[春休みにおすすめ]こぐまのピノピノの新作物語

『ピノピノよもうよ いちご たべすぎ!』

更新日 2020.12.11
公開日 2020.03.18
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無邪気なこぐまに学ぶ、今を切りぬける知恵とは

 入学前~小学校低学年のこどもに向けて、絵本から少し長めの物語へ、読み聞かせから自分読みへの、ステップアップをサポート。文字サイズからさし絵のタイミングまで、読みたくなるくふうがいっぱいです。

誌面画像

 春は入学、クラスがえなど身の回りの変化がいっぱい。新学期にそなえ、読書を通じて「心の力」を育てませんか。

『ピノピノよもうよ いちご たべすぎ!』は、森でくらすこぐまの男の子ピノピノと、森の仲間たちの物語。「幼年童話」という、絵本と読み物の中間となるジャンルです。書店では「低学年向け読み物」の棚をさがすと、見つかるかもしれません。

 幼い主人公ピノピノのセリフや行動には、大人がハッと気づかされる純粋さや、生きるうえで大事にしたいこと、さらに人間界での現実場面にも応用できそうな知恵がいっぱい。

▲『ピノピノよもうよ いちご たべすぎ!』イタリアの人気児童書を日本のこどもに向けて大々的にアレンジした

▲『ピノピノよもうよ いちご たべすぎ!』イタリアの人気児童書を日本のこどもに向けて大々的にアレンジした

▲「第1話:いちご たべすぎ!」より。1冊に5つの物語が収録されている

▲「第1話:いちご たべすぎ!」より。1冊に5つの物語が収録されている

仲良くなれたと思っていた相手が、突然“自己中”な欲張り心をあらわしたら…?

 ピノピノはいちごやラズベリーなど、ベリー類が大好き。ある日、相棒のくまの女の子ルゥと森でベリーをさがしていたとき、こぐまのバルバウと出会います。
 ベリーが大好きなことで意気投合した3びき。ピノピノとルゥは、もっとベリーがたくさんある、とっておきの場所へと、バルバウをつれていくのです。
 ところがバルバウは、一面のベリーを前にしたとたん、がらりと態度を変えます。

 そのシーンを読んでみましょう…。

 

「おまえら、おれのために  とってこい!」

 いきなり、どうしたと  いうのでしょう。

 ピノピノは  おどろいて  たずねました。

「とってこなかったら、どうなるの?」

 ふいに、バルバウは  ほえました。

 グァルル グァオー!

 ピノピノと  ルゥが  あとずさりすると、

 バルバウは  ばっと  たちふさがります。

 とてもにげられそうに  ありません。

 バルバウは  木に  どっかりと  よりかかりました。

「ここで  まっているぞ。

 ぜんぶ  おれの  ために  あつめるんだ。

 はたらけ! ちびたち!」

▲ 「第2話:よくばりな くま」より

▲ 「第2話:よくばりな くま」より

 …せっかく親切にいい場所を教えたというのに、たくさんのベリーに目がくらみ、みにくい欲望と乱暴さをむきだしにしてきたバルバウ。ショックですが、人間界でも起こりそうなエピソードです。

 さて、ピノピノはどう対処したかというと…。
 つづきを読んでみましょう。

 ピノピノと  ルゥは、だまって  顔を  みあわせました。

 やがて、ふたりは  ベリーを  つんで、

 バルバウの  ところへ  はこびはじめます。

「どんどん  もってこい。山に  しろ!」

 …態度を豹変させていばりちらす相手に、ピノピノは無理をしてまで抵抗しようとはしません。乱暴されたりかみつかれたりしないよう、まずは自分たちの身を守るべく立ち回るのです。こぐまながら、状況をみて臨機応変に切りぬけるピノピノの対応は、読みどころ!

 そしてこのあと、ずるくて欲張りなバルバウがどうなるか…。イソップ童話を思いうかべる、痛快な結末もまた、心でクスッとしてしまいそう。イタリアの原作ならではのおもしろさかもしれません。

▲ 山づみにされたベリーを食べ終わったバルバウは…

▲ 山づみにされたベリーを食べ終わったバルバウは…

無垢な心で、自分に合ったやりかたをみつけていく

 この本には、10見開き前後の短編が5つおさめられていて、ピノピノの純粋さにハッとさせられるエピソードも、まだまだあります。

 たとえば、
 “森どろぼう”のにんげんからみんなの森を守るため、ひとり小さなからだでとびだして、思いっきり体当たりしたり…。(第3話:森どろぼう)
 キツネのおばあさんに、お月さまはハチミツいっぱいの大きなハチの巣だと教えられ、つかまえようと必死になったり…。(第4話:月を おいかけて)

 一方で、なるほど! と思う知恵を発揮するエピソードもみのがせません

 たとえば、
 嵐から避難しようと訪れたほらあなで、外へ追い出そうとしてくる意地悪なオオヤマネコには、かんちがいを利用したうなり声作戦を使って、みごとに引き下がらせたり。(第5話:あらしの ぼうけん)

 ピノピノは、幼いながらも、その場その場で自分に合った、無理のないやりかたを選びとっていくのです。

▲ 「第3話:森どろぼう」より。ピノピノのしぐさや動作が愛らしい

▲ 「第3話:森どろぼう」より。ピノピノのしぐさや動作が愛らしい

▲ 「第4話:月を おいかけて」より。美しい景色の描きかたにも注目

▲ 「第4話:月を おいかけて」より。美しい景色の描きかたにも注目

どんな事態も受けとめるしなやかさ、自分で判断しようとする主体性

 原作者のロベルト・ピウミーニ氏は、ピノピノについてこう語っています。

「ピノピノは失敗をする子なんです。こわがりで、身のほどを知らなくて、実にあぶなっかしい。でも、何度だって挑戦します」

 そう。ピノピノは、決して器用なこどもではありません。
 でも、どんな事態からもにげずに、まっすぐに受けとめようとするしなやかさを持っています。そして、当事者意識を持ち、自分自身で判断し考えてみようとする主体性を、かねそなえているのです。

 5つの物語には、日常の小さなピンチやトラブルを切りぬけるヒントがいっぱい。読めば読むほど新しい発見と解釈が生まれます。
 最初は「まだ幼くて無邪気だねえ」と上から目線で読んでいたはずの(笑)ピノピノに対し、だんだんと「そうきたか!」「さすが!」「やったね!」と驚きや尊敬、期待の念がわきあがってくるから、おもしろい。

 こどもだけでなく、大人も楽しめること間違いなし!の1冊です。
 いつもとはちがう今年の春休み。だからこそ読書を通じて「心の力」を訓練するひとときも、よい経験や思い出となることでしょう。

 読み聞かせなら4歳から、自分で読むなら5、6歳から。小学校3年生くらいまで、くりかえし読みたくなる「幼年童話」です。

▲ ピノピノとルゥの名コンビぶりは、前シリーズからつづいている

▲ ピノピノとルゥの名コンビぶりは、前シリーズからつづいている

商品の紹介

書影
■書名:『ピノピノよもうよ いちご だいすき!』
■原作:ロベルト・ピウミーニ 
■絵:アンナ・クルティ 
■翻案:山本 和子
■発行:学研プラス
■発売日:2020年3月13日
■定価:本体1,200円+税

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