男女の出会いに限らず、チャンスは、さまざまなかたちで突然やってきます。
　ある時、歌手志望のＡ子さん（２０代・女性）が、私の手相鑑定に見えました。
　私が「何か作品をお持ちでしたら、ぜひ聞かせてください」とたずねると、Ａ子さんからは「持ってきていないんです」という回答が……。
　そこで、私は、こうアドバイスしました。
「シンガーになりたいという人が、『今は持っていません』 と言ってしまっては、せっかくのチャンスを逃してしまいますよ。本気でデビューしたいのなら、デモテープ（自作を売り込むためにつくったテープ）をいつも持ち歩いて、もしチャンスがあったらサッと出す。それぐらいの準備はしておかないとね」
　手相を見ると、Ａ子さんにはちょうど幸運期が来ていただけに、「もったいない！」という思いから、私の鑑定もついつい熱くなってしまったようです。
　この時、私は、音楽プロデューサーとしてかつてニューヨークに住んでいた時代の経験を、彼女に話しました。

　私のニューヨークで初めての企画は、私が作曲した曲を歌ってくれるシンガーを見つけることでした。私は、まずフリーペーパー（街に置いてある無料の情報誌）に、縦１センチ×横４センチほどの小さな広告を載せました。
「日本の音楽プロデューサーが、歌手を探している。連絡先は、こちら……」
　数百という広告に紛れたわずかなスペースで、文字も凝視しなければ見えないほどの小さなサイズでした。
　ところが、掲載の翌日からどんどんデモテープが届き出し、１週間もたたないうちに、たちまち４００以上の歌手やバンドから、音源と良くできたプロフィールが送られてきました。中には、私のアパートメントまで押しかけて、「曲の評価を聞かせてくれるまで帰らない」と粘るミュージシャンもいました。
「これぞアメリカだ」と思いました。チャンスに対する、備えの素晴らしさ。
　みんな万全の準備をして、チャンス到来を必死に待ち続けているのです。
　結局、私はその中から１人のアメリカ人の女性歌手を選び、私の曲をギャラを払って録音しました。
　これは音楽の世界のみならず、あらゆる世界に共通する成功の心がまえです。
　あなたの最高のデモテープは、用意できていますか？

西谷 泰人 (にしたに やすと)