志を持つ

矢都木二郎『麺屋武蔵 ビジネス五輪書』セレクション

更新日 2020.07.31
公開日 2017.03.23
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 私が麺屋武蔵に就職したのは、2001年、24歳の時でした。
 それまでは、食品関連の梱包資材メーカーに勤務する、「つけ麺」が大好きなサラリーマンでした。
 私とつけ麺との出会いは、大学時代。大学からそう離れていないあるつけ麺店で、つけ麺に出会ったのが始まりでした。
 20年ほど前の当時、つけ麺はまだ珍しく、私はすっかりハマってしまい、年間100回は通ったと思います。
 それと同時に「つけ麺」という商品の将来性を考えるようになり、真剣につけ麺店に就職しようと考えていたのです。
 しかし、当時はまだ飲食業界へ就職することに抵抗があった時代で、私も大学まで行かせてもらったのに、ラーメン店へ就職したのでは親に申しわけないような気もしました。そこで、ともかく一般の会社に就職することにしたのです。
 新卒で就職した会社は、食品関連の梱包資材メーカーでした。のちに東証一部にも上場する有望な企業だったのですが、サラリーマン時代の私は、本当にダメダメでした。
「家から車で通える」、それだけで就職したものですから、愛着という点でもいまひとつ。いかにサボろうかということしか考えていませんでした。
 当時の私の仕事のひとつに、カップラーメンや餃子などについてくるタレの小袋に印刷する小さな文字を校正することがあったのですが、「こんな原材料の文字、間違っていても誰も見てないでしょ」と、イヤイヤ仕事をしていました。
 営業に回っているよりも、ラーメン店を回ったり、何かうまいものを探したりしているほうが楽しかったのです。
 それでも2年弱はがんばったのですが、「このままではいけない」と意を決して会社を辞め、ラーメン業界に飛び込みました。
「麺屋武蔵」を選んだのは、ラーメン業界でトップだったからです。私には、「自分が大好きなつけ麺を、日本全国に広めたい」という思いがありました。
「ある程度勤めてノウハウを身につけて、いずれ独立してつけ麺のチェーン店を作ろう」そんな思いで、転職したのです。

 結果的に私は、独立することはありませんでした。しかし、「独立」という明確な目標を持ったことで、サラリーマン時代とは仕事への意識がガラリと変わりました。
 店で働くスタッフには独立も選択肢に入れて、仕事をしてほしいと思っています。
「独立しろ」ということではありません。会社の中でどんどんキャリアを積んで、新機軸を提案して事業を立ち上げるのでもいい。
「女性にモテたい」
「高級車を買って乗り回したい」
「年収1億円稼ぎたい」
 何でもいいから、「どう生きたいか」「どうなりたいか」という自分なりの志(こころざし)を持って、仕事をしてほしいのです。

 会社に甘えてはいけません。会社が何かをしてくれるのではなく、会社や仕事をツールにして、自分をどれだけ成長させることができるか。それが、大事なことなのです。
 人間ひとりでは、なかなか「自己実現」は難しいものです。だから、会社という組織を利用して、個人の夢を実現するためのステップとするのです。
 麺屋武蔵では、「自己実現したい人、この指とまれ」と呼びかけています。
 単に時間とお金を交換するのではなく、仕事からそれ以上の何かを得るマインドを持つ。
「その先」に自分なりの志を持てば、毎日の仕事が、未来への1歩に変わるでしょう。

 

(※この連載は、毎週木曜日・全8回掲載予定です。4回目の次回は3月30日掲載予定です。)

 

矢都木 二郎 (やとぎ じろう)

株式会社麺屋武蔵 代表取締役社長。
1976 年 埼玉県生まれ。
創業者・山田雄のイズムを継承し 常に「革新的で上質」なラーメン店作りを目指す。
ラーメン界の新しい取り組みとして コラボレーション商品を多数提案。ロッテ カルビー 旭酒造といった企業から 自治体や生産者まで 幅広くコラボレートして 多くの革新的なラーメンを生み出す。「チョコレートからフルーツまで ラーメンにできない食材はない」と語り ラーメン店の無限の可能性に挑戦し続けている。
ラーメンの創作活動の傍ら 経営者として 業界の職種的地位向上に尽力。さらに職場環境 待遇の積極的改善 「料理ボランティアの会」を通じてのボランティア活動などを積極的に行っている。

◆主な経歴
・2001 年 株式会社麺屋武蔵 入社
・2003 年 「 麺屋武蔵 武骨」店主に就任
・2004 年 「 麺屋武蔵 新宿総本店」店長に就任
・2013 年 株式会社麺屋武蔵 代表取締役社長に就任

作品紹介

麺屋武蔵 ビジネス五輪書

20年間、業界のトップを走り続けるラーメンの名店・麺屋武蔵。創業以来脈々と伝わる「成功の極意」を2代目社長が語る。
定価:本体1,300円+税/学研プラス

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