「自分には何かが足りない」というのは、はっきり言って、あなたの勝手な思い込みです。
「自分は、すでに十分足りている」と気づくこと。
　ここから、びっくりするような成長が始まります。

　少し僕自身の話をしてみましょう。

　僕もまた、多くの方々と同じく、長いこと「自己否定成長」にとらわれていました。
　できない、足りない、満たされない。まだまだ。
　だからもっともっと努力して、成長して、できるようになろう、足りるようになろう、満たされるようになろう、としていました。

　でもあるとき、この思考がガラリと変わった瞬間があったのです。

「あっ、自分はこれでいいんだ」――と。

　といっても、何かを成し遂げて「成長できた」と思えるレベルに達したから、そう思えるようになったわけではありません。

　それまでに３冊、本を出し、売り上げは総計５、６万部くらい。
　セミナーは、まあまあの埋まり具合。
　カウンセリングに来られる方も、まあまあの人数。
　まあ、可もなく不可もなく、ダメでもなく、食べるのには困らず、かといって、ものすごく裕福なわけでもなく、そこで満足してもいいような、そうともいえないような……。
　そんなレベルでした。
　でも、当然ですが、もっとすごい人はごまんといます。
　だから僕は、周囲を見渡し、自分より上の人と比べては「いや、こんなのじゃまだまだだ」「今のままではダメだ」「こんなぬるいのはダメだ」と、さらなる成長を目指しました。

　こうやって、周囲と自分を比較してがんばっていると、ときおり、ものすごい不安と焦燥感におそわれます。
　ふとした瞬間に、心の中にモヤモヤ～ッと黒いものが広がるんです。まるで陸も見えない、海の中を泳ぎつづけているような終わりのなさ。
　あなたにも、覚えがありませんか？　
　あるとき、その黒いものにやられすぎて、うわあ～っと落ちたことがありました。

　今のままではいけない。
　もっと成長しなくてはいけないのに、どうしたらいいんだ？？

　と同時に、こんなふうにも思いました。

　成長しなくてはと思うほど、がんばらなくちゃと思うほど、身近なことがなおざりになって、大切な人をちゃんと大切にできなくなっていて……。
　こんな状況は、どこかおかしくて、本末転倒ではないか？
　まだまだ、まだまだ、と思ってやってきたけれども、今の自分でも、そんなに悪くもない気もするし……。

　そんなこんなで、うわあ～っと落ちてから……、ほんの５分後（笑）。

　がんばってやってきて、今、こんなもの。
　……なら、こんなもので、もう、いいんじゃないか？
　と思ったわけです。
　これは、それまでの自己否定成長の考え方からすれば、とんでもない方向転換です。
　でも、「今の自分でいいことにしよう」「よくもないけど、そんなに否定するほど悪くもないぞ」と。そう思えた瞬間、急に気が楽になり、以降、仕事に対する姿勢、人生に対する姿勢が一気に緩みました。

　そして何が起こったかというと……。
　急に何もしていないのに本が売れ出し、がんばって営業活動をしなくても、セミナーは満席。
　各地へ出向かなくても、お客さんが各地から来てくださる。
　僕が、「成長したら手にできるもの」だと思っていたものが、どういうわけか、向こうからやってきました。
　それも、かつて自分が想像したこともないレベルで。
　こうして時間的、身体的余裕が生まれたのはもちろんのこと、経済的にも、成長しようとがんばっていたころより、ずっと豊かになりました。

　そうなのです。僕は、成長しようとするのをやめたとたん、いつの間にやら、大きく「成長」してしまっていたのです。

心屋仁之助  (こころや じんのすけ)