●何より重要なのは、お母さんのフォロー
世の中には「ひとりっ子はこんな性格」という、「色眼鏡」が流布しています。その多くがマイナスイメージで語られることが多いため、ひとりっ子のお母さんは、「わが子もそうなりはしないか」と、どうしても過剰に反応してしまうようです。
その考え方が真実かどうかは後に確認していくとして、私がまず申し上げたいのは、ひとりっ子のお母さんには、そんな考え方に一喜一憂する前にやっておくべきことがあるということです。
重要なのは、もし子どもがマイナスの性格を持ちそうになったら、そうならないように、お母さんがフォローすることではないでしょうか。
私が観察する限り、ワガママだとか、ひ弱だといった「ひとりっ子だから」とされている性格は、多くの場合がひとりっ子の特質ではなく、親のフォロー不足が原因です。親が問題を放置しているため、子どもがそうなる確率が高まるのだと感じます。
「ひとりっ子だから、こうなってしまうかも」
などと心配をするよりも、自ら予防策を講じる方が、わが子にとってはよほど有益です。子どもは柔軟なもの。
親がその子に合った予防策を取れば、問題はかなり防げます。お母さんの力で予防できることは、数多くあるのです。
●発明王・エジソンを育てた賢母
その子に合った策を取るという点で、発明王トーマス・エジソンの母親ナンシー・エジソンは、ひとりっ子ママの模範と言えるかもしれません。
エジソンはきょうだいっ子(7人きょうだいの末っ子)ですが、他のきょうだいとは年が離れていたため、ひとりっ子のように育ちました。
彼には発達障害があったらしく、学校では立ち歩きばかりして授業に集中できなかったといいます。また、発音練習や単純な計算問題にも「なぜ?」と質問を連発して授業を混乱させ、教師に「腐れ頭!」と罵倒されたこともあるそうです。ディスレクシア(識字障害)で教科書を読めなかったという説もあります。
発達障害が認知されていない時代のことで、彼は放校されてしまうのですが、そのときに、「私が教えてみせます」とエジソンの教育を引き受けたのが、母ナンシーでした。
●ナンシーの読み聞かせ
当時の教育は教科書の暗記が主ですが、エジソンは長く集中することができませんでした。しかし教育しないことには、エジソンは本当に「腐れ頭」になってしまいます。
そこでナンシーは、彼に本を読み聞かせることにしました。
集中できる間は読み聞かせをし、エジソンが立ち歩きをし始めたら、放っておきます。また、戻ってきたら、
「戻ってきて賢い子ね。じゃあ今度は、別の話をしてあげるわ」
ナンシーは、「集中できない」というエジソンの性格について、「好奇心が次々と移るということであり、長所なのだ」
と、とらえ直していました。そこで、さまざまなテーマの本を取っかえ引っかえ読み聞かせたのです。
そして、「本を読めない」という問題については、「読み聞かせでも覚えることはできるのだから、そっちを行えばいい」と考えました。
こうして、教科書を読めず、すぐに立ち歩きをしてしまうエジソンは、知的好奇心の塊に変わり、将来の発明王となる基礎が作られました。
和田 秀樹 (わだ ひでき)
1960年大阪府生まれ。精神科医・教育評論家。東京大学医学部卒。国際医療福祉大学大学院教授(臨床心理学専攻)、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。精神分析学(特に自己心理学)、集団精神療法学等を専門とする。受験アドバイザーとしても精力的に活動し、志望校別勉強法の通信教育・緑鐵受験指導ゼミナールを主宰。東京大学をはじめとする難関大学に挑戦する受験生を指導している。映画初監督作品『受験のシンデレラ』がモナコ国際映画祭最優秀作品賞を受賞するなど、文化面でも幅広く活躍中。
作品紹介
ひとりっ子の子育ては心配だらけに見えて、実はメリットが一杯です。「ひとりっ子でよかった!」と心の底から思える本。
定価:本体1,300円+税/学研プラス
バックナンバー
- 色眼鏡2 「ひとりっ子はワガママ」は本当?
- 色眼鏡1 「ひとりっ子は友達作りが苦手」は本当?
- ひとりっ子への 「色眼鏡」に対抗する方法
- 良いところもあれば、 悪いところもある
- 悩み3 親として経験が足りないのではないか
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