●大好きなケーキは譲れない
次に、「ひとりっ子はワガママだ」という色眼鏡について、考えてみましょう。
ひとりっ子は何でも独り占めできるから、きょうだいのように互いに譲り合う心が育たないだろう、という発想から来るものです。
あるいは、きょうだいの誰かがワガママなことをしたら、他のきょうだいが「ダメじゃん!」といさめるだろう、という発想もあるのかもしれません。
これもまた、完璧に甘い考えです。
好きなものが目のまえにあって「お兄ちゃん、食べて」とか「おまえが食べなよ」と譲り合うきょうだいは、フィクションならまだしも、現実社会ではまずあり得ません。嫌いなものならば、押しつけ合うかもしれませんが。
一方、自分本位なことをして、他のきょうだいからボカッと叩かれるというケースは、確かにあり得ます。
しかしそこには、ワガママを正そうという意図はありません。ワガママの結果として自分の権限や領分を侵されたから、怒っているのです。
つまり、「自分だけ大きなケーキを食べるなんて、ダメじゃないか」と諭すことが目的ではなく、「ぼくが食べられたかもしれないケーキ、よくも取ったな!」と怒ったために叩くのです。
このバトルが親の目の届かないところで行われたら、勝つのは上の子です。きょうだい同士でワガママをいさめ合うように期待していても、上の子のワガママし放題になりかねないのです。
●ルールとしての譲り合い
もともと人間というのは、譲り合う生き物ではありません。親のしつけが不可欠なのは、ひとりっ子もきょうだいっ子も変わりません。
もっとも、ひとりっ子は環境的に、他人とものを分け合う経験が少なくなります。そのせいで、友達と分け合うべきものを、自分では悪いとも思わずに独り占めしてしまう、というケースは大いにあり得ます。
そこでお母さんがすべきフォローは、譲り合いのルールを教えることです。
「さあ、このケーキ、お母さんと半分こしよう!」
「全部食べないで、お父さんに半分取っておいてね。すごく楽しみにしてたよ!」
こんなふうに、お母さんがきょうだいの代わりになることは簡単です。こうした工夫は、常日頃から行っておくといいでしょう。
あるいは、子どもの友達が家に来た際のおやつの時間に、
「みんなに同じ数ずつ分けてあげてね」
と、あえて子どもに総量を渡し、自分の手で他人と分け合う経験をさせてもいいでしょう。
和田 秀樹 (わだ ひでき)
1960年大阪府生まれ。精神科医・教育評論家。東京大学医学部卒。国際医療福祉大学大学院教授(臨床心理学専攻)、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。精神分析学(特に自己心理学)、集団精神療法学等を専門とする。受験アドバイザーとしても精力的に活動し、志望校別勉強法の通信教育・緑鐵受験指導ゼミナールを主宰。東京大学をはじめとする難関大学に挑戦する受験生を指導している。映画初監督作品『受験のシンデレラ』がモナコ国際映画祭最優秀作品賞を受賞するなど、文化面でも幅広く活躍中。
作品紹介
ひとりっ子の子育ては心配だらけに見えて、実はメリットが一杯です。「ひとりっ子でよかった!」と心の底から思える本。
定価:本体1,300円+税/学研プラス
バックナンバー
- 色眼鏡1 「ひとりっ子は友達作りが苦手」は本当?
- ひとりっ子への 「色眼鏡」に対抗する方法
- ひとりっ子を心配する前に、 まずやっておくべきこと
- 良いところもあれば、 悪いところもある
- 悩み3 親として経験が足りないのではないか
- 悩み2 甘やかしすぎていないか
- 悩み1「きょうだいがいなくてかわいそう」と言われる
- ひとりっ子でよかった!