最近は少子化が進み、以前と比べて、ひとりっ子は珍しいものではなくなってきました。子育て世帯の3分の1が、ひとりっ子家庭とも言われています。
にもかかわらず、ひとりっ子を持つ親御さんには、さまざまな悩みや不安をお持ちの方が多いようです。
私は精神科医であり、教育評論家でもあるため、普段から多くの親御さんとお話しする機会がありますが、ひとりっ子を持つ親御さんの多くが、ほぼ同様の悩みを抱えておられるのです。
かつて「ひとりよりふたり」などという広告コピーが流行したように、特に日本においては、「ひとり」であることがネガティブにとらえられやすい傾向があります。ですから、ひとりっ子の親御さんが、ともすれば、わが子を「きょうだいっ子」と比較してしまう心理は、私にもよく理解できます。
ましてや、ひとりっ子に向けられる世間の「色眼鏡」と、それに伴う、きょうだいっ子の親御さんの不用意な物言いが、ひとりっ子の親御さんたちを怖れや不安に向かわせてしまうことも、しばしばでしょう。
「きょうだいがいなくてかわいそう」「ひとりっ子だと過保護に育ててしまう」「ワガママに、甘ったれになってしまう」「ひとりっ子だとコミュニケーション能力が育たない」などなど……。
けれども私は、これらの多くの言説は単なる世間の誤解や思い込みにすぎないと思っています。大抵の場合、それらに根拠は見つからず、そのまま「きょうだいっ子」にもあてはまるものばかりだからです。
現代精神分析の考え方では、愛情をたっぷり注いだ子の方が、性格も個性豊かに育ち、健全な野心も芽ばえやすいと言われます。
たとえば、中国で人口制限のために取られた「ひとりっ子政策」にしてみても、ひとりの子どもに愛情が一極集中で注がれることから、「小皇帝(小さな王様)」と呼ばれました。このままでは中国がワガママな子であふれてしまうのではと行く末が心配されましたが、今のところ取り越し苦労だったようです。彼らの学力は飛躍的に高まり、その能力の高さから、企業などで大成功する人たちも多数出ており、中国経済の発達を支える力となっています。
もちろん、ひとりっ子にまつわる心配や不安は、まったく根拠のないものではないでしょう。確かに、ひとりっ子の中には、甘やかされて、ワガママになってしまう子もいることと思います。
でも、考えてみてください。それは愛情をかけたからではなく、ただ、しつけをしっかりしないためなのではないでしょうか? それはひとりっ子に限らず、すべての子に共通の問題なのです。
本書の第一の目的は、このような誤解を解くことにより、ひとりっ子の親御さんの気持ちを楽にすることです。そして、そんな誤解に陥らないための対策も考えてみました。
考えてみれば、ひとりっ子育児には結構なメリットがあります。お母さんの「愛情」も、子育てにかけられる「時間」も、さまざまなことを経験できる「チャンス」も、その子が一手に受けられます。お母さんは、ていねいな子育てを、じっくりと楽しむことができるのです。
和田 秀樹 (わだ ひでき)
1960年大阪府生まれ。精神科医・教育評論家。東京大学医学部卒。国際医療福祉大学大学院教授(臨床心理学専攻)、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。精神分析学(特に自己心理学)、集団精神療法学等を専門とする。受験アドバイザーとしても精力的に活動し、志望校別勉強法の通信教育・緑鐵受験指導ゼミナールを主宰。東京大学をはじめとする難関大学に挑戦する受験生を指導している。映画初監督作品『受験のシンデレラ』がモナコ国際映画祭最優秀作品賞を受賞するなど、文化面でも幅広く活躍中。
作品紹介
ひとりっ子の子育ては心配だらけに見えて、実はメリットが一杯です。「ひとりっ子でよかった!」と心の底から思える本。
定価:本体1,300円+税/学研プラス
バックナンバー
- 色眼鏡2 「ひとりっ子はワガママ」は本当?
- 色眼鏡1 「ひとりっ子は友達作りが苦手」は本当?
- ひとりっ子への 「色眼鏡」に対抗する方法
- ひとりっ子を心配する前に、 まずやっておくべきこと
- 良いところもあれば、 悪いところもある
- 悩み3 親として経験が足りないのではないか
- 悩み2 甘やかしすぎていないか
- 悩み1「きょうだいがいなくてかわいそう」と言われる