自分の声を受け止めるところから コミュニケーションは始まる
浜田真実『9割の人が知らないプロの常識で説得力のある声をつくる』セレクション
声やコミュニケーションの本で、ここまで「聴くことの大切さ」をお伝えするのは、もしかしたら珍しいのかもしれません。
私は、子どもシェルターや心療内科のデイケアでボイストレーニングを行っていますが、小・中・高・大学でもボイストレーニングの授業を行いました。子育て中のお母さん、ビジネスパーソン、地域の高齢者の方々にも、ボイストレーニングを通してたくさんお会いしました。その中でいつも感じるのは、ちゃんと聴いてもらった経験が少なくて、自分の声や表現に不安を感じている人が、思った以上に多いということです。
コミュニケーションやスピーチは、経験を積んで慣れていくことで力が育まれますが、それ以前に、分析やジャッジをされずに、自分が心から発したことを、そのまま丸ごと受け止めてもらう経験が必要なのです。たったひとりの人でも構いません。誰かにちゃんと聴いてもらえたと感じられたら、人は自分を肯定できるようになり、次の一歩が踏み出せます。子どもにとって、周囲の大人の聴く力は必要不可欠なのです。
すでに大人になっている私たちは、自分で自分の声を受け止めるところから始めましょう。自分以外の人とのコミュニケーションを豊かで楽しいものにしたいのなら、その前に、自分自身との関係が豊かで楽しいものになっていないと難しいからです。
私が好きなアーティストで、エヴリン・グレニーという世界的なパーカッショニストがいます。彼女は二度もグラミー賞を受賞しているのですが、実は、八歳のときの病気が原因で、十二歳のときに聴力を失っています。
音楽が大好きだった彼女は、補聴器を付けて演奏していましたが、補聴器を外したところ、外から聴こえる音は減ったけれど、身体に感じられる音は増えることに気づきました。スティックを持ってドラムを叩くよりも、手でドラムに触れ、感じ、ドラムを叩きながら壁に触れ、そこで沸き起こる音の振動を身体全体で感じ取るトレーニングをつんだのです。
聴力を失っても、彼女が聴いている音の世界は豊かです。健常者のミュージシャンとのコラボレーションも、実に楽しそうです。
彼女は、「世界のすべてを感じたい。聴くことがすべて」だと語り、「聴き方」を伝えるために、演奏活動や講演をしながら世界中を周っています。
自由にならないものがあるからこそ、意識も高くなり、障害を乗り越える力が育ちます。声やコミュニケーションのコンプレックスも、あきらめなければ、突破口は必ず見つかります。コツは、楽しむこと。何度も何度も楽しんで、遊びのように繰り返すことで、必ず扉は開かれます。
あなたは、聴き取る力という素晴らしいツールがあることに気づきましたね。次は、あなたのピュアボイス(その人の本質が表れている、自然な輝きがある純粋な汚れのない声)を探しにいきます。あなたの本質を表す自然な声でアウトプットをするために、心も身体も存分に使います。リラックスしてスタートです。
――次回に続く。
(※この連載は毎週木曜日・全8回掲載予定です。次回は、8月17日掲載予定です。)
浜田 真実 (はまだ まみ)
ボイスバランストレーナー。マミィズボイススタイル主宰。 歌と朗読と言葉をつむぐ・まほろカンパニー代表。
勝新太郎氏主宰の「勝アカデミー」、TBS「緑山塾」などの俳優養成所を経て、テレビ、舞台、映画などに出演。1987年、シャンソン、カンツォーネを中心にしたレパートリーで歌手デビュー。東京都内のライブハウス、銀巴里、渋谷ジァンジァンなどにレギュラー出演する。2004年、心と身体をつなぐ総合ボイストレーニングクラス「マミィズボイススタイル」をオープン。呼吸法・心理学・歌・朗読・ダンスなどを取り入れた独自のボイストレーニングプログラムを考案。「ボイスバランスメイキング」「ケアボイスワーク」と名付けられたメソッドは、コミュニケーションと声を自由にし、心と身体を豊かに育むと、教育機関・ビジネス研修・福祉施設のデイケアプログラム・セミナー・講演などでも高い評価を得ている。
■マミィズボイススタイル
http://koetokokyu.com/
■まほろカンパニー
http://mahoro.jp.net/
作品紹介
9割の人が知らないプロの常識で説得力のある声をつくる
コミュニケーションに自信がつく自然な発声と話し方のコツ
声のプロは耳と目を上手に使って発声しています。少し勇気とプロのコツで声を磨き、声をコミュニケーションの武器にしましょう。
定価:1,400円+税/学研プラス