「スーパー戦隊図鑑」は新しい学びの力になる。制作スタッフが語る「図鑑」というフォーマットが秘めた可能性

『学研の図鑑 スーパー戦隊』編集者 芳賀靖彦&「学研の図鑑 LIVE」編集部 松原由幸 インタビュー 

更新日 2022.04.11
公開日 2021.06.04
  • Facebook
  • LINE
  • Pinterest

 2021年4月8日の発売後、一週間で2.4万部を売り上げ、4/19 付でネット書店や大手書籍ランキングで全書籍において第2位にランクインと、好調に売れ行きを伸ばし続けている『学研の図鑑 スーパー戦隊』。スーパー戦隊シリーズの世界観やヒーローたちを、カタログ的に網羅するのではなく、「図鑑」ならではの分類、比較のフォーマットからまとめ上げた、視点の斬新さが好評を博しています。

 図鑑という長い歴史をもつフォーマットは、これからどんな進化の可能性を秘めているのか、そして、図鑑はこれからの子どもたちの学びと成長に何を与えられるのか。『学研の図鑑 スーパー戦隊』編集担当の芳賀靖彦と、スーパー戦隊を通じて恐竜や動物に興味を持ち、そこから図鑑の魅力に目覚めたという制作スタッフの松原由幸に、図鑑制作の裏側と、図鑑の持つ可能性を聞きました。

松原(右)が持つのが1990年発行の『学研の図鑑 恐竜』、2014年発行の『学研の図鑑LIVE 恐竜』、そして芳賀(左)が持つのが今年2021年発売となった『学研の図鑑 スーパー戦隊』

▲松原(右)が持つのが1990年発行の『学研の図鑑 恐竜』、2014年発行の『学研の図鑑LIVE 恐竜』、そして芳賀(左)が持つのが今年2021年発売となった『学研の図鑑 スーパー戦隊』。©2021 テレビ朝日・東映AG・東映 ©テレビ朝日・東映AG・東映 ©東映 ©石森プロ・東映

子どもたちにこそ読んでほしい「スーパー戦隊図鑑」

芳賀と松原

『学研の図鑑 スーパー戦隊』の購入者の中心は、30代〜40代の大人だ。しかし芳賀は、この図鑑には子どもが読むからこそできる楽しみ方が詰まっている、と話す。

芳賀 「基本的に自然科学などを学ぶ基礎は『比較』と『分類』だと思うので、スーパー戦隊も全部集めて分類することによって、子どもたちが新しい視点を持てるようになればいいなと思います。たとえば、恐竜のチームが4つ、忍者のチームが3つあって、彼らの存在がわれわれの歴史にどう絡んでいるのか? そんなことを考えて得られた好奇心でも『もっと学びたい』という探究心につながっていくと思うんです。フィクションもノンフィクションも関係なく、どこから入ってもらってもいいと思うんですよね。

 実際のところ、松原くんはスーパー戦隊を好きになったことで恐竜に興味を持ち、今こうして恐竜図鑑の編集者になっているので、そういうリアルな気持ちを喚起したいなと。エンタメとしてだけではなく、図鑑を通してスーパー戦隊を見ることによって、学びにつながる気持ちを持ってほしいなと思いました

松原 「何かを好きになるきっかけって、なんでもいいと思います。私自身もスーパー戦隊の『恐竜戦隊ジュウレンジャー』という作品が好きで、幼稚園の頃にリアルタイムで観ていました。それと同じタイミングで親が『学研の図鑑 恐竜』を買ってくれて、物心がついた時期に恐竜のスーパー戦隊と図鑑に触れたことが、自分に大きな影響を与えました。そこから私の関心は生き物全般に広がっていき、最終的に大学では動物の進化を研究し、学位をとりました。

 そういう実体験をしてきた者としては、『学研の図鑑 スーパー戦隊』を読んでくれた子どもたちにも、ここからどんどん興味を広げていってほしいという思いがあります。スーパー戦隊はモチーフが多岐に渡っていて、動物や乗り物、忍者や侍など面白いものが集まっています。子どもたちが世界に興味を持つきっかけとしては最適な、とても知的なコンテンツですよね」

「学研の図鑑」で育った編集者だからこそこだわれたもの

松原写真

 図鑑編集者としてのルーツを、親が買い与えてくれた『学研の図鑑 恐竜』に持つ松原。その幼い日の記憶は「スーパー戦隊図鑑」の制作にも活かされているという。

松原 「各ページの欄外に豆知識ネタを入れているんですけど、『ディノサウロイド』という『恐竜人間』についての情報とかですね。これは『恐竜がそのまま進化していたら恐竜人間が生まれていたであろう』という仮説なんですが、『恐竜が進化した人類』という設定の『ジュウレンジャー』のページに『ディノサウロイド』の情報を豆知識として入れてみました。現実でも議論されていた仮説と、スーパー戦隊の設定に重なる部分があって、そうした面白い情報を遊び心として入れてみたりしました」

芳賀 「ちょうど恐竜関連の豆知識を考えていたときに松原くんに相談したら、その話が出てきたので、ここに入れるネタとしてはバッチリだなと思いました」

松原 「『ディノサウロイド』は、『学研の図鑑 恐竜』にも載っていて、私も幼稚園のときに読んで特に印象に残っていました。この説が提唱された頃、脳が大きい恐竜の化石が見つかり、当時の研究者が『恐竜って頭がいいんじゃないか』と、そのまま進化したらこうなっていたかも…という想像図を描いたんです」

学研の図鑑 恐竜』掲載の「ディノサウロイド」

▲『学研の図鑑 恐竜』掲載の「ディノサウロイド」。恐竜戦隊ジュウレンジャーのページに豆知識として活かされている。

芳賀 「あと、最近の恐竜って、あまりトカゲっぽくなくて羽毛が生えていたりするんですけど、スーパー戦隊の制作陣もそうした新しい学説を常に取り入れているのがわかります。『獣電戦隊キョウリュウジャー』に登場する守護賢神が『トリン』という鳥の姿をしていたりして。ティラノサウルスの描き方も、制作時の学説に合わせて変わってきていますね」

松原 「変わっていますね。昔は尻尾を引きずるような立ち姿だったのが、化石の発見で研究が進むにつれて、尻尾が浮いた前傾姿勢をとっていたという説が濃厚になりましたから。最近のスーパー戦隊に出てくるティラノサウルス型のロボットも、最新の学説に沿った形をしています。スーパー戦隊に登場した新旧のティラノサウルス型ロボットを並べてみると、学説がどう変わってきたか、人々が恐竜をどのように見てきたのか、その流れがわかるようになっています

図鑑というフォーマットの可能性

「キン肉マン」「スーパー戦隊」というフィクションの世界を図鑑化すること、それは、図鑑というフォーマットが秘めた可能性への挑戦だ。「スーパー戦隊図鑑」で、その挑戦は随所にちりばめられている。

芳賀 「個人的に思い入れがあるのは、やはり年表のページですね。恐竜系スーパー戦隊の年表では生き物の進化の流れを組み合わせましたが、忍者や侍などの伝統組織系スーパー戦隊の年表ではリアルな歴史と絡めました。たとえば『手裏剣戦隊ニンニンジャー』の初代戦士が出てきた頃は、ポルトガルから鉄砲が伝来した時期と重なっていて『そんなに昔からスーパー戦隊はいたんだ』とか、歴史の流れが感じられるようになっています。それは同じ年表に並べてみたことによって楽しめる、新しい視点だと思います。作り手としても楽しいですし、発売後に好評をいただいているのもこういうページみたいです」

年表のページ

松原 「いちファンとしては、ロボットの変形・合体一覧のページが圧巻でした。これは図鑑ならではのページだと思うんですよ。最近のスーパー戦隊はロボットの変形や合体のバリエーションが多くて楽しいので、それをどう見開きに収めるか、芳賀さんも苦労されたところだと思います。制作段階のページを見せてもらったとき、あまりの出来栄えだったので「これはすごいですよ」と絶賛していましたね(笑)。あと、『このロボットとこのロボットが合体してこれになる』といった、複雑な事象を頭の中で整理して考える習慣が身につけられるのは、学びの観点でもとても良いと思います」

ロボットの変形・合体一覧のページ

芳賀 「昔は戦闘機とか戦車とか3台くらいが合体した巨大ロボで完成だったんですけど、段々と複雑に合体と変形を繰り返すようになったので、観ていると整理したくなるんですよね。でも、過去にそれをやっている出版物はなかったので、まずは全部を表に書き出す作業を全作品でやりました。この変形一覧は今回の図鑑が初の試みだったので、スーパー戦隊ファンの方々が重宝してくれているページではないでしょうか」

松原 「普段、図鑑を作っていて感じるんですけど、自然界にあるものって多様で複雑なので、わかりやすく説明できないものの方が多いんです。そんな複雑なものの中から見てほしい情報を抽出し、整理して誌面に構成していく作業が図鑑制作の大半を占めるので、そういう意味でもロボットの変形・合体一覧は、まさに“図鑑的”と言える誌面だったと思います」

芳賀 「昆虫図鑑では必ず幼虫からサナギ、成虫、になっていく図が載っているじゃないですか。それとまったく同じ発想です。スーパー戦隊のメカも変形していくなら、そのプロセスはきちんと見せていくのが図鑑なので、そこが設定資料集とは違う、図鑑ならではの考え方が表れているところですね」

子どもたちにとっての「世界の入り口」を作りたい

 今回スーパー戦隊図鑑を作る中で、二人は図鑑編集者として大切なことに改めて気付かされたという。それは「好き」から広がる「学び」の無限の可能性だ。

『学研の図鑑スーパー戦隊』と『学研の図鑑LIVE』

松原 「何かを好きになることの大事さを改めて感じました。私自身は恐竜や動物の図鑑を担当していますけど、最終的に恐竜を好きになってほしくても、そのきっかけは『学研の図鑑 スーパー戦隊』のような別のものでもいいなと。子どもたちに『自分はこれが好きだ』と信じられるものを見つけてもらいさえすれば、手段はなんでもいいんだと、肩の荷が軽くなったような感じがしました。未就学から小学生の子どもたちは、スポンジのように知識を吸収するので、図鑑は何かを好きになるきっかけになれば、それで十分だなと

 最近まで放送されていた『魔進戦隊キラメイジャー』という作品は、主人公たちの“好きなことを信じる力”が戦うパワーになるスーパー戦隊で、私はそこに強く感銘を受けました。子どもたちに “好きなことを信じる力”を身につけてもらう、そのお手伝いができればいいなと思いました。スーパー戦隊の図鑑に関わったことで、そうした自分の中の『図鑑と向き合う気持ち』が、より固まってきたなと感じました」

芳賀 「学研では参考書や問題集も作っていますけど、そこにあるのは点を取るとか試験に合格するという明確な目的に向かっていくための『学び』です。でも、図鑑にあるのは、好きなものを掘り下げていく『自発的な学び』だと思うんです。そうして掘り下げていった結果、松原くんは今ここにいるわけですよね。だから『学び』ってそんなに構えたものじゃなく、その人自身が持っている探究心などが『学び』になれば、それでいいんじゃないかなと思います」

松原 「図鑑編集部では、よく『図鑑は子どもたちにとって世界の入り口だね』という話をするんです。半径数メートルの世界の外に何があるのか、図鑑を開けば色々と知ることができる。そこが図鑑の一番の魅力じゃないかなと。そういう意味では、様々なモチーフを取り入れているスーパー戦隊を『世界の入り口』にするのも、すごく意味のあることじゃないかなと個人的には思います。子どもたちに『こういう楽しい世界があるよ』と示すという点では、普段の自分の仕事と近しいですし、同じように子ども向けのコンテンツを作っている者として共感するので、こちらも学ぶものがあるなと感じます」

創刊50周年。「学研の図鑑」が描く未来

6つの水玉の表紙でおなじみ。70~80年代に発刊された学研の図鑑。

▲6つの水玉の表紙でおなじみ。70~80年代に発刊された学研の図鑑。

 昨年、創刊50周年を迎えた「学研の図鑑」。長きにわたって子どもにも大人にも愛され続ける「図鑑」という商品は、これからどのような進化を見せていくのだろうか。

松原 「スタンダードな図鑑を追求しつつ、時にはそのノウハウを少しズラしたところから化学反応のように生まれるものも作っていきたいと思っています。図鑑はフォーマット自体にすごく魅力があるので、今回の『学研の図鑑 スーパー戦隊』のように、そのフォーマットの力を最大化していけるものは、今後も考えていきたいです」

芳賀 「図鑑というフォーマットの有意義性は非常に強く感じているので、今回の『学研の図鑑 スーパー戦隊』のようなシリーズの可能性は追求していきたいですね。僕も松原くんのように、幼い頃に図鑑を見てワクワクしていた記憶がありますけど、図鑑は大人になってもそういう感覚を与えてくれるものだと思うんです。この図鑑は3040代の方々を中心に買ってくださっていますけど、第一線で働いている大人たちがこれを手にすることによって、夢と希望にあふれた子ども時代の気持ちを少しでも甦らせてくれたのなら嬉しいです」

*  *  *

 6月24日には「学研の図鑑LIVE」シリーズの最新作『世界の昆虫』『もののしくみ』が発売となる。

学研の図鑑LIVE『世界の昆虫』『もののしくみ』

▲学研の図鑑LIVE『世界の昆虫』『もののしくみ』

 50年にわたって“子どもたちの世界の入口”であり続けてきた「学研の図鑑」は、次なる50年、創刊100年に向けて、止まることのない進化を目指していく。

  • Facebook
  • LINE
  • Pinterest

あわせて読みたい