがてそれも、普通のこと、当たり前のことに変わっていく……。24時間テレビやパラスポーツをテレビで放送することには、もしかしたら、見慣れてもらうという意図もあるのかもしれません。
読んでほしい、知ってほしい、そして、感動してほしい。この本は、前を向く力が湧いてくる、感動必至の「義足アスリート」青春小説です。
商品の紹介
■書名:『ギソク陸上部』
■著:舟崎泉美
■原案:山下白
■発行:学研プラス
■発売日:2022年3月3日
■定価:1,320円 (税込)