母と娘で「心の自由」を認め合おう

石原加受子『母と娘の「しんどい関係」を見直す本』セレクション

更新日 2020.07.17
公開日 2014.08.27
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「自分中心」に生きることの満足と歓び

「自分中心」に生きるか、「他者中心」に生きるか。その答えは、日常の小さなやりとりから始まっています。
 これまで述べてきたように、“相手”によって満足を得ようとする他者中心の発想からスタートすると、お互いが、相手の人生に理不尽に介入していくことになります。それは両者が、ともに相手の手で食事をとろうとするようなものです。親子のように身近な関係であるほど、いたるところで不都合や障害が生じるでしょう。
 ではここで、自分自身が自分のために行動する、という自分中心の発想からスタートするとどうでしょうか。
 相手に協力するのは、“私”が相手を愛しているからです。
 それは、「しなければならない」という強い思い込みや自縛からではなく、”したい”という自分自身の欲求からです。
 そのため、協力することに満足と歓びがあります。
 そこに満足と歓びがあるから、「感謝」が生まれるのです。

お互いを認め合う母娘の会話

 今回は、「自分中心」の親とのコミュニケーションについてご提案します。
 たとえばあなたが母親に、
「パソコンの操作がわからないから、教えてほしい」
 と頼まれました。
 このときあなたは、引き受ける自由もあれば、断る自由もあります。それはあなたの「気持ちや欲求や感情」次第です。断るとしても、100パーセント罪悪感なしに断る自由があります。
 あなたは仕事で疲れていたので、
「いま帰ってきたばかりなので、1時間ぐらい休憩したいんだ。その後でいい?」
 と丁寧に答えました。そんな言い方ができるのは、自分の気持ちを大事にすることを、あなた自身が心から認めているからです。
「いいわよ。助かるわ、ありがとうね」
 と感謝の言葉が母親の口から自然に出るのは、母親もまた、子どもの自由を心から認めているからです。

相手にテリトリーを侵されない安心感

 休憩した後に、パソコンと首っ引きで格闘している母親の姿を見て、あなたは、
「おかあさんって、歳をとっても、自分でパソコンをやろうとするから、すごいね」
 と声をかけました。そうしたくなったのは、母親が自分の心のテリトリーに無断で侵入することはないという安心感があなたにあったからでした。
 母親が、あなたに気づいて顔を上げました。
「ああ、疲れとれた? 無理しなくていいのよ」
 と母親が言えるのは、協力してくれるという信頼感があるからです。
「うん、スッキリ!」
「よかったあ」
 あなたは、無意識に〝母親と時間を共有する〟という目的を自覚しているので、他のことを考えず、母親と過ごす時間を大事にしようという気持ちになっています。
「どこがわからないの」
「ほら、ここ。ここが、どうしてもこうなってしまって進まないの」
「あ、ここね。これはこうするんだ」
「あ、なんだ、そうなのかあ。メモしておこう」
 母親もあなたも、パソコンを通じて、二人で過ごす時間を大事にしていることを実感しています。だから、イライラすることはありません。

理想は「心の自由」を認め合う関係

「ウーン。でも、ここは難しいなあ」
 しばらく操作してからあなたは、これ以上やっていたら疲れてきて、苛立ってくるだろうと自覚できました。そこで自分の気持ちを優先して、
「ここは、今の私では知識不足だなあ。今晩はここまでにして、あとは、明日か明後日まで時間をくれない? ちょっと調べてみるから」
 と言いました。
「そうね、じゃあ、そうしてくれる? 手間かけるわね」
 というふうに母親があなたの意見を受け入れたのは、娘に無理にやらせようとすると、自分自身が心の負担を覚えてしまうと、母親は知っていたからでした。
「ま、やってみないとわからないけど、たぶん大丈夫だと思う」
「そう言ってくれると心強いなあ。私の頭ではさっぱりだから」
 そして、母親は安心した顔で、
「私も今日は、これで十分だから。助かったなあ。いつもありがとう」

 これは、ごく普通の日常会話です。
 けれども、こんな会話になるのは、たくさんの「自分中心」的な捉え方とそのスキルが土台となっているからです。そして、この一場面でこんなストレスのない会話ができるのだとしたら、他の多くの場面でもこんな会話ができることでしょう。
 簡単にできそうにも思えますが、お互いに「私の心の自由」を認め合った関係でないと、こんなふうにストレスを感じない会話にはなりません。
 お互いが、お互いの領域を侵さない。そんな安心感があって、はじめてこんな会話が成り立つのです。

 そして、お互いに自由を認め合っているからこそ、「私と相手」が一緒にいる時間、 あるいは相手が自分に協力してくれることすべてに感謝の思いが湧いてきて、「ありがとう」と言いたくなるのです。

石原 加受子 (いしはら かずこ)

心理カウンセラー。
「自分中心心理学」を提唱する心理相談研究所オールイズワン代表。日本カウンセリング学会会員、日本学校メンタルヘルス学会会員、日本ヒーリングリラクセーション協会元理事、厚生労働省認定「健康・生きがいづくり」アドバイザー。 思考・感情・五感・イメージ・呼吸・声などをトータルにとらえた独自の心理学をもとに、性格改善、親子関係、対人関係、健康に関するセミナー、グループ・ワーク、カウンセリング、 講演等を行い、心が楽になる方法、自分の才能を活かす生き方を提案している。
『母と娘の「しんどい関係」を見直す本』(学研プラス)、『仕事・人間関係「もう限界!」と思ったとき読む本』(KADOKAWA)、『わずらわしい人間関係に悩むあなたが「もう、やめていい」32のこと』( 日本文芸社)、『金持ち体質と貧乏体質』(KKベストセラーズ)など著書多数。

 

作品紹介

母と娘の「しんどい関係」を見直す本

母親と娘が抱えるストレスの原因を解きほぐし、親子ともに「新たな人生」を歩むための工夫を人気カウンセラーが提案する。
定価:本体1,400円+税/学研プラス

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