石原加受子『母と娘の「しんどい関係」を見直す本』セレクション

UPDATE 2020.07.17
公開日 2014.08.13

「無理しなくていいのよ」「失敗したら大変よ」

 私のもとに相談に来た、ある女性の母親は、ひとり暮らしで会社勤めをしている娘のもとを頻繁に訪れていたそうです。そして顔を合わせるたびに、
「大変でしょう、そんなに頑張らなくてもいいのよ」
「あんまり無理すると、健康によくないわよ」
 などと言いつづけました。
 普段からハードな仕事で疲労困憊していたため、そうなのかもしれないと、彼女は母親のアドバイスに従って仕事を辞めて実家に戻りました。
 表面的には、娘思いの”いい母親”です。娘自身も母親に感謝しています。
 けれどもその一方で、ことあるごとに「心配、心配」と言っては自分のしたいことにブレーキをかける母親に苛立ちを覚え、娘は反発したくなっています。
「どうして仕事を辞めてしまったんだろう」
 仕事に戻りたくても、いまとなっては戻れません。
 いつの間にか、やり場のないストレスが膨れ上がって途方に暮れています。

 また、別の女性の母親は、
「私はやりたいことができなかったから、あなたには自由な道を選んでほしい」
 というのが、昔からの口ぐせでした。
 けれども娘がその言葉通り、自分で決心して行動しようとするたびに、
「でも、それって難しいんじゃないの」
「失敗したら、あなたが傷つくんじゃないの」
「それよりは、こっちのほうがいいんじゃないの」
 などと口を挟んできては、結局、反対するのです。
 母親の言い分には筋が通っていて、もっともなように聞こえます。けれども、なぜかしっくりこないのです。自分のやりたいようにやらせてほしいと思う気持ちが、どうしても消えません。

自分を大切に扱えない「他者中心」の生き方

 彼女たちがもし、母親の反対を押し切って自分の思いを通そうとしたら——。
 きっと、失敗することが少なくないでしょう。
 彼女たちが勇気を持って押し通したその主張は、母親たちによって、いつのまにか失敗する方向に導かれてしまうことがあまりに多いのです。
 もちろん、母親たちは娘を気遣ってアドバイスしています。けれどもその心の底に は、いつまでも娘を自分のもとに置いておきたいという気持ちがあります。それで、 娘が自分のもとから羽ばたいていくのを防ぐため、無意識のうちに、その自主性を奪う行動に出てしまうのです。
 先ほどの事例であれば、母親たちは娘の失敗を見て、こう言うことでしょう。
「ほら、ごらん。お母さんの言うことを聞かないからそうなるのよ。最初から、私の言う通りにやっていれば、こんなことにはならなかったのよ」
 母親にそう言われると、娘は、気持ちの中ではしっくりこなくても、
「やっぱり、そうなんだ。母親の言うことに従っていたほうが、安全なんだ」
 と思うかもしれません。

 母親思いの「いい娘」になろうと、頑張ってしまう人たちがいます。
 母親を失望させたくない、自分は世話になったのだからと考えて、自分を殺して母親の意見に従います。そして我慢に我慢を重ねてパンパンに膨らんだ心が破裂して、 結局、母娘の関係がこじれてしまいます。
 けれども、どうしてそんな状態になってしまったのかがわかりません。実は、親娘ともに、自分たちの無意識の言動に気づいていないのです。
 このように、自分の本当の気持ちに気づかず、他者の意見を基準に判断や決定をし たり、他者の言うことに無条件に従ってしまうような生き方を、私は「他者中心」と 呼んでいます。

 次回でその解決策を考えていきたいと思います。

 

石原 加受子 (いしはら かずこ)

心理カウンセラー。
「自分中心心理学」を提唱する心理相談研究所オールイズワン代表。日本カウンセリング学会会員、日本学校メンタルヘルス学会会員、日本ヒーリングリラクセーション協会元理事、厚生労働省認定「健康・生きがいづくり」アドバイザー。 思考・感情・五感・イメージ・呼吸・声などをトータルにとらえた独自の心理学をもとに、性格改善、親子関係、対人関係、健康に関するセミナー、グループ・ワーク、カウンセリング、 講演等を行い、心が楽になる方法、自分の才能を活かす生き方を提案している。
『母と娘の「しんどい関係」を見直す本』(学研プラス)、『仕事・人間関係「もう限界!」と思ったとき読む本』(KADOKAWA)、『わずらわしい人間関係に悩むあなたが「もう、やめていい」32のこと』( 日本文芸社)、『金持ち体質と貧乏体質』(KKベストセラーズ)など著書多数。

 

作品紹介

母と娘の「しんどい関係」を見直す本

母親と娘が抱えるストレスの原因を解きほぐし、親子ともに「新たな人生」を歩むための工夫を人気カウンセラーが提案する。
定価:本体1,400円+税/学研プラス

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